5.サカナの王/王国の崩壊
去年公開された岡本喜八監督の『激動の昭和史 沖縄決戦』という映画のラストシーンですよ。
「こいつを
と、帽子屋が言った。エンジンに
「どのくらいかかる」
「総動員して、四、五ヶ月くらいかな――どうせ金も無いんだろ」
となると、今から考えて冬の頭くらいか。
「修理の経験は?」
「旧式のルノーFTをオーバーホールした事が。ガレージの奥に布を被って眠ってるよ。まあ技術的には何とかなるんじゃない?」
「趣味のコレクションって訳か」
それも訓練用に貸せ、って言うんだろ? 帽子屋が愚痴った。
「こいつはひとつ、大きな貸しだぜ有栖。何せ僕はこれから君の甥か姪となる日向アポロの揺り籠を
有栖は眉を顰めると言った。
「まだ僕たちは物語の時間軸上、アポロが
「あ、そうだっけ。そのシークエンスの元ネタであるサミュエル・フラー監督の『最前線物語』も八〇年公開だしな。あの
「何にせよ。しっかり頼むぜ」
帽子屋にはお姉ちゃんが妊娠したって事を話したっけ? まあどうでもいい事か。僕が知っているなら奴も知っていて当然なのだから。
この後の展開としては、有栖は帽子屋に戦車を修理させ、それを自走砲として運用する或いは単に、銃弾や砲弾を防ぐ強固な楯として活用する。そのように考えています。閉じられた世界をより確固たるものにする為ですね。オリジナルのシャーマン戦車から副操縦席がオミットされそこには旧い17ポンド砲の砲弾が置かれ、車長、操縦手、装填手、砲手の四名で運用するようになっている。ハッチのブローニング重機関銃と同軸機銃は持ち去られたようだった。
「同軸は欲しいな」
「大砲が撃てりゃいいんじゃないの?」
「同軸は曳光弾の軌跡で照準代わりや試し撃ち、って意味もあるんだよ。どうせ照準器の使い方も分からないだろ」
そりゃ、そうだ。僕らは訓練された兵隊でもないし説明書の文字を読むほどの学も無い。エレム・クリモフ監督の『炎628』で牛に向かって曳光弾の実弾を乱射するシーンを再生してください。
“
(ハイヤセンスルユイヤナ)”
一方そのころ
「オズは北部の生まれだから知らないか。中南部にはクジラ信仰があるんだ」
「
「あいつって結局どこの生まれなんだ? 台湾? 越南?」
「普通話もベトナム語も話すし。たぶん英語も」
「
「そりゃあ
「クジラって初めて見たけど。そういやどうして連れてきたの?」
「いや、埋葬しようかと」
「
アレハンドロ・ホドロフスキー。一昨年公開されたメキシコ映画。あの映画にも
「それを言うなら『血は立ったまま眠っている』だろ」
「今、誰に?」
「観客だよ」
「ああ」
「鯨肉は牛肉などの近い味を持ち、それでいて馬肉の赤身のように脂肪分を少ない。部位にもよるが。新鮮なら刺身で。日本やフィリピンで作られる燻製、塩漬、干し肉にすれば日持ちもするだろう。鯨骨は砕いて肥料に出来るし、鯨髭はその弾力性から色んな使い道がある。
それに? 三人は次の言葉を待った。待つより他に選択肢が与えられていないのだ。
「餓鬼どもも血肉に飢えてる。最後に食った肉は猿粥以来だ。軍事費が財政を圧迫したので糧食は採集や魚に畑頼み。夏も本格化する頃だ、名前にうは付かないが精を付けておくのが良いんじゃないか」
有栖の言葉はほとんどがどこかで得た知識の羅列であり底が浅いものだったが表面的には魅力的だった。要点は、
狩猟隊を結成しましょう。ピギーの眼鏡で火を起こそう。焦点を合わせ実像を結ぶ為に炎上する。鯨の屍体の濁った眼差しに、蠅がぶんぶん唸っている。赤い金魚は奇形のフナは、実は塗装された偽物であり、ポリ塩化ビニルの袋を振ると水中に赤く霧散して
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