第2話細道の先に

 そもそも、俺がどうして彼女の生徒手帳なんか預かる羽目になったのか。すべては、昨日の放課後に遡る。

 授業を終えた俺は、けだるそうに、駅の方へと歩いていた。部活の時間の真っ最中なのか、俺と同じ高校生はまばらだ。自慢することではないが、俺は部活には入っていない。全く入る気がないというわけではないが、これといってやりたい部活がなかったからだ。

 中学の時は半ば強制的にどこかの部活に入ることになっていたから、バスケ部に所属していた。背の順で並ぶと後ろから三番目ぐらいだったこともあり、そこそこ活躍はできた。とはいえ、さほど強い部ではなかったから、最後の大会で地方大会進出一歩手前まで勝ち進むのが精いっぱいだったが。


 このままバスケ部を続けてもいいかと思ったが、俺自身、そこまで熱中してバスケに取り組んでいたわけではない。強制的に入る規則だから、特段好きでもない部活に入っているというスタンスは崩すことがなかったのだ。

 高校に入って、部活動の種類が増えたことで、新たに別の競技に挑戦しようとも思った。が、思っただけで行動には移していない。それが、現時点の俺へと至る要因だ。


 この日も俺は、さっさと家に帰ってゲームでもしようかと考えていた。宿題はもちろん、予習や復習も怠らないなんてことはない。勉強に真面目に取り組む性質じゃないことは、自分でもよく分かっていた。要するに、家に帰ったとしても暇なのだ。


 だから、あの時の俺は、ほんの暇つぶしでもできないかなと、軽い気持ちで石ころを蹴飛ばしていたのだ。別にサッカーをやっていたわけでもないので、石ころはてんで見当違いの方向にばかり転がっていく。しばらくは律儀に追いかけていたが、やがてそれもばからしくなった。

 俺は立ち止まり、周囲に人気がないのを確認すると、石ころを思い切り蹴飛ばした。


 当たり具合が悪かったのか、コンクリートの路肩へと吸い込まれていき、やがて、塀の壁に反射して細長い路地へと侵入していった。そこは、清川高校の生徒はもちろん、ここらに住んでいる人でもめったに使わなそうな細道であった。通学路として何度かこの付近を通っているので、存在自体は知っていた。けれども、そこに道があるというぐらいの認識でしかなかった。


 俺は、相当暇だったのであろう。その先にあるものに興味を抱いてしまった。


 人ひとりぐらいなら難なく通ることのできる道幅の一本道がずっと続いていた。そもそも、民家と民家の間にこんな細道があるという時点で不可思議と思うべきであった。建築時に設計ミスをしたのか、あるいは意図的に作られたのか。それは過去にタイムスリップするとかしないと分からない。

 そこを通り抜けると雪国であった。ならば、名作文学っぽいが、実際は空地になっていた。そこから先は裏通りになっていて、余程のことがなければ、こんなところに人が立ち入ることはないだろう。


 期待に胸を膨らませて侵入したものの、大した収穫はなかった。俺は肩を落とし、細道を引き返そうと回れ右をした。


 途端、背中に妙な悪寒を感じた。今まで、そこには俺以外の何者も存在していなかったはずだ。なのに、いつのまにやら、確固たる存在がそこにあるのだ。

 心霊現象を体験するにはまだ時間が早すぎる。いや、近頃の幽霊は時間なんてお構いなしに出現するのか。

 そして、こういう場合、振り向いたらろくな目に遭わないというのは、怪談噺の鉄則だ。振り向いた途端に化け物に襲われる。いや、そんな非現実的なことがあってたまるか。


 悲しきかな、人間の性というべきか。俺は、怖いもの見たさで、そのまま振り返ってしまったのである。


 俺は激しく後悔した。まさしく、予想した通りの「者」と対面することとなったのだ。

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