人魚の森

「今回で高橋留美子作品を取り上げるのも一旦終わりかな」


「まだ1ポンドの福音とかもあるのですがそれは」


「うん、でもあんまり続くとうんざりされるでしょう?」


「え?このエッセイ読者の事を考えていたっけ?」


「うーん、考えてないかも」


「単純に1ポンドの福音は語るほどの情熱がないんじゃろ?」


「……かもね」


「話を戻すとこの作品は伝奇モノです」


「ギャグのないシリアスな作品なんだよね」


「結構救いのない系のね」


「ギャグを書ける人はシリアスも上手いって言う人がいたけど高橋先生はそれにピッタリ当てはまっていると思う」


「話を簡単に説明すると人魚の肉を食べた主人公が死ねない運命を背負いながら同じ仲間の少女と一緒に生き延びる話」


「不老不死の人魚の肉を巡って人間の欲がもろに浮き彫りになるんだよね」


「それで仲間の少女に出会うまで主人公はひとりであちこち放浪してるんだっけ」


「後、人魚の肉はすごい毒で合う人以外は食べたら死ぬか化物になってしまう」


「誰かのために人魚の肉を食べさせようとして結局不幸になるとか」


「主人公達も不老不死になるだけで力が強くなるとか異能力がある訳じゃないからしょっちゅうピンチになったり殺されたり……」


「バトル漫画じゃないからねぇ」


「バトル要素はあるんだけどね」


「不老不死になりそこねた人達がかなりグロテスクでホラーなんだよね」


「テーマも重いし、ホラーだし、どうせ漫画原作を実写化するなら人魚シリーズを実写化すればいいのにって思うなぁ」


「いや、アニメで十分でしょ」


「アニメになったのは知ってたけど見た事はないんだよ。ネットに転がってるのでも時間がある時に見てこようかな」


「そこはせめてレンタルで見ようとか言おうよ……」


 今日取り上げるのは人魚の森です。

 シリアスめの高橋留美子作品。このジャンルも彼女は非凡な才能があるんですよね。ただただ救いがないホラーな作品。いや、全然救いがないと言う訳でもないけど。


 この作品の人魚って世間で言われているイメージとかけ離れているんです。そもそも日本のの人魚の話がベースだからでしょうか?華やかなイメージは一切ありません。

 作中にも人魚は出て来ますけど普段は老婆の姿をしていたり、人間の姿なんです。

 そんな人魚は人魚の肉を食べて不老不死になった人に肉を食べて若返ります。怖いですねえ。ホラーですねえ。不老不死になっても楽じゃないんですナ。


 人魚に肉を食べると不老不死になる。その不老不死を巡る話。

 不老不死は人類の永遠のテーマなので人の欲を絡ませやすいんでしょうね。


 不老不死と言っても弱点がちゃんとあって例えば首を切り落とすと死ぬ訳ですよ。だから作中で同じ不老不死の存在が敵に回ると首の切り落としバトルになるんです。

色々と観念した敵が自殺する描写もあります。焼かれたり特殊な毒でも死ぬみたいなので。


 人魚に肉を食べてうまくいかない場合、死ぬかなりそこないになります。なりそこないの姿がもうバケモノなんですよ。怖い怖い。理性も失ってますしね。

 作中でも沢山のなりそこないが登場して主人公を苦しめるのですな。


 人魚シリーズは色んな時代の人魚に関わる話がオムニバスに展開されていきます。

 愛憎入り交じった業の深い欲望の果てに迎えるのは悲しい結末が殆どで、気の触れた人も登場しますし、弱い人は虐げられますし、生死を扱った作品なので結構あっけなく人が死にます。耐性がない人は読むのがキツイかも知れません。


 けれどそれらを補って余りある魅力がこの作品にはあると思います。主人公コンビはまともな人ですしね。不老不死の存在を通して生死を考える作品となっています。ぜひ読んでもらいたい作品のひとつです。

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