27 堕天使/Our Angel was Rising

堕天使/Our Angel was Rising


 つまらぬ喧嘩で妹は死んだ

 錆びたナイフで胸を刺されて死んだ

 駆け寄った姉は「どうしてわたしじゃなかったんだ!」と咽び泣いた

 その声がいつまでもストリートに響き渡った

 底辺だったから仕方がないが、この国はかつてこんな風じゃなかった

 けれども姉妹はそのことを知らない

 生まれてからの日常しか知らない

 汚れを普通と感じることしか知らない

 そして胸をナイフで深く刺されれば人が死ぬと云うことは

 幼い頃から知っている


 界隈に舞い降りた天使は見た

 沈んだ瞳でその光景を見た

 揺らいだ空気は「わおおおん、うわおん、わおうおん!」と伝わりつつ

 無関心な傍観者たちの心を揺さ振った

 神が見放したから当然だが、天使は残って堕天使と揶揄された

 けれども天使にはどうでも良いのだ

 天使には人の心がわからない

 せいぜい、その振幅が感じられるだけだ

 けれど涙の出ない構造である天使の目は何故か濡れる

 神と離れてからのことだ


 涙の枯れた姉は感じていた

 涙の枯れる前から感じていた

 頬を打つ風は「おまえは妹ではないのだ!」と語りかけて

 けれどもその声は姉の耳には届かなかった

 天使と人には同じ光景が、まるで違ったものに感じられるのだ

 けれども同調するところはあった

 深く深い宇宙の最果ての地で

 人の心と天使の夢が交わるのだ

 だから姉はその瞬間、胸の奥に微かな救いを感じ

 生きる希望も生まれるのだ

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