第20話 まだ終わっとらんのじゃ

父の実家は、あの米軍の空軍基地のある岩国です。コミックの「島耕作シリーズ」の故郷と同じです。叔父が実家を守っています。(現在は、亡くなられました)そこの屋敷というのが山奥の石垣を組んだ上に建っており、まるで小さな城のような所です。


元近衛兵というのが自慢の叔父さんは、「兎に角メチャメチャ怖いのです!」近衛兵というのは、皇居を守る兵です。山口県からは、比較的多く召集されていますが、それでも希少だったようです。それが自慢だったわけです。これが陛下から頂いた**とか、耳にタコができるほど聞かされるわけです。


その頃は、みかんの栽培を大々的にされていた。


オジ

 「家の床下にある38歩兵銃見たか!」

オレ

 「うん」

オジ

 「あれは駐在さんに言うちゃいかんぞ」

オレ

 「うん、わかったって」

 (ほとんど朽ち果ててるやないか!)

オジ

 「蔵にも刀やら鎧があるがあれは使えん」

オレ

 (何に使うつもりや!)


そんなある日のこと、南岩国の米軍基地の海兵隊員がチャリンコに乗って来ました。目を凝らして見ると、みかんを1、2個程もぎ取った。年代ものの旧日本軍仕様の双眼鏡で見張っていた叔父は、


突然、

「こぉぅ~ら~~~!」


と叫ぶなり


「馬引け~~~!」


・・・・


・・・・


誰もいないもんで、しかたなく自分で走るなり、本当に馬に乗って追いかけて行った。


(家族一同、呆然!)


馬もちゃんといたのです。

この馬は、私のおじいちゃんが満州事変では、大陸まで行っていたという馬ですが、当時でも、それなりの年齢になっていたと思います。


オバ

 「なんや鎌持っていったで!」


その剣幕に慌てて海兵隊と思われる連中は、逃げ出して行った。しばらくして・・・


「パッコパッコ・・」

と凱旋!


オバ

 「あんた!いいかげんにしとかんと」

オジ

 「フン、まだ終わっとらんのじゃ!」

オレ

 (もしかして戦争が・・か?)


翌日は、米軍の逆襲である。ヘリの音がしたと思って表に出てみると、家の上空すれすれをホバリング!海兵隊員は、昨日の仕返しなのだろうが、いわゆるジョークな部分というのは、私も解った。なぜなら、手を振れば、笑って返してくれるからです。しかし洗濯物は、飛ぶわ!砂埃で台風状態!さすがのオジもどうしようもない。従兄弟の話だと最近は、毎週これの繰り返しなんだそうだ。相手は、アメリカ人独特もジョークもあるような気もするが、オジさんは、結構大真面目なのだ!


オジ

 「進軍ラッパを吹け!」


もうわけわからんが、


オレ

 「タンカタンカタ~~~~~ン」

オジ

 「あほ!そりゃ海軍じゃ」


(オレの親父は海軍工廠で九七艦攻を整備していたため、海軍の進軍ラッパメロディは口伝えで知っていた。)


オレ

 「あっそうか、トテチテタ~トットコ」


ってな調子で

かなりキワドイ戦争ゴッコなのです。


後日その叔父が亡くなった葬儀の時は、叔父の息子(私の従妹だが)が岩国基地に務めていた関係で海兵隊の偉いさんが海兵隊の軍服姿で参列されていたのを覚えています。その人がこのエピソードを知っていたのかどうかは、わかりません。


その頃からアメリカ文化って大らかで単純でイイなぁという感覚を持っていました。

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