闇の皇太子 二次創作

けろよん

第1話 闇の皇太子

「安いよ。安いよー」


 人通りの疎らな商店街に少年の声が響き渡る。

 天神后(てんじん こう)は闇皇の一番の後継者だ。今日は友達に頼まれて八百屋の手伝いをしていた。


「へい、らっしゃい、らっしゃい」

「兄さん何やってるの?」


 そこに主神言(しゅしん ことい)がやってきた。彼は可愛い后の弟分だ。

 すっきりした顔立ちの優しい大人びた青年に見えるが、彼はまだ中学生だ。


「友達に頼まれて手伝いをしているんだ。言も何か買っていくか?」

「僕はいいよ。兄さんにそんなことをさせる友達なんて死ねばいいのに。兄さんを好きにしていいのは僕だけなんだ」

「ん? 何か言ったか?」

「ううん、何も言ってないよ」

「そうか? もっと大きな声ではきはき喋らないと女の子にもてないぞ。ほら、大根もってけ」

「いいよ。別にいらないし。僕は女の子なんかにもてなくても」

「お前にこれを食べて元気になって欲しいんだ。俺もお前が来てくれて元気になれたしな!」

「兄さん、そんなに僕のことを」

「おう!」

「改めて心に刻んだよ。この大根のように必ず兄さんも僕の物にしてみせる」

「敵と慣れあうのは感心しませんね」


 そこに安倍清明(あべの せいめい)が現れた。


「あなたを守るこちらの身にもなっていただきたいものです」

「ゲッ、現れやがったな」


 守ると言っているが、后は清明をただのうさんくさい男だとしか思っていない。


「来たなら何か買っていけよ」

「やれやれ、それが客に対する店員の態度なんですかね」

「くっ、こいつやっぱりむかつく。何をお探しでしょうか、お客様」

「そうですね。では、そちらのキャベツを一玉いただきましょうか」

「こちらのキャベツですね」

「いえ、やっぱりそちらの人参にいたしましょう」

「どっちだよ!」

「人参だと言っているんですよ。頭悪いですね」

「くっ、ほら持ってけよ!」


 清明に人参を渡す后。遊ばれているみたいで気分が良くない。

 事実遊ばれていたのだが。

 そこに後鬼瑞宮(ごき みずみや)が現れた。


「よう、后。頑張ってるな」

「おう、ぼちぼちな。瑞宮は妹は見つかったのか?」

「妹?」


 瑞宮は迷子になった妹を探してくると言って行方をくらましていた。

 だが、それは愚問だっただろう。

 瑞宮は小さな女の子を連れていた。見れば一目瞭然のことだったのだから。

 それがフランス人形のような可愛い少女だったとは意外だったが。

 后は優しいお兄さんの態度でその少女、前鬼楔(ぜんき くさび)に話しかけた。


「もうお兄さんとはぐれちゃ駄目だぞ」

「死ねばいいのに」

「駄目だよ、楔。兄さんは僕の物なんだから」

「言様を惑わせる后なんて死ねばいいのに」


 どうも兄妹揃ってツンデレのようだ。后は軽く笑って流す。

 そこに青龍甘雨(せいりゅう かんう)が和服、チャラ男、姉ちゃんの三人のお供を連れてやってきた。


「怪我はなかったか? 后」

「おう、八百屋で怪我なんかしないぜ」

「これだけ敵に囲まれて呑気にしてられるのはある種の才能ですね」

「まだいたのか、清明」

「あなたを守る仕事さえ無ければ帰ってテレビでも見ているんですけどね」


 そう言う清明にお供のケバい兄ちゃんと和服の美形が挨拶をする。


「状況はどうですか? 清明様」

「見ての通り一触即発ですよ」

「では、ここからは我々も警備に当たりましょう」

「いいですが、こちらから手を出すのは禁止ですからね」


 清明がそう言うと、ナイスバディの姉ちゃんが告げてきた。


「そろそろ日が暮れます。すぐに勝負を付けないと闇鬼の有利になるかと」

「おいおい、ここで喧嘩なんか止めてくれよ」

「僕には兄さんに迷惑を掛ける気なんてないよ。ここには人目もあるしね」

「私も面倒な戦いをしなくて済むならそれに越したことはありませんね」


 言が清明に喧嘩を売るような馬鹿な奴でなくて助かった。

 本当に可愛くて好きになれる弟だった。

 后が安堵しているとそこに役小角(えんの おづぬ)が現れた。

 彼が使役する大きなゴーレムのような土人形を連れて。

 正直邪魔だからどっか行ってほしいと思っていると、彼はその言葉を口にした。


「言様、お迎えにあがりました。そろそろ帰りましょう」

「もうこんな時間か。兄さんといるとあっという間に時間が過ぎていってしまうね。もっと一緒にいたいけど今日は帰ることにするよ」

「またな、言」

「また、今度はいっぱい遊ぼうね」

「おう」


 言は仲間を連れて爽やかな笑顔を残して去って行った。


「戦いは回避されましたね。毎回こうだと助かるのですが」

「お前も早く帰れよ」

「清明様に対するその口の利き方はなんだ」


 突っかかってくる朱雀華(すざく はなやぎ)に后が面倒だなあと思っていると、ナイスバディの水終(うみ)が口を挟んできた。


「まあまあ、華は清明様と后皇子の仲の良さが羨ましいのです」

「別に仲なんて良くないし」

 と思って清明の方を見ると、彼はにこやかな子供を見るように見守っていた。


「本当に嫌味な奴!」

「フフフ、ではお言葉に甘えて帰ることにしますか。今日はもう戦いも無いようですし。お仕事頑張ってください」

「おう、言われなくても頑張るぜ」

「では、またホテルで会いましょう」

「どういう意味だよ!」


 清明はそれには答えず去って行った。


「疲れた……」


 だが、仕事は続けなければならない。

 后は張り切って精を出していくのだった。

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