妹の骨を埋める

@kanzaki_tetsuo

第1話

こんな夢を見た。




冬の朝のことだった。

実家の本堂にいる、かなり寒い。父がいて、座布団がいくつも並べてある。

外には朝の日差しがやわらかく降り注ぎ、気持ちよく木々を照らしている。

父は法事の支度をしていて、弟もそれを手伝っている。これから誰かの法事があるのだ。

ぼうっと立っている僕にしびれを切らした父は「おう、もうすぐ法事じゃ、早く着替えて来い」と声をかける。しかしその声は不思議と穏やかなものだった。


白衣を着て帯を締め、その上から黒衣をまとい袈裟を身に着ける。

袈裟を着けるといつも気持ちが切り替わるのだ。

着替えた僕は本堂に向かい、座布団へ座る。

本堂には誰の家族も来ていない、これから誰の法事があるのだろうか。


父は鐘を鳴らす、見渡しても未だに一人も来ていない。

がらんどうの空間に鐘の重い音が響き渡る。

冬の朝と言うこともあって、その音はよく響いた。

胸が締め付けられる思いがする。


その瞬間にふと、火葬場の記憶が呼び起された。

僕は、死んだような気持ちで死んだ人の骨を拾い上げ、骨壺にしまっていた。

家族はみな泣いていた、僕は無表情だった。



妹だと思った。僕が小学生の頃に生まれた妹。

未熟児で生まれて病弱で、10歳になる前に亡くなってしまった。

青々とした芝生を走り回った記憶、おもちゃを取り合ってしょっちゅうケンカをした、一緒に犬から田んぼのあぜ道を逃げまわった、夜に家の中で一緒に笑い転げた。

そのことをどうして忘れていたのだろう、僕はなんて薄情なのだろう。


妹の骨を拾い上げたとき、まだそれは熱かった。

その熱は僕へと伝わり、胸を締め付けた。

でも何も言えなかった、泣くことも出来なかった。

大好きだったのに。

本当に大好きだったのに、どうして忘れていたのだろう。


振り返ると母が声を押し殺して泣いている。

妹が亡くなった後に生まれた弟は、全然ピンと来ていないようだ。

父親の目に、かすかに光るものを認めた。

父もまた泣いているのだ。

そのことに気付くと同時に、僕は大きな声を出して泣いた。

冬のとても寒い朝だった。




終わり


※僕に妹はいません

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