第六幕
「どうする? このまま乗っていくかい?」 ヒサシゲは、油で汚れた手を手ぬぐいで拭いながら尋ねた。
「えっ、いいんですか?」
「ああ、かまわないよ」
「じゃ、そうします」
ヒサシゲが腕時計をチラリと見る。 短い針は十二時をさそうとしていた。
「そろそろお昼だね。 どうする? ご飯、食べていくかい?」
「あ、いえ、せっかくなんですけれど、これで失礼します。
「そうかい。 それじゃ、運転には十分、気を付けて帰るんだよ」
「はい、わかりました。 今日は、ありがとうございました」
カイトは、ヒサシゲにペコリと頭を下げながら礼を言うと、
去り際にもう一度ヒサシゲにペコリと頭を下げる。
そして、笑顔で見送ってくれているヒサシゲの元を後にした。
町の山側に沿って舗装された石畳の車道を、蒸気機関の三輪車や四輪車に交じって軽快に走行する。
夏の太陽に照らされた山々の緑葉は、活き活きと輝いていた。
町中に入ると、ちょうど昼時のせいもあって、あちこちの飲食店が人々で賑わっていた。
そして、貿易の中継地点でもあるので様々な商品が蒸気船で運ばれてくる。
そのせいもあって一年中、町中は人々で賑わっていた。
さらに一年の中でもっとも
その昔、この海域一帯で不気味な現象が起きた。
ある夜、水平線にポツリと不気味な炎が出現した。
その炎が日に日に増えていき水平線が炎で覆われた。
そんな不気味な現象が起きた日から突然魚が全く取れない日々が続いた。
まるで海から魚が消えてしまったかのように。
漁師達は、海の神様がお怒りになったせいだと思った。
人々は、水平線に浮かぶ多数の炎を海の神様、
そこで人々は
供物として捧げられた巫女は、一人小さな小舟に乗せられると炎が灯る水平線へと消えて行った。
すると不気味な現象は起こらなくなり、魚も海に帰って来たという。
この不気味な現象は度々起こり、その度に巫女は供物として捧げられた。
そして、長い長い年月が経った今では
この祭事の最大行事といえば、毎年
この祭事は
鳥居の近くに
眼鏡を取り、手や顔についた油汚れを井戸水で洗い落とそうとした。
「やっぱり冷水じゃ油汚れは中々おちないな」
母家の離れにある風呂場のお湯で油汚れを洗い落とそうと思い立ち、風呂場へと向かう。
引き戸を開いて風呂場の脱衣所へ入ろうとした、その時だった。
「へ?」 カイトは、間が抜けたような声と同時に体が硬直し思考が止まってしまった。
視界に映るのは、濡れた長い黒髪に蒸気する艶のある白い肌、ほのかに火照った顔からは滴がしたたり落ちている。
そこには一糸まとわぬ女の人が立っていた。
綺麗な
二人の視線が合う。
そして、境内に悲鳴が響き渡った。
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