第ニ幕

 「御馳走様です」  カイトは朝食を食べ終え、空になった食器を重ねて台所に持って行った。

 「はい、御粗末様でした」  ヒビキがニコリと笑みを浮かべながら食器を受け取る。

 藺草いぐさが香る畳が敷き詰められた居間で、すでに朝食を食べ終えていたシグレがキセル煙草を吸いながら新聞を読んでいた。

 「おい、ヒビキ。  お茶いれてくれ、お茶。  熱々のシッブ~いヤツを」 

 「はいはい。  ちょっと待って、洗い物先に済ませてからね」  

 この会話のやり取りを毎朝目にするカイトは、なぜか顔がほころんでしまう。

 何故だろうか?

 一度ヒビキさんに代わって、お茶を淹れた事があるけれど、シグレさんの「不味い」の一言で僕のお茶いれ担当は終わってしまった。

 ヒビキさんがいれてくれたお茶と、僕がいれたお茶を飲み比べてみたけど、やはりヒビキさんのいれてくれたお茶の方が断然美味しかった。  不思議だ。

 「カイト君も飲むでしょ。  お茶」  洗い物を済ましたヒビキが尋ねる。

 「あっ、あの、僕、これからカラクリ屋に行こうと思ってて……」  カイトが申し訳なさそうに答えた。

 「それって、町外れにあるカラクリ屋さんでしょ?  ちょっと風変わりな店主さんがやってる」  

 「えっ、う~ん……風変わりというか、なんというか……まぁ、ちょっと変わった方かもしれないですけど心配ないですよ」

 「なんでぃ、お前とコレでもしようかと思ってたのによ」  シグレが将棋の駒を指す仕草をする。

 「すみません。  今日、頼んでいた部品が届くはずなんです」 

 「ああ、もしかして、この前話してた、カイト君が造ってるって言ってた馬移駆バイク?」  ヒビキが思い出したように問うた。

 「はい、足らなかった部品が今日届くはずなんです。  僕は、ほとんど手伝っているだけですけどね」 

 「じゃ、気をつけて行きなさいね」

 「はい。 じゃ、行ってきます」  カイトは席を立ち、出かける準備を済ませ玄関へと向かった。

 「カイト君、忘れてるわよ」  見送りに来たヒビキが自分の目元に指をさす。

 「おっと!  忘れてた。  なかなか習慣づかなくて」  カイトは洗面所へと向かった。

 洗面所に設置されている棚の扉を開き、眼鏡を取り出すと洗面鏡に向かって自分の顔を見つめた。

 鏡に映るのは見慣れた自分の顔に不自然な深紅の瞳。  

 深紅の瞳で自分の顔をジっと見つめる。

 「カイト君。  何、ボ~っとしているの?  大丈夫?」  ヒビキが、カイトの背後から声をかける。

 「あっ! はい、大丈夫です」と、カイトは眼鏡をかけた、すると深紅の瞳が眼鏡越しから見ると黒い瞳に変化した。

 「じゃ、行ってきます」と、カイトは玄関口でヒビキに挨拶を済ませると出かけて行った。 

 「いってらっしゃい」と、カイトを見送ったヒビキは、考え深い表情で立っていた。

 「なんじゃい、突っ立ったままで」  便所から出ていたシグレが不思議そうに尋ねる。

 「大丈夫かしら、カイト君」 

 「まったく、お前は、ほんとぉ~に心配性な奴じゃなぁ」 

 「だって……」

 「そんなに心配せんでもええわい」

 「……うん」

 「あいつが此処に住むようになって、そろそろ二年近く経つかのぉ。  時間ときが経つのは早いもんじゃて」

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