鉄のたびするところ

@chatte-sachi

第1話

 暗い宇宙を金属の塊が飛んでいました。

 暗いといっても何も見えないわけではありません。遠くに星がたくさん光っていますし、金属の塊が飛んできた方向には太陽が輝いています。


 そして、金属の塊が向かう先には巨大な惑星が浮かび、太陽の光をその大きな体に受けて周囲を照らしていました。太陽系で一番大きな惑星、木星です。


 この金属の塊は、太陽系のあちこちに浮かんでいるありふれた塵や岩石とは違っていました。それは小惑星探査機でした。探査機には、小惑星の砂や石を採取して地球に持って帰るという使命があります。


 この探査機は、何年もかけて地球から木星の近くまでやってきました。ですが、目的の小惑星はもっとずっと先にありますし、その小惑星に到着しても、砂や石を採取してまた地球に帰らなくてはいけませんから、旅はまだまだ続きます。


 探査機には人は乗っていません。

 もし人が乗っていたとしたら、その人は地球からは見えない木星の薄い輪を見ることができたでしょう。


 今、人の代わりに木星の輪を眺めているのは探査機の部品たちです。

 中でも鉄製のアームにとっては、これは小惑星の砂や石を掴むためのものですが、木星のそばを通るのは初めてのことではありませんでした。ずっと以前にも木星の傍を通り、今とは少し違った形の輪を眺めたことがあるのです。


 それははるかな昔のことです。人間の生活している感覚からすると永久と言えるほどに長い長い時間を隔てた過去です。

 しかし、いま木星の輪を眺めている鉄製のアームは、その長い時間を実際に旅してきたのでした。


 どういう経緯で彼が2度も木星の輪を眺めることになったのかを説明するには、少し時間を遡らなくてはいけません。それは人間の尺度で言えば何十億年かの昔のことです。

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