土田君のとある月火水木金土

夜鷹亜目

キラキラマンデー

「あー、あー。全校生徒の皆さん、おはようございます。七月九日月曜日、午前八時。総目高校放送委員会、朝の放送の時間です。

 気象庁発表ではこれからはじめじめとした梅雨も明け、夏本番です。茹だるような暑さのため、やる気と根気が削がれそうな日々が続くとは思いますが、皆さんも待ち焦がれているであろう夏休みまであと二週間を切りました。かく言う私自身、夏休みを心待ちにしています。一ヶ月超に及ぶ夏休み、皆さんはどのように過ごされますか? アルバイト、学業、部活、遊び、後はクーラーの効いた部屋でポテチを食べながらテレビゲームをするなんていうのも良いですよね。怠惰な日常万歳ですっ。

 夏休みはイベントが目白押しです。夏祭りや花火大会はその最たる例ですし、海もサーフィングなどをしている方以外は基本的に夏にしか泳ぎに行きませんよね。

 私は今年の夏休みにはアイスクリームの食べ歩きをしたいですね。各メーカーのアイスクリームはどれも趣向を凝らしたものばかりで、コンビニなどに行ったときには、皆さんも目移りしてしまったりしませんか? そこで私がお勧めしたいのは『ドクンとマンゴー』。バリバリ君はご存知だと思いますが、バリバリ君を販売している青城製菓の主力商品の一つです。ドクンとシリーズは他にもラインナップがありまして、ドクンとレモン、ドクンとパパイヤ、それにドクンとドリアンなどなど、多岐に渡って販売されています。長方形に固められたアイスクリームの中心に細長いスティックが刺さっていて、一見よく見る形状なのですが、ドクンとシリーズのポイントは名前の通りアイスクリームの表面からそれぞれの商品の名称に使われてる果物の果実がドクンと脈打つかのように飛び出していることにあります。

 果物本来の甘みや酸味を損なわない、程よい甘さの果汁が使われたアイスクリーム部分はまるで根っからの日本人気質で、決して主役に立たないまでも、主役を引き立てる上では欠かせない縁の下の力持ちのような存在です! そしてそのアイスクリームのおかげで、果物は本来の持ち味を最大限に披露し、消費者である私を魅了してくれます。こんなに私をメロメロの骨抜き状態にしたうえで、ぶくぶくと太らせて彼は一体何がしたいんでしょう。骨を抜くだけ抜いて肉を増やすとか、酷いですよね? ってやかましいですか。失礼しました。

 少々興奮気味で喋ってしまいましたが、ここからが本題です。総目高校放送委員会では、日替わりで委員がこうして放送をしていますが、この夏アンケートを行い、どの曜日が一番皆さんに親しまれているのか調査したいと思います。今日、放送委員が皆さんの教室に伺いますので、その際に投票方法などの詳細をお知らせする予定です。決して義務ではないので、興味が無い場合には投票を棄権することも可能です。あくまで気軽な、皆さんの投票をお待ちしております。

 ……ここだけの話、このアンケートで一位を獲得した曜日は特別な権利が貰えるらしいので、皆やる気に満ち満ちてるんです。それに人気投票という性質上、自分が一番を獲るぞーって躍起にもなってます。まぁ、私もできれば一番が良いなぁ、なんて考えてるんですけどね?

 と、放送部からのお知らせは以上です。ここからは学校側からのお知らせです。……と思ったのですが、特には無いようです。適度な水分の摂取を忘れるなとの言伝は預かっていますが、それ以外には無いです。

 というわけで、七月九日、朝の放送はこれにて終了です。担当したのは、夜凪光輝、十六夜涼香、そしてわたし月島由愛でした。皆さん、今日も元気に過ごしましょう」





「というわけで、これからガツンとマンゴーを買ってこようと思う」

 放送が終わったと同時に、教室の中、そんな宣言が耳に入った。しかもその思考を抱いているのは一人や二人ではないようだ。数人の男子生徒が席から立ち上がり、確固たる意思を感じさせる瞳でとある一点を見つめていた。その憧憬の的は、黒板の上で埃を被ったスピーカー。先ほどの放送に感化されたようだ。いや、感化というよりもはやシンパの域か。流石は月島由愛である。総目高校きっての美少女。およそ一般人の手に及ばぬ高嶺の花でありながら放送を通して感じる彼女の印象は気さく、かつ親しみやすい。故に、シンパの数も多い、と。

 やろうども行くぞー! と高らかに一人が言い放つと、おー! と拳を突き上げて数人の男子生徒たちが呼応し、彼らは軍隊さながらに足並みを揃えて教室を出て行った。朝っぱらから元気だ。

 俺は欠伸交じりにそれを横目で見送ると、机の上で腕を枕代わりにして瞳を閉じた。

 ……放送部。

 他の学校では放送委員会として活動している所もあると聞くが、ここ総目高校では放送部と呼称されている。

 一般的な放送部と言えば、朝と昼と下校時に音楽を流したり、あるいは事務的な伝達を行うだけだろうが、ウチのは違う。

 先ほどの放送の通り、部員がおしゃべりを繰り広げるのだ。あれはなにも朝だけではない。昼と下校時にも、同様の放送が流れる。

 放送は録音ではなく、しかも毎回毎回異なる話をしている。部員のボキャブラリーが試されるわけだが、その中でとりわけ人気なのが先ほどの月島由愛。

 まるでラジオのパーソナリティを務めているかのような軽妙な喋り口、華やかな見た目、そして透き通るような可憐な声。癒やしなんて言葉は彼女のために存在するのかもしれない。花で例えるなら椿だろう。高貴でありながらどことなく近寄りやすい。そして何より綺麗。

 そんな彼女が在籍する放送部は、総目高校で一二を争うほどに有名な部活動である。

 月島さんは元から素養や素質を備えてはいただろうが、彼女を一躍スターダムへと押し上げることとなった要因が放送部にあるのは、疑いの由もないことだ。

 総目高校放送部。いやはや、字面だけ見たら堅っくるしげに見えるが、その実態は先ほどのような放送を常としている部活動である。

 遊びの延長線上と揶揄されることもあるが、それでも放送部の人気は揺るがない。その人気の根底に月島由愛がいるのは当然として、他にも理由が存在し――。

「おはよう」

 がらっと教室の扉が開く音がして、その直ぐ後に声が響いた。透き通るような可憐な声だ。

「おはよー由愛ちゃん」

「放送お疲れ様!」

 数人の女子が、彼女の名を呼び労いの言葉を投げかけた。その人気たるや、芸能人もかくやという有様だ。薄目を開けて、ちらりと室内の様子を窺うと、遠目に見ている男子生徒たちもまた、彼女に羨望の眼差しを送っていた。どうやら、先ほど教室を出て行ったシンパの他にも、その予備軍が存在するらしい。

 身じろぎしながら、やんややんやと騒ぐ女子連中の中心に立つ少女を見る。

 ――月島さんだ。

 腰元まで伸びる程に長い髪は、形の良い両耳の少し上で結われている。確かあの髪型はツーサイドアップと言っただろうか。可愛らしい見た目をしていない少女がその髪型をすれば、個人的には見るも無残な印象を受けてしまうのだが、彼女に関してはそんな心配はいらない。

 スタイルにまず非の打ち所が無い。目測で百六十前半と、女子にしては些か高めな身長だが、キュッと締まった腰周りとは裏腹に出るところは出るなどと言う非常に暴力的な体型は、それを見た男子生徒が思わずくらっと逝ってしまうのも頷ける話だ。

 それに、真っ白な肌。紫外線って言葉知らないんですかね。もしくは日々の手入れを入念に重ねているのか。人が触れれば手垢すらも浮き出しそうな程に無垢に見える。その領域が、ひらりと靡くスカートと紺色のニーハイソックスの間にも存在するのだ。いわゆる絶対領域。絶対的に無垢で、絶対的に防御的でありながら、絶対的に攻撃的。防御は最大の攻撃と言うが、正にその通り。何人にも侵されざる聖なる領域は、見る者の視覚にこの上ないほどのダメージを与える。白さも相まって目が眩みそう。いや、あの絶対領域を見ながら目を失うなら本望ですがね!

 それぐらいに素晴らしいおみ足をお持ちであらせられるのが月島由愛である。以上、説明終了。俺クラスの足フェチになると顔なんて飾りなのだ。説明不要である。

 と、俺の舐めるような視線を感じたのか、ふと月島さんがこちらへと目を向けてきた。大きく、心根の真っ直ぐさを感じさせるような澄んだ瞳だ。

 俺はそれを受け流すようにして目をスッと閉じると、黒目を逆側へと向けた上で開いた。

 あんな目で見つめられたら俺みたいな根暗は一溜まりもないわけである。すかさず視線を外すのは生存本能からである。決して腹に一物を抱えているのがバレないようにではない。……ないよ?

 少しの後に、再度月島さんへ視線を滑らせる。その頃には、俺みたいな路傍の石に月島さんが興味関心を向けているはずが無く、周りの女子生徒たちへ華やかな笑顔を振りまきながら歓談をしていた。

 ……とまぁ、放送部の人気の根底に彼女がいるのは当然であり、他にも理由は存在するかもしれないが、彼女無き放送部など今となっては豆腐の無い湯豆腐と同義で、もっと言うなら紺色ではないニーハイによって形作られた絶対領域に等しい。あ、今のは完璧な例えだ。

「今日も平和だなぁ」

 机に寝そべっていた上体を起こし、ズボンのポケットに両手を突っ込むと腰を伸ばした。横目で窓の外を見てみれば、雲三割、晴れ間七割の中、御天道さんが煌々と照っていた。

 元々教室の中には半数以上のクラスメイトたちが放送の時間から登校していたが、今はもう殆どの生徒が集まってきているようだ。

 月島さんの放送を聞いてガツンとマンゴーとやらを買いに行っていた月島シンパの連中ももう戻ってきていて、教室の隅っこでペロペロとアイスクリームを舐めながら月島さんへ熱視線を送っていた。ちょっと気持ちが悪い。いや結構気持ち悪い。

 天候が良く、それに人が集まり始めたことで、教室内に熱気がこもり始めている。

 俺はボーっと前を見据えて、着たワイシャツの胸元を摘み、ひらひらとさせて風を中に送る。

 わいわいがやがやと辺りが騒がしい。だから俺は、一つのグループから声が消えても、そして俺に近づく影があっても、その存在に気づくことは無かった。

「あ、あの。土田君」

「んあ? ……え」

 ぼんやりとしていた。名を呼ばれ、気だるく声の主へと顔を向け、頭の中が真っ白になった。

「ちょっとお話、良いかな?」

 月島由愛、その人が俺の目の前に立っていた。ちょこんと小首を傾げる様は、近くで見ても絵になる。

「あー……いいけど」

 ふと周りへ視線を滑らせると、にわかには信じがたいとでも言いたげな表情でこちらを見ているクラスメイトたちの姿がいくつも見えた。

 そりゃそうだ。学校一の美少女であらせられる月島さんが、俺みたいなモブキャラと二人で話すなど、当人である俺ですら信じがたい。

 俺の返答を受け、月島さんはパッと微笑んだ。

「良かった。断られるんじゃないかってドキドキしてたんだ」

「あぁ、そう」

「うん」

「……」

「……」

 え。なぜ沈黙。

 只でさえ気まずいのに、固唾を飲んで見守るクラスメイトたちの存在もあり、息苦しさすら覚える。

「そ、その」

「あ、うん」

 漸く口を開いたかと思えば、月島さんは俯き加減にチラチラと俺の顔色を窺うようにして見てきた。化粧っ気が薄いからか、彼女の頬に差す朱がやけに際立つ。

「その……放課後って暇かな?」

「放課後? 特にやることは無いけど、月島さんは放送部があるんじゃない?」

「うん、そうなんだけど、放送が終わってから、ちょっと会えないかな?」

 帰宅部のエースと称される俺だ(自称)。本来ならホームルームの終了と共に意の一番に家路に着きたいところだが、約束を交わせば話は別なわけで。

「別に構わないけど……」

「本当? それじゃあ、放課後にここで待っていてもらっても良いかな?」

 ここってのは、俺たちが通う二年二組の教室でってことだろう。

 突拍子もない展開を俺は怪訝に思いつつも頷いた。

「ありがとう。じゃあ、放課後によろしくね」

 そう言って、月島さんはふんわりとフローランスの香りを残し、踵を返して自席へと引き返した。

 何が起きたのやら。

 俺の心中は、けれどどうやら俺だけのものではないらしく、クラスメイトたちの総意となっていた。

 そこかしこで交わされる会話は、俺と月島さんに関するもので、なかなかにこそばゆい話をされていた。

 特に彼らの意見で多かったのが『月島さんが、まさか、まさかとは思うが、いやいやあり得ないのは知ってるが、あの土田に告白なんて――いや、やっぱあり得ないか』なんてものだった。

 失礼なやつらである。その可能性だってあるかもしれないのに。……まぁ、そんなのがあり得ないのは自分自身が一番理解してるんですけどね。流石にそこまで思春期をこじらせていない。

 ただちょっと気にかかり、月島さんを見てみれば、丁度目が合ってしまった。彼女は周りの女子生徒の話を聞きながらうんうんと相槌を打ちつつ、俺と目が合うと元より緩やかな谷を描いていた口元の角度を心なしか更に深いものにして、こくんと会釈をしてきた。

 ……べ、別に思春期こじらせてないんだから。全然期待なんてしてないんだからねっ!

 咳払いをして、前へ向き直る。

「はぁ……暑い」

 パタパタと、思い出したようにシャツを摘まんで肌に風を送る。

 僅かに開いた教室の窓の前で、ひらひらとカーテンが踊っている。そして、どこか遠くのほうで泣く蝉の声が耳を叩いていた。煩わしくもあったが、今年初めて聞く蝉の声は、どこか懐かしくもあった。










「あー、あー。全校生徒の皆さん、こんにちは。七月九日月曜日、正午過ぎ。総目高校放送委員会、お昼の放送の時間です。

 突然ですが、皆さんは子供の頃のことって覚えていらっしゃいますか?

 一日一日の記憶を揺り起こしてほしい、と言っているわけではありません。例えば小学生だった頃、もしくは物心付いて間もない頃、そう言った括りの中で、皆さんは当時どのようなことを思いながら過ごしていましたか?

 と言うのも最近、小学校の卒業アルバムを開く機会がありまして、ふと色々なことを回顧してしまいました。

 子供の頃は何にでも興味を持って、初めて見るものには目を輝かしながらいちいち反応していたらしく、手のかかる娘だったと母に心底気だるそうにこの前言われてしまいました。

 確かに、活発な幼少期だったと思います。ほら、小学校の卒業アルバムってクラスメイトの皆から集めたアンケートを記載するページがあるじゃないですか? そこで私、とあるアンケートにて一位を獲ったんですけど、何だと思います? なんと、常にうずうずしてる子なんていう、意味の分からない項目で一位だったんです。しかもぶっちぎり。どうやら、私のために作られた項目みたいだったんですけど、酷くありません? なんでも、立っていようが座っていようが、しょっちゅう体が小刻みに縦に揺れてたそうです。自分の事ながら気づきもしなかったんですけど、どうせなら口頭で教えて欲しかったです。それを読んだとき、違う意味でプルプルと小刻みに震えてしまいましたよ。

 他にも、卒業アルバムに記載されていた文集にも目を通しました。パラパラとアルバムを捲ると、ミミズがのたくっていると言われても文句のつけようの無い字が躍っているページがありまして、ふふっと失礼ながら笑ってしまったのですが、その文集を書いたのが誰なのかと氏名を確認したら……私でした。

 もう絶望です。後ろへ倒れかけました。常にウズウズしてて、思わず目を覆いたくなるほどに汚い字を卒業アルバムで晒して、しかもしかもその内容が何かと思えば、将来の夢はお嫁さんになることだ、なんてことを力説してて。

 はぁ。今思い出しただけでも卒倒しそうです。

 ……けど、読み終えてふと我に返ると、無意識の内に微笑んでる私がいました。

 お転婆だったんだなぁって。本当に楽しかったんだなぁって。

 当時の私は大人になることを夢見てたのに、今の私はそんな過去の自分に憧憬の眼差しを送っているんです。

 皆さんは、子供の頃のこと、覚えていらっしゃいますか?

 もし時間があれば、今日にでも、アルバムを開いてみませんか?」






 昼休みである。皆大好き、昼食を摂る時間である。

 食と言えば、何やら巷では間違った解釈が蔓延っているのだと聞く。それは、食事は皆で食べるから美味しいのだと、むしろ一緒に食べる相手がいる、これこそが最高の調味料なのだと。

 あほらしい。もうツッコミ所しか存在し得ない。何が最高の調味料だよ。言った奴出てこいよ。どうせその台詞の語尾に「ドヤァ」とか言ってんだろ。ふざけんじゃねえ。お前みたいな奴はあれだ、一緒に食う相手を調味料としか考えていないようなロクデナシだ。俺はきちんと人を人と認識している。その上で俺は人を調味料として見ないために一緒に食事をしないのだ。

 とまぁ、我ながらとんでも理論展開を脳内で繰り広げたわけだが、結果として主張したいことは、俺ぐらいのロンリーウルフになると独りで食べることこそが食事であるという結論に達したということである。休み時間って何の休み時間だと思う? 人間と話すのに疲れた人間を癒やすための時間なんだよ。

 傍に立つ木の影に紛れ、校庭の端に置かれた木製の白いベンチ。そこが俺の定位置である。もうかれこれ半年はここで飯を食っている。今日も変わらず人気がない。最高のスポットである。

 背もたれにどっぷりと深く背を預け、今しがた購買で買ってきた焼きそばパンに噛り付く。

 咀嚼しつつ上を仰げば、そよ風で木の葉が揺らめいていた。その風に乗り、蝉の声が耳に届く。けれど、数年に及ぶ地中での生活の鬱憤を晴らすかのような元気な泣き声に負けず劣らず、校舎のほうから通りの良い女性の声が聞こえてきていた。何を話しているのか明瞭にまでは聞き取れないが、月島さんの声が校舎内のスピーカーから漏れ出ているのだろう。朝昼下校時と、ご苦労なことである。

「……月島さん、か」

 意識せず漏らした名は、今朝方教室で話しかけてきた少女のもの。

 何の意図を持って俺に話し、その上放課後に会う約束まで交わしてきたのか。

 いかに総目高校が誇る学校一の美少女相手とは言え――いや、だからこそ、そこを胡乱に感じないなどと滑稽を演ずるわけがない。

 そのまま目を眇め、遠い青空に向け眼差しを送ったまま思考を巡らそうとしたところ。

「月島……?」

 語尾のイントネーションを上げ、疑問をありありと示す声色が横から聞こえた。

「え?」

 サッと背もたれから身を離し、そちらを見る。

 ベンチの横に立ち、ピンクの風呂敷を片手に提げたまま俺を見下ろす見覚えの無い小柄な人物がそこにはいた。

 頭のはち周りに空気感を持たせるように緩くくしゃりとウェーブがかかった髪型が印象的だ。全体的にエアリーで、真っ直ぐに伸ばせば切り揃えられているのであろう前髪は右目を上を中心にしてゆったりと横へ流されている。顎の辺りまで伸びるもみあげと、肩先に届く程の長さの襟足は、前髪とは違い長さが均一ではなく、それがまたふんわりとした印象を受ける。

 なるほどなるほど。ジッと見つめるまでもなく分かるが、美少女だ。日本人かどうかすら疑いたくなるほど色素の薄い肌の色や、はっきりとした奥二重の瞼、鼻筋はすっきりとは通っていないが、けれど小鼻とでも言うのだろう、彼女の印象と相まってそれがまた愛らしさが際立たせている。まるで西洋人形。美しくありながら少女のあどけなさを顔に残す彼女は、月島さんと比肩しておかしくないほどに美少女というものを身をもって体現していた。

 そして、その美少女が俺へと顔を向けたままに、ぷるりとした唇を開いた。

「今、月島って、言った」

「あ、ああ。言ったな」

 無機質な言い方である。感情を感じさせない口調に、少しばかり戸惑ってしまう。

 すると少女は改めて俺の姿をまじまじと見てきた。円らな彼女の瞳を見返すことが気恥ずかしさからできなくて、視線を散らしてしまう。

 と、目のやり場に困り行き着いた先、少女の足元を見てみれば、上履きの色が俺の履いているものとは違った。総目高校では上履きのつま先部分と踵部分に色付けがされており、それによって学年の判別ができる。今年度だと一年生が赤、二年生が青、三年生が緑だ。そして彼女の上履きの色はと言えば、赤色だった。

「一年生、だよな?」

「うん。一年生。一年三組、木戸透子」

「……ご丁寧にどうも。俺は、土田夕日って言うんだ。よろしく」

 頭に手をやり、ぺこりとお辞儀をする俺に対し、木戸は首を斜めにした。

「土田くん……誰」

「いや初対面なんだから、そりゃ知らないだろ。俺だって木戸のこと……ん? 木戸?」

 なんだか聞き覚えがある気がする。

 二人して首を傾げる。先に口火を切ったのは木戸だった。

「さっき、月島って言ってた。どうして知ってるの? まさか、ストーカー?」

「どうしてそうなる。月島はこの学校じゃ一番の有名人だろ。むしろ知らない奴の方が少ないぞ」

「そう、なの? よく分からない。でも、こんな場所で一人ぼっちで、彼女の名前を言うのはおかしい」

 ずいぶんと警戒されているらしい。

「月島とはクラスメイトなんだよ。顔ぐらいはお互い見知ってる」

「ふーん。そう」

 自分から問いただしておいて、まったく興味なさげだ。

 と。木戸は相変わらずの無表情のまま、きょろきょろと辺りを見渡した。そして、俺の隣に目を向けたと思ったら、スッと俺の顔へと滑らせた。

「いい?」

 何がだ。と思ったのも束の間。何となしに意味を理解する。

「別に良いぞ。俺だけの場所じゃないし。座りたきゃ座れ」

 こくんと頷くと、木戸は拳二つ分の距離を置いて俺の隣に腰を下ろした。

 特に話しかける言葉も無ければ、その必要性も見出せず、しかしながら多少の興味はあったので彼女を横目で窺う。

 木戸はずっと持っていた風呂敷を膝元に置くと、手際よく結び目を解いて中身を露わにしていた。中身は二段に重ねられた楕円形のピンクの弁当箱だった。パチパチと止め具を外し、木戸は下段の弁当箱を傍らに置くと、もう一つの箱を開いた。

 彩り豊かなおかずの数々が所狭しと配置されていた。いくつかの野菜に、肉じゃが、卵焼き、鳥のから揚げ、たこさんウィンナー。なかなかにボリューミーである。

 それを見た木戸は、心なしか、ほんの僅かに口元を緩めた。が、俺の視線に気づいたのか不意に振り向いてくると、弁当箱を両手で覆い隠しながらムッと唇を尖らせた。

「あげないよ」

「確かに美味しそうだけど、ねだる気は更々ない」

 肩を竦めてから前へと向き直しつつ、焼きそばパンにかじり付いた。

 横からは視線を感じたが、少しの後に木戸も自らの弁当に箸を伸ばしたようだった。

 そよそよと吹く風が、夏の陽気に当てられてしっとりと汗ばんでいた額を撫で上げる。校庭には、普段より少ない数人の生徒たちが、掛け声を上げながらサッカーボールを蹴って遊んでいる。

 平和だ。

 のほほんとしながら焼きそばパンをパッケージに包みなおし傍らに置き、前もって買っておいていたお茶のペットボトルの封を開けると飲み口に口をつけた。

 その時。視界の隅からぞろぞろとこちらへ歩いてくる集団があった。数人の男子生徒が先頭の人物に付き従うかのように歩いている。彼らの視線は、ただひたすらに先頭の人物に向いていて、その表情はにへらとした締まりのないものだった。

 彼らの先頭を歩くのは、一人の少女。太陽の光を浴びて煌く髪は、黒のリボンでもって頭頂部で二房に纏められており、いわゆるツインテールってやつだった。少女の表情からはどことなく勝気な印象を受けた。ぱっちりとした瞳はやや釣り目がちで、スッと通った鼻筋の下、光沢感のある唇は余裕を感じさせるように緩やかな曲線を描いている。一歩一歩と歩を進める姿は、明確な目的に突き進んでいる将を髣髴とさせられるぐらいに様になる足取りだ。

 ……ただ、ちょっぴり胸元が足りない。自信に満ち溢れているかのような姿とは逆に、慎ましさすら感じる。横にいる木戸と同じぐらいではなかろうか。

 と、俺たちの座るベンチの前を横切ろうとした時、一団の先頭に立つ少女が不意にこちらへと顔を向けて足を止めた。そして、俺――ではなく、木戸へと視線向けると、にっこりと微笑んだ。

「げ」

 だが、木戸の反応は明らかに好意的なものではなかった。眉間に皺を寄せ、白々しい素振りでそっぽを向いた。

「あらあら、木戸じゃない。こんな天気の良い日に貴方が外でランチだなんて、どういった風の吹き回しかしら」

「別に関係ない。火ノ元こそ、今日も騒がしい」

 ああ、木戸が名前を出して漸く思い出した。総目高校放送部火曜日担当、火ノ元灯火だ。学年は二年生だが、放送部に入部したのは半年前。にも関わらずその器量の良さからだろう、生徒――特に男子からの人気は高く、今の放送部を牽引している人間の一人である。

 火ノ元は手の甲を口の端に斜めに当て、そして高笑い。

「おーほっほ。ごめんあそばせ。美人過ぎるのはやはり罪なのですわね。無意識の内に敵を作ってしまいますわ」

「敵とは思ってない。ただ、やかましいなと思ってるだけ」

「や、やかましい? それはちょっと言いすぎなんじゃなくて?」

「じゃあ、耳障り」

「もっと酷くなってませんこと!?」

「なら、かまびすしい」

「か、かますびっしい?」

「静謐で、小鳥の囀りさえよく聞こえそうなぐらい穏やかな状況……」

「あ、あら。そうなの? ワタクシのためにあるような言葉ですわね。かますびっしい火ノ元灯火。えぇ、えぇ。言われてみれば、確かに高貴で気品あふれる言葉で、正にワタクシにお似合いですわ」

「……の逆で、やかましいと同義」

「前言撤回ですわ! かますびっしくなんてありません! かますびっしい火ノ元灯火とか誰ですの!」

 仲が良いのか悪いのか。

 二人のそんな会話を聞きながら、俺はお茶の入ったペットボトルを呷る。

 と、火ノ元が俺の方へと目を移した。

「そういえば、初めから横に男子がいたようですけど、木戸のボーイフレンドかなにかで……」

 喋り終える前に、火ノ元は固まった。まるで彫刻にでもなったかのように微動だにしない。だが、数秒してから首をぶるぶると振ると、目を細めて前のめり気味にこっちへ近づいてきた。

 俺はペットボトルを下げると、口内のお茶を嚥下しながら彼女を見返す。

 火ノ元のぱっちりおめめが二度三度と瞬く。と、鼻筋がピクリと動いた。やがてそれが伝染したように、口元を半開きにしつつ表情を強張らせた。

「あ、あな、貴方は、ままま、まさか、とは思うんだけど、土田、くん?」

「ん? ああ、そうだけど」

 動転しているのか、火ノ元の発言はしどろもどろで言葉遣いも心なしか先ほどと違う。

 横へ目を向けると、首を捻る木戸がいた。

「知り合いなの?」

「いや。思い当たる節が無い」

 一方的にこちらから彼女のことを知りえていても、彼女が俺みたいな人間を知っているとは思えなかった。

 一緒に首を捻りつつ、火ノ元へ目を戻す。

 火ノ元は口を繰り返し開閉し、あわあわと呟いていた。だが、ふと我に返ったのか、ぷるぷると身を震わせてから、たどたどしい素振りで手を挙げた。

「そ、そうでしたわ。ワタクシ、この後所要がございましたの」

「え。今日は散歩をしていただけなのでは?」

 火ノ元の棒読み発言に対し、後ろに控えていた男子生徒たちの一人、瓶底メガネを着用した小柄な少年が口を挟んだ。

「シャーラップですわ! 栄一、クビにしますわよ」

「そ、それだけはご勘弁を」

 射竦めるような火ノ元の鋭い眼光を向けられ、栄一君とやらはたじろぎながら頭を深々と下げた。

「コホン。それでは改めて、木戸。え、ええっと、土田、くん? ごきげんよう」

 最後には強張った笑顔を残し、火ノ元一行は足早にこの場を後にしていった。

「台風みたいな奴だな……」

「ですわはお昼には一番見たくない顔」

「ですわ?」

 火ノ元がいなくなったのを確認してから、木戸は箸を進めだしていた。

「うん、ですわ。ですわですわ言っているから、ですわ。ちなみに本人に言ったら怒ってくる」

 なんと至極単純な渾名だろうか。

「昼には見たくないってのは?」

「あんな口やかましい人と食事時に一緒にいたくないから」

「あー、なるほど」

 それは理解できるな。好きとか苦手とかを抜きにして、昼時ぐらいは静かに食事を摂りたい。

 一方的ではあったが木戸のその考えに賛同した俺は、その後は一切会話をせずに隣り合いながら食事をした。

 昼食を終えた後は二人してのほほんとしつつ、ぼーっとしていた。そうして、昼休み明けの授業が五分前に控え、予鈴のチャイムが響いた頃合でいそいそと身支度をしながら木戸が話しかけてきた。

「そう言えば、土田君は何組なの?」

 いきなり何を聞いてくるのか。と、一瞬不審にも感じたが、確か木戸は最初に自分の通う組も言っていた。どのような意図を持ってかは知らないが、男の俺だけがそれを明かさないのは、ちょっとマナーに反する気がする。

「俺は二組だ。二年二組」

「二組……」

 木戸は意味ありげに俺の組を反復した。何か思うところでもあるのだろうか。

「どうかしたか?」

「ううん。なんでもない。それより、もう時間だから」

 そう言うと、木戸は弁当箱を包みなおした風呂敷を提げ、ベンチから腰を上げた。

 そして、申し訳程度に片手を挙げてきた。

「それじゃ、また後で」

「ああ、また今度」

 別れの挨拶を口にしながら、木戸の後姿に手を振る。

「……ん? 後で?」

 何も考えずにスルーしてしまったが、まるでこの後会うかのような口ぶりで木戸は去っていった。それに気づいたのは、もう既に木戸も遠く離れた場所に行ってしまった頃で、今更尋ねることもできそうに無かった。

 まぁ、気のせいか。もしくは木戸の間違いか。どちらにせよ、気に留めることもないだろう。

 校舎からはもう放送部の声も途絶えていて、足早に行き交う生徒たちの声だけが聞こえてきていた。







「夏になるとストレスが溜まると思う。皆もそうだろ。熱い中、意識が朦朧とすらしてるのに、こうやって勉強に頭を費やされて。肉体にせよ頭脳にせよ、夏に労働ってのは疲れるしストレスが溜まるもんだ。只でさえ人間の社会はストレス社会だとも言われていて、そう言った心的な部分は繊細なのにな。とは言え、やっぱり今の社会はストレスと背中合わせに生きていかなきゃいけない。いかにストレスをストレスとして感じないよう努力するか。一昔前には鈍感力なんて言葉が流行ったよな。正にその言葉が物語っているように、鈍感ってのはある種の能力値だと私は思ってる。その上で、人間だけがストレスを感じたりするのかと言えば、それは違う。野生の動物にだってストレスは当然のようにあるし、人間よりもずっと繊細な動物だっているんだ。例えば、ある水生動物は、体に付いた寄生虫を取り払うため水上に飛び跳ねた際、数十センチほどしか跳ねていないにも関わらず、着水の時の衝撃により死に絶える場合があるという。今のは肉体的な繊細さだが、同じ生物で精神的な繊細さを伝える話として、同胞が死んだ際にはそれにショックを受け死ぬ時があるってのがある。加えて言えば、同胞の死にショックを受け死んだ同胞の死にショックを受けて死ぬ場合もあるようだ。もはや自分でも何を言っているか分からない状態だが、それぐらいに過敏にストレスを感じる生物だということだな。それで、その動物の名前は――っと、時間だな。日直、挨拶を」

「はい。きりーつ。きょーつけ。れーい」

 思いのほか早めに授業が終わってしまったために、時間調整として数分間雑談をしていた科学の教師。殆どの生徒は欠伸交じりにそれを聞いていたのだが、俺はきちんと聞いていた。にも関わらず、この仕打ち。何なんだよ、誰なんだよその豆腐メンタルの生物は。教えろよ。教えてくださいよねえ。帰ったら絶対ググっちゃうじゃん。帰り道とかその動物のことで頭がいっぱいで注意散漫になって交通事故に遭っちゃうかもしれないじゃん。って、くっそ。あれか、この教師それを狙ったか。プロバビリティの犯罪だっけか? 本人が直接手を下さずに、確率上極めて低い方法で人を殺すことにより、嫌疑を向けさせない。っふ。恐るべし、科学教師。この俺でなければ、その容疑者X的な完全犯罪狙いのその牙城を切り崩せなかったろう。だが相手が悪かったな。……って、あれ? あの作品の犯人は数学教師だっけ? まぁどっちでもいいや。

「ちょっと、土田くん一人で笑ってない?」

「あぁ。やっぱやべえな、あいつ」

 む、むしろこっちを狙ってたか、あのやろう! 俺に悪いイメージを植えつけるために奇策を打ってきやがったのか! そうに違いない。……けど、残念だったな。聞いてもらっての通りだが――クラスメイトが抱く俺のイメージは元から悪いのものなのだ! 今更下がるだけのイメージなんて無いんだよ! はーっはっは、はっはは、はは……はぁ。死のうかな。

 と、科学の教師と入れ替わりで、担任の教師と一緒に数人の生徒たちが教室に入ってきた。足元を見てみれば、赤緑青と上履きの色づけは疎らで、殆どが見たことも無い生徒たちだった。……そう、殆ど。

「朝方の放送を聞いてもらった人は分かると思うんですが、今日は放送部の方々からお話しがあるそうです。本日のホームルームは特に伝達することも無いので、彼らの話が終わり次第、各々自由に解散してもらって構いません。それでは」

 そう言い残し、担任は教室を後にした。

 代わって、壇上から俺たちに向け一礼してきたのは、三年生の男子生徒。

「今日は私たち放送部のためにお時間を作っていただき、ありがとうございます。今朝の放送をお聞きになられていない方もいらっしゃると思いますので、簡単にではありますが説明させていただきます。何か質問等がありましたら、こちらが説明を終えた後によろしくお願いします」

 説明内容は、要約すれば『アンケートを行うこと』。それに『義務ではないこと』。後は『特定の人物名を挙げてもらうのではなく、曜日での回答をしてもらうこと』。放送部としてはあくまでアンケートの一環らしいが、実際に生徒たちが思うところは人気投票だろう。

 説明が終わると、数人の生徒たちが質問目当てで挙手をし始めた。この学校における放送部の存在は、他の部活動はおろか生徒会にも勝るのである。なので、こうして皆興味津々に質問を投げかける。

「具体的な投票方法は何なんですか?」

 男子生徒からの最初の質問に答えるのは、二年二組の教室に訪れた放送部四人組のうち、今まで説明をし続けていたメガネ姿の三年生男子。

「後ほど配る用紙に氏名と学年及びクラスを記載していただき、月曜日から金曜日までの内一番親しみやすい曜日を空欄に記入していただいた上で、その用紙を後日改めて私たちが回収しに訪れますので、その際に渡してください。なので、これからお渡しする用紙に早速記入をされましても、今日は受け取りません。あと、注意点としましては、一人一票とさせていただきます。用紙の紛失や破損などによる再交付も認めていませんので、あらかじめご了承ください。他に質問のある方はいらっしゃいますか?」

 かたっくるしいことこの上ないな。自分たちでアンケートとか言っておきながら、議員選挙よりもずっと融通が利かなさそうだ。

 次に指名されたのは、おずおずと挙手をした女子生徒だった。

「あの、てっきり由愛ちゃ、じゃない、えと、月島さんが説明をされると思ってたんですが、どうして皆さんが来られたんでしょう?」

 どうやら、月島さんと仲の良い女子のようだ。緊張気味だが、そりゃあんなぶすっとした様子のメガネ男子に壇上から見下ろされれば仕方ないだろう。

 メガネ男子もそれに気づいたのか、横へと目をやった。そして、隣に立っていた二年生の女子が一つ頷き一歩前へ踏み出した。

「今回アンケートとは言え皆からの投票を募ることになったから、公平を期すためにも放送部に入部している生徒が特定の曜日を贔屓にするような活動を禁止しているの。大っぴらに『何曜日に投票してー』とかは言っちゃいけないってこと。あくまで生徒の自主性を重んじるってことでね。その上で放送部部員は、自分のクラスの投票用紙の配布や集計にも一切参加してはいけないようにしているわ。疑っているわけではないんだけど、もしかしたら何か細工をされる可能性があるかもしれないし、それに何より、投票対象である自分のクラスメイトが集計に関わっていたら、思い思いの投票ができない可能性もあるでしょ? 後で自分がクラスメイトがいない曜日を記入したのがバレるかも、なんて思ったら、どうしてもクラスメイトの参加している曜日を記入してしまう人が増える。だから、今どこのクラスでもアンケートの説明が行われてるけど、自分の教室にいる放送部の部員は一人もいないわ。全員、他のクラスでこうして説明をしているから。ま、月島さん達、月曜日組の場合は、この後放送を控えているから、今頃は放送室で準備をしていると思うんだけどね。これでいいかな?」

「あ、うん。ありがとう」

 会釈をして、質問をした女子生徒は席に着いた。

「他に質問はある?」

 初めて声を上げた、壇上に立つ二年生の男子生徒。辺りを見渡し、挙手をしていた生徒の内の一人を指し示した。

 チラッと横目で見てみると、立ち上がったのは朝方に『ドクンとマンゴー』を買いに出かけた一団を牽引していた男子だった。

「質問が三点ある。一つは、誰が集計作業に参加するのか。もう一つは、いつ頃に結果を発表するのか。そして最後は、放送部に関係ない人間が特定の候補に投票するように訴えかけるのは禁止されているのか。是非お聞かせいただきたい」

 国会の討議じゃあるまいし、いくらなんでも堅すぎだろ。

 呆れながらも状況を見守っていると、月島さんシンパを指名した男子生徒が困ったようにメガネ男子を見つめた。メガネ男子は下がりかけていたメガネを上げつつ、目を瞑ったまま頷いた。それを確認して、先ほどの男子生徒が口を開く。

「えーと。じゃあ、まず、一つ目の質問から。集計作業に関わるのは、生徒会と教職員の方々だ。これもさっき言ったように、公平を期すため。勿論、生徒会と教職員の皆さんには、もう許可を貰っている。次に、結果の発表だけど、これは一学期最終日、終業式の日を予定してて、発表方法は廊下の掲示板に結果を張り出そうと考えてる。んで、最後の質問、なんだけど、放送部としては、特定の人間や曜日を応援するような活動は認めていない。……ただ、それによるペナルティなどは考えてない。以上だ」

 つまり、事実上の黙認ってことだろう。全校生徒一人ひとりの行動を見張るなんて馬鹿げたことできるわけもないし、だからと言って見つけた奴だけを断罪するわけにもいかない。特に、ここの生徒たちはある種派閥と言って差支えが無いほどに放送部に『入れ込んでいる』輩が多数いる。妥当と言えば妥当だろう。

 月島さんシンパの男子生徒はそれを聞いて、満足げに何度も頷きながら着席した。

 そして、残った最後の放送部部員、小柄な少女が前へと歩み出てきた。

「誰か、いる?」

 その言葉を聞き、すかさず俺は挙手をした。少女もまた、何の迷いも無く俺を指し示した。

 それを見て、俺は立ち上がりながら少女を指差す。

「どうしてお前がここにいる!」

「……意味が分からない」

「いや分かるだろ! くっそ、俺を騙しやがったな! お前だけは信じてたのに!」

「……質問はないってことで良い?」

「よくなあああい! よくないだろ! 何でお前、昼休みに説明しなかったんだよ、自分が放送部だって」

 昼休みに同じベンチを共有で使いながら昼食を食べた少女、木戸透子がそこにはいた。正直、彼らが教室にやってきてから俺は木戸から殆ど目を離さなかったし、木戸もまた眠たげな眼差しを俺に向けてきていた。

「聞かれたら言ってた。でも聞かれなかったから言わなかった。何も聞かれてないのに自分から言うなんて、おかしい」

「う。ま、まぁ、そうだけど」

 分が悪そうだ。しかも、周りからの視線も痛い。自分勝手な質問をしたから当然だ。……と思ったが、どうも違うらしい。

 木戸透子。昼休みに聞いたときには、違和感こそ覚えれど、その名と放送部を結びつけることは困難だった。しかし、今なら簡単だ。なぜなら、彼女は放送部部員であり、なおかつ放送上に自分の声を乗せている、通称パーソナリティの一人だから。つまり、月曜から金曜日まで、五人しかいない花形の仕事に就く人物で、月島さんや火ノ元と共に総目高校の中では高い人気を誇る少女だったのだ。

 一年生で唯一パーソナリティを務める少女がいるのは知っていたが、あまりにも俺の中では存在感が希薄だった。

 担当の曜日は木曜日。彼女の特異すぎる放送は、カルト的な人気すら得ている。……あの放送に人気が出るとはにわかには信じがたいが、それでも、今俺に向けられている敵意の視線の原因を予想するに、やはり彼女の人気が由来しているのだろう。つか、マジで怖いんですが。敵意っつーか殺意だぞ。教室の隅っこからカチカチとカッターナイフの音聞こえてるし。しかもぼそぼそ『俺のきいちゃんに手を出すな』とかなんとか囁いてるし。ついでに言えばそいつ、朝方『ドクンとマンゴー』を買いに出かけた一団の中にいたし。二股のお前にとやかく言われる筋合いあるかっ。ガツンと言ってやる。

「……あ、以上で良いっす。ちっす」

 とまぁ、命は惜しいんで何も言えないんですけどね。

 苦笑しながらぺこぺこと頭を下げて着席する俺を見て、木戸はくすっと微笑んだ。

 その微笑を合図に、クラスメイトの数人が目玉をハート型にしていた。自分に向けられたわけでもない笑顔でメロメロになるとか、根っからの木戸信者である。将来美人局に遭遇したり、悪い宗教に嵌らぬよう切に祈るばかりだ。

「質問は以上でよろしいですか。そうしたら、これから用紙を配りますので、各自印字ミスなどが無いかを一応確認の上、何かありましたら私たちに尋ねてください。何も無いようでしたら、受け取り次第お帰りいただいて結構です。私たちは五分ほどはこちらにいますので、尋ねることがある場合にはそれまでによろしくお願いします」

 メガネ男子の案内に合わせ、残りの部員たちが手に持っていた用紙を生徒たちへ前の席から順々に配っていく。

 何の因果やら俺の列は木戸の担当で、前から二番目の席に座る俺へは直ぐに順番が回ってきた。

 木戸は前の男子へは相変わらずの無表情で用紙を渡していたが、俺と目が合うとふんわり微笑み……などするわけもなく前の男子と同様の対応で、無表情に用紙を渡してきた。が、去り際、ぼそりと呟かれた。

「あのパン、おいしそうだった」

「は?」

 聞き返したときには、もう木戸は後ろの席の生徒に用紙を配っていた。返される視線も無い。

 聞き間違い、では無いと思う。

 パンって言うのは、俺が食べていた焼きそばパンのことなんだろうが、どういう意味なのやら。クイズや推理小説なんかは嫌いではないが、あまりに情報が少ない中で答えを予想するそれらほど、面倒な上に時間の無駄であることは無いだろう。そもそも、ただ単に感想を述べただけかもしれないし。故に、気持ちを切り替えて、渡された用紙に目を落とす。

 氏名、学年、クラス、そしてどの曜日が好きか。それらを記入する空白をぼんやりと眺める。

 どの曜日が好きか、ね。そんなこと考えたこともなかったけど。

 差しあたって思い浮かぶ曜日も無く、ここでうんうんと唸りながら吟味する気もなくて、俺は黒板の上でスピーカーと横並びにかけられた時計を視認して立ち上がった。

 とりあえず、かーえろっと。








「あー、あー。七月九日月曜日、午後三時過ぎ。総目高校放送委員会、本日最後の放送です。お聞きいただいている曲は、ドビュッシー作曲の『月の光』です。

 一学期もとうとう終わりが近づいてきましたね。一学期初めには満開だった校庭の桜並木も、ついこの間に葉桜となったばかりだったのに、気づけば新緑の時期を過ぎ、今は元気に濃い緑の葉を生やしています。人があっという間だと思っていても、景色は常に刻々と移ろい続けていて、ふとその景色に目をやれば、思いのほか時間が過ぎ去っていたんだなと改めて実感させられますよね。桜はそんな景色の中でも、特に赴き深いものがあります。日本人たるもの、桜の木を見れば思わず感慨に浸ってしまうことでしょう。

 私の場合、桜を見たときに思い出されるのは卒業式でしょうか。とりわけ小学校の卒業式は今でも脳裏に鮮明に焼きついています。物心ついてから初めて訪れたお別れの時で、当時仲の良かった友人と、卒業式の真っ最中からわんわん泣き腫らしたのを記憶しています。

 出会いがあれば別れがある、なんて言葉もありますが、何もそれは卒業式や入学式のある春だけとは限りません。

 突然ですが、本日を以って月曜日の放送もお別れになります。こうして放送部に携わり、皆さんに向けて声を発信できたことは、とても楽しくて、そして有意義なものだったと顧みています。これは私だけではなく、月曜日の放送を担当した十六夜涼風、夜凪光輝も抱いているものです。

 今日で最後だなんて、まだ実感が沸かなくて、来週にもふと放送部に訪れてしまいそうです。

 けど、お別れはお別れです。きちんと受け入れなくてはいけません。

 ……お聞き苦しい部分もあったでしょう。聞くに堪えないと耳を塞がれた方もいらっしゃるでしょう。ですが、月曜日の放送を聞くためにと、頑張って早起きをしてくださった方もいらっしゃると思います。もしくは、ただ何となしに聞き流す程度に放送を聞いてくださった方もたくさんいらっしゃるでしょう。

 そんな、全ての皆さんに、改めて挨拶をさせていただきます。

 今まで、本当にありがとうございました。また、お会いできる日まで! …………あ、じゃなった。また、二学期で!

 危ない。勢いに流されて本当に最終回にするところでした。

 実際には二学期も引き続き、メンバーも変わらずに月曜日の放送をお送りする予定です。なので、二学期になってもよろしくお願いしますね?

 と、一学期最後の月曜放送、最後までお聞きいただきありがとうございました。担当したのは私、月島由愛と、夜凪光輝。そして、私と小学校の卒業式で泣き合った友人、十六夜涼風でした。

 皆さん、二学期までお元気で。それでは、さようなら」









 ふぅ。危なかった。月島さんの放送と同様に、勢いに流されて帰宅してしまうところだった。

 上履きから靴へ履き替えたところで放送が聞こえてきて「今日も月島さんは頑張ってるなぁ」と他人事ながら感心しつつ、そのまま校門を抜けかけたところでUターン。あと一分気づくのが遅ければ何事も無かったように帰宅していただろう。危ない危ない。

 引き返してやってきた教室はもぬけの殻だった。クラスメイトも、木戸や放送部の面々もいない。放送も終わったみたいで、スピーカーから月島さんの声が聞こえることも無く、教室内は静寂に包まれていた。

 帰宅部などと自称するぐらいだ。こんな時間に教室にいること自体が稀で、見慣れたはずの教室なのにどこかノスタルジーな気分になる。時間や、人の姿のあるなしで、こうも見える景色が違うとは。

 ギィと所々鳴る床を、一歩一歩と踏みしめながら窓辺へと向かう。締め切られていなかったカーテンの奥にある窓を開くと、むわっとしていた室内に風がゆるりと入り込む。それに、陸上部だろう。窓辺からは校庭で走り回る彼らの姿が見え、数人の声も聞こえてきていた。

 ご苦労なことだ。夏の日差しを受け、それでも懸命に走り続け。何がそんなに楽しいのか。あるいは、その原動力になっているものは何なのか。そんなに必死に走って、その先に何があるっていうんだ。

 ……下らない。本当、下らない。

 部活動に精を出すぐらいなら、学業に専念すればいいのに。そうした方が、自分のためにもなる。今だけの夢や楽しさを追いかけて、将来の自分を蔑ろにして、勿体無いにも程があるだろ。

 ……でも、自分でも分かってる。本当に下らないのは、こうやって人の頑張る姿を見て卑屈になる自分自身だって。

 結局、何かに一生懸命になる彼らを見て、俺は憧憬のまなざしを送りつつも、そんな自分を隠すために嘯いているだけなんだ。嫉妬に執念を燃やす男ほど、見苦しいものはないのだから。

 と。教室の戸の開く音が辺りに響いた。

「ごめんなさい、お待たせしちゃって」

 振り返れば、扉に片手をかけながら肩で息をする月島さんがいた。

「ううん。元々待つのは覚悟してたわけだし、それに急いで来てもらったっぽいからさ、気にしないで」

「そう……? けど土田君、怒っていない?」

「え? 怒る?」

 すると月島さんはおっかなびっくり頷いた。

「うん。でもその、怒ってるっていうか、何だか、悲しそうに見えた」

「あー……ちょっとね。それより、早速だけど本題に入ろうよ。俺なんかにどんな用があるの?」

 気取られぬよう、語調穏やかに話題をすり返る。

 すると月島さんはほんのりと頬を上気させ、耳の上にある二房の髪の束をぴくんと跳ねさせた。

「そ、そうだよね、本題。うん、本題」

 まるで自分に言い聞かせるように、月島さんは何度も頷く。緊張でもしているのか、表情は硬く、呼吸に合わせ胸が隆起する速度も心なしか速い。……いや、胸元ばっか見てる訳じゃないんだよ!?

「それで、土田君」

「は、はいっ」

 いかん。変なことを考えていたからか、上擦った声で返してしまった。だが、月島さんは気にも留めずに続ける。

「お願いが、あるの」

「……」

 正に、言葉を失った。

 二人きりの教室。目の前に立つ美少女は、もじもじと手先を擦り合わせ、上目遣いでこちらを見ている。小動物めいた庇護欲を掻き立てられる素振りで、頬を真っ赤にしながら口にした言葉が『お願い』ときた。

 脳内で伴奏が流れる。次いで歌声が木霊する。

 はーるーよー、とーおーいーはーるよー、まーぶたーとーじれーば――。

「土田君、聞いてる?」

「き、聞いてるよ?」

 思わず歌詞通り瞼を閉じてしまっていた。危うく脳内で流れるメロディに乗せて「そーこにぃぃ!」と叫んでしまうところだった。

 ぶるぶると頭を振って脳髄にこびり付いていそうな煩悩を振り払う。

「……すごく唐突で、困ると思うんだけど」

「そんなこと思わないよ、うん絶対」

 鼻息ふんすと鳴らし、生唾ごくり。煩悩は振り払えていませんでした。

 月島さんはそんな俺を見て小首を傾つつ続ける。

「その……放送部の仲介をお願いしたい――」

「喜んで!」

「え、即決?」

「当たり前だよ! 月島さんのような美少女にそんなことを言われて断れる奴がいるかい? いやいない」

 テンプレな反語を披露しつつ、グッと拳を握り締める。

 春だ。俺にもとうとう春が来た。英語で言えばスプリング。正に飛び跳ねたいぐらいの喜びを噛み締める。この世に生れ落ちて十と七年。女子との触れ合いなんて滅多になくて、最終的には蔑まれ罵りの対象となってしまっているのに、こんな素敵イベントが高校二年生にして訪れてしまうなんて。しかも相手は学校きっての美少女、月島さん。そんな人にお願いをされて断れるほど――って。

「……仲介?」

「うん。放送部の、仲介」

「告白じゃなくて?」

「え? なんのこと? でも良かった。断られるんじゃないかってビクビクしてたんだ。もう頼れる人が土田君しかいなくて」

 ……おい、俺の春どこいった。すっごく面倒なことをお願いされただけな気がするぞ。挙句、月島さん両手を合わせてとても華やかで、開放感溢れる笑顔を浮かべていらっしゃるし。もう断れる空気じゃないぞ。

 ひくつく頬もそのままに、月島さんに問いかける。

「あの、詳細を、教えてもらっていいかな?」

「あ、そうだよね、ごめんね。土田くんが了承してくれたことが嬉しくて、説明するのを忘れてたよ」

 あぁぁぁ。やめてよ、そんな人懐っこく笑いながら綺麗な白い歯を零さないでよ。俺の背中に乗り切らない程のプレッシャーがのしかかってくるから。もし綿矢さんが今の俺を見たらこう言うよ。「あの背中、蹴りたい」ってね。

「……どうしたの? いきなり自慢げな顔つきになったけど」

「気にしないで。改めて言われるとちょっと恥ずかしいから。そんなことより、説明を」

「う、うん。えーと、放送部の現状って分かる?」

「現状、ねぇ」顎に手をやり、天井を仰ぐ。「俺の分かる範囲で言うと、部員数が全部で十八人で、その内の三人は幽霊部員同然。だから実質十五人で放送部を切り盛りしている。文科系の部活動だと、吹奏楽部に次いで人数が多い。創設は総目高校の開校当初から。去年まではその歴史に違わない、良く言えば由緒正しい、悪く言えばありきたりな放送部だった。けど、とある『事件』が起こって、それが起点となったのかは知らないけど、今みたいな『ラジオ』のような放送にシフト。それが好評を博して、総目高校の生徒の間ではムーブメントといって差し支えの無い盛り上がりを見せている。その人気の中心は五人。月曜日の月島さん。火曜日の火ノ元灯火。水曜日の水上水夏。木曜日の木戸透子。そして、部長兼金曜日担当の金井やしろ先輩。とは言え、そんな五人の中でも一際人気が高いのは、月島さん。っと、こんなんで良いかな?」

 視線を下ろすと、呆気に取られた様子で月島さんがぽかんとしていた。

「よく、知ってるね。さすが」

「そうかな? これぐらいここの生徒の間じゃ常識でしょ」

 事実、生徒間の話題に放送部関連のものが出てくることはしばしばあるわけで。いや、俺はただ聞いてるだけですけどね。しかも他人同士の会話をね。僕に話題なんて振ってもらえませんから。

「でも、一つ違うことがある。五人の中で、私の人気が高いってところ」

「え? 謙遜じゃなくて?」

「うん。違う。自分で言うのもおかしな話だけど、数ヶ月前だったら、私が一番注目を浴びていたかも知れない。けど、今は違うの。それぞれの曜日の代表者、皆が人気を集めていて、今それは拮抗している。それが問題なの」

「それでも、部活動としては良い事なんじゃないの? 一人だけが人気を集めているより、ずっと健全な形だと思うけど。そりゃ、月島さんからすれば面白く無いって感じるのかもしれないけど」

 だが、月島さんは横へと首を振った。

「私自身、お互いに研鑽を重ねることは良い事だと思ってる。けど、それは部活動が正常な状態で運営されているならっていう前提がある。そうでなきゃ、何を目標にすればいいのか、明確な指針がないから」

 運動部であれば確かに押しなべて勝ち負け、優劣のつけられる部活動ばかりである。

 あるいは文化部でも、良し悪しを判別するだけの最低限の基準のようなものは存在するだろう。とは言え、そればかりではなく、自らのセンスを一部の人に伝えるような、いわば芸術性の高い部活動があるのも事実だ。つまりは、一枚の風景画を見て皆が皆同じ意見を抱かないのと同じ。そして、その風景画を見た人の意見そのものが、その画を描いた人物の糧になり、反省点ともなる。意見の取捨選択をし、どのように次に生かしていくのか。そんな、正解のない行動を繰り返していくことが、いわば芸術であり、センスの問われる部分でもあろう。

 その意味では放送部の現状はそういった芸術により近くなっているのかもしれない。

 あまり一般の人には知られていないが、放送部にだって全国大会があり、その模様は全国区のテレビ局で放映もされる。しかし、総目高校の放送部の人気がどれほど高くても、そんな大舞台に出ることはないだろう。一般的に受け入れられている放送部とはスタイルが違うから。大会の基準に、求めているものにそぐわないから。

 だからこそ、総目高校の放送部に向上心が自然と生まれることは無いだろう。明確な目標が無いから。総目高校放送部が目指すべきスタイルが存在しないから。となると場当たり的に『総目高校の中で人気を集める』ということが当面の目標となるのだろうが、人気はどの曜日でも拮抗している。拮抗しているとなると、正解の無い活動においては不和が生じる。特に個性や我が強い人物が揃うとその傾向に偏りやすいだろう。

 そうして、ふと浮かんだのは二人の少女。木戸透子。それに火ノ元灯火。

 ……個性も我も強そう。つか実際に仲良くはなさそうだったし。

「でも、部長がいるでしょ? 部長に仲を取り持ってもらえば?」

「こんな場所で言うのも良くないんだろうけど、部長、金井部長は、ちょっと心もとないっていうか」

 あー。確かに。

 金井先輩は人を引っ張って進んでいくような人じゃない。むしろ、皆を見守るとか言って最後尾で歩いていたら、人知れず転んで一人迷子になるタイプである。

 それでも、いや、そんな彼女だからだろうか、下級生からは高い人気を誇っている。流石はパーソナリティ。多分、ウチのクラスにも何人かファンがいることだろう。

「それで、俺に白羽の矢が向いたと」

「うん、そういうこと」

「……」

「……」

「いやいや、ちょっと待って。どうして俺? 俺が仲を取り持つって言ったって、放送部の部員でも無いし、放送部の人の中にすっごい仲良い知り合いがいるわけでもないし。他にいくらでもいるでしょ? というか、普通に放送部の他の部員にお願いしたほうが良いんじゃない?」

 とてもじゃないが、一クラスメイトでしかない俺に頼むような事柄じゃないだろう。しかし。

「本当ならそれが良いんだろうけど、そもそも放送部が抱えている問題が、その方法での解決ができないようにさせてるの」

「不和が原因なんだよね? だとしたら、当人間での解決が一番望ましいでしょ。赤の他人がやってきてどうにかなるものじゃないと思うけど」

 すると、月島さんは目を細めて横を向き、顎を上げて何かを見つめた。視線の先を追うと、そこにはスピーカーがあった。

「不和ってわけじゃないの。ただ、放送のスタイルの問題でね。ほら、今日アンケートのお話しがあったでしょう? あれが今回の件に絡んでいるの」

 アンケート。好きか嫌いか、みたいな至極単純な内容だったな。

「あれが? あんなの、ただの人気調査でしょ? お祭りの一種みたいな」

「ううん、そうじゃないの。あの結果次第で、放送部のスタイルが変わる」

「スタイル?」

「うん。さっき、土田君が説明してくれたように、放送部は半年前から『ラジオ』のような放送に変化している。私たちがパーソナリティーって呼ばれているのも、その辺りが由来だと思うの。放送自体は好評を博していて、今や運動部や文化部問わず入部希望者の人数が一番多いわ。……けど、そんな現状とは別に、今の状況を良しとしない人もいるの。それも、放送部の中に」

「それはつまり『ラジオ』のような放送部は放送部じゃないとか、そんな感じ?」

 月島さんはこちらを向き頷いた。

「そう。放送部にお喋りなんて必要ない。決められた台本を、穏やかに、聞き取りやすいように読めばいいだけだって。簡単に言えば、旧放送部派ってことね。その急先鋒が水上さん。水曜日の放送を担当している彼女は、今の放送部を良く思っていないみたい。あと、金井部長も水上さん程ではないけれど、以前の放送部のようなスタイルが好ましいと思っているようなの」

「え? それじゃあ、月島さんは?」

「私は、どちらかと言えば今の状況に満足してる。『ラジオ部』なんて揶揄されることもあるけれど、それでも放送を楽しみにしてくださっている人たちもいるし、無理に転換する必要は無いじゃないかって思ってるの」

 少しだけ意外だった。俺の中での月島さんはよく言えば真面目で、悪く言えば愚直なイメージがあったからだ。彼女のような人間は、今の放送部に対して何かしら思うところがあると予想していたのだが。

「となると、今の放送部のスタイルを牽引してるのは、火ノ元さんかな?」

「ええ。彼女の場合は半年前から放送部に加入したから、以前の放送部を知らないの。だから尚更昔のような放送に戻す意味が分からないって言ってる」

 まぁ、今日初めて彼女を見かけたが、今のある意味派手な放送部だからこそ好んで所属している節がありそうだ。以前の、他校の放送部と変わらないところなら、彼女は見向きもしなさそうだ。

「ちなみにだけど、木戸はどっち派なの?」

「木戸さんは……うーん、ああいう子だから、どっちっていうのは無いと思う。むしろ、放送部にすら興味もないかも」

 うん、だろうな。放送を聞いてても、他の人たちとは毛色が違うし。

 月島さんはため息を挟んで続ける。

「放送で声を乗せている五人ばかりが取り沙汰されるけど、実際それぞれが担当している曜日の他の部員も、代表者である五人の意見に賛同しているの。つまり、曜日ごとに意見が違うってこと。そこで、今回のアンケート。どの曜日が一番人気が高いのかっていう調査」

 そこまで言われ、やっと俺はことの次第に気づく。

「今回のアンケートで一番を取った曜日。そこの意見がこれからの放送部のスタイルになる、ってことか」

「うん。だからこそ、今回私が言ったような仲を取り持つ行為を、部内の人にお願いすることはできないの。ライバル関係にある人間に何を言われても引かない人もいるから」

 水上に関する情報は殆ど持ち合わせていないが、昼に見た火ノ元は確かにプライドの高そうな人物だった。勝手な俺のイメージで恐縮だが。

「となると、月島さんが俺に仲介をしてほしいっていうのは、現在の放送部のままで行けるよう画策して欲しいってことなのかな?」

 月島さんは現状維持を望んでいるらしいし、そういうことなのだろう。と思っていたら違った。

「確かに私は今のままでも構わないのだけど、そうじゃなくて、皆が納得できるような形で今回の件を収めたいの」

「そのためのアンケートでしょ? 分かりやすくてシンプルな方法だと俺は思うけど」

 勝てば官軍負ければ敗軍。そもそも悪だとか正義だとか、正解だとか誤りだとか、そんなのが存在しない議論に対し、数字で優劣ないし結論を付けるのは悪くないと思う。その数字自体、総目高校の生徒たちの投票に委ねるのなら、総目高校における放送部の指針を決めるのに打ってつけなのでは。

 月島さんは片目を細め、苦々しげに歯を噛んだ。

「けど、今回の問題は放送部の問題なの。内輪の問題を外部に一任するのは良くない。アンケートっていうのは民主主義に倣えば良い手法なのかもしれないけど、事は政治とは無関係だし、何より放送をする当人が嫌がっていることを無理にさせるわけにもいかないでしょう。それに、人気さえ出れば良いとか、多数派が全て、みたいな考えは文化を成り立たせなくする。勿論いつかは時代の流れに合わせて、文化も変化するだろうけど、それは今じゃないと思うの。仮にも文化部と括られている放送部の部員としては、そういった部分を蔑ろにはしたくない」

 まぁ、そういう考えもあるか。

 俺は腕組みをしつつ「むん」と喉を鳴らす。

「それで、皆が納得できる解決策っていうのは?」

 魔法のような言葉だ。軋轢が生じ、アンケートによって全てを決めようとしていた状況を見るに、そんな解決策が存在するとは思えない。

 だが、月島さんは言う。それもふんわりと微笑み、自信に漲った表情を浮かべ。

「話し合い。皆でもう一度話し合って、それで解決するの。強引な方法ではなくて、平和で、誰も不平を感じないで、不満を口にしないように」

 思わず肩が落ちる。

「どうしたの?」

「い、いや」

 びっくらこいた。よっぽど考え抜かれた、あるいは斬新な手法だと思ったら、子供でも考え付きそうな綺麗ごとを口にされてしまった。

 だが、それでも月島さんの表情は変わらない。それどころか腹部の前で合わせた両手の中へ宝物を隠し持っているかのような暖かな視線を向けつつ語りだす。

「今だとみんなギスギスしちゃっているけど、昔はそんなことはなかった。一緒に遊びに行ったりもしたし、放送が終わってから違う曜日の人も交えて、宿直の先生に怒られるまで放送室の中で他愛も無い話をしてた。笑顔が絶えなくて、すごく心地よくて。きっとそれは皆の人柄が雰囲気に表れてたからだと思うんだ。だから、皆分かり合える。悪い人なんていないんだから、昔は分かり合えていたんだから、絶対に話せば解決する」

「……」

 何も言わない俺を見て、月島さんは慌てたように反応した。

「ご、ごめんなさい、その……土田くんに言うような話じゃなかったよね、本当にごめんなさい」

 そう言って月島さんは頭を下げようとしてきたが、そんな彼女の額を抑える。月島さんはぽかんをしながら俺を上目で見てきた。ちょっとばかり気恥ずかしさがこみ上げてきて、目線を逸らしながら空いたもう片方の手で頬をぽりぽりと掻きつつ、俺は告げる。

「まぁ、良いんじゃない。なおざりな想いなら同意はできないし、理想だけを捏ねてるって言うつもりだったけど、本気なら良いと思うよ。俺はそういう理想、嫌いじゃない」

「……」

 今度は月島さんがだんまりとしてしまった。気まずい。

 が、直ぐに変化が訪れた。俺の手のひらに感触があったのだ。何かと思い見てみると、眼前に月島さんの顔が迫っていた。満面の笑み。これ以上ないほどの感激ぶりである。しかも、彼女の両手の間に俺の手は挟まれている。一瞬にして顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。

「ありがとう! 土田くん、やっぱり良い人だね! 私の目に狂いは無かった!」

「い、いや、それはいいから、その、手」

 あたふたとしてしまう俺に、これでもかと月島さんがにじり寄る。

「信じてた、信じてたよ私。絶対、土田くんなら、ぐす、分かってくれるって」

 俺の発言を意ともせず、あまつさえ瞳を滲ませ涙声で語りだす月島さん。おいおい、俺を惚れさせたいのかこの人。

 が、あわわわわと酸素を求める金魚の如く口をパクパクさせる俺を見て、月島さんは小首をちょこんと傾げた後に、俺との距離を再確認し、頬を赤くしながら身を引いた。

「あ、ごめんなさいっ」

「え、あ」

 けれど、俺の手は彼女の手にギュッと握られたままだったので、引っ張られるような形で今度は俺が彼女に近づいてしまう。しかも勢いあまって、月島さんの体にほぼ密着する形となる。

 鼻先がくっつきそうなほどの至近距離。潤んだ大きな瞳が直ぐそこで瞬く。微かに漏れる甘い吐息が俺の鼻腔を擽る。

「「あ、あぁあぁあぁ」」

 二人してビブラート気味に発声してしまう。と、漸くどうすればこの事態を打破できるのか月島さんは気づいたらしく、サッと俺の手を離すと距離を置いてから身を翻した。

「本当にごめんなさい……」

 肩は強張り、声は震えがちだ。俺みたいなモブキャラを間近で見て恐怖してしまったに違いない。安心させるためにもここは男の俺が優しく声をかけなくては。

「き、気にしなくていいよぉぉ」

 おい情け無いな俺! 月島さんと比較にならないぐらいに声震えてるし、終いには語尾がだらしなく伸びてるし。

「……」

「……」

 駄目だ。俺まで月島さんに背を向け、しかも何て声をかけていいか思い浮かばない。俺の人生において、こんな桃色ハプニングは初めてなので対処法を知らないのだ。誰か教えて欲しいぐらいである。

 と、そこへ、ガラリと扉が開く音が響いた。肩をびくっとさせつつ、後ろへ振り向く。そこには。

「き、木戸ちゃん」

「月島に…………うん」

 うんじゃないよ。俺の顔見ながら「何だっけこいつの名前」みたいな顔した挙句に一人納得したように頷くんじゃないよ。絶対お前、俺の名前忘れてるだろ。

「あ、この人は土田君って言って」

「ああ。そうそう。それだ」

 俺を紹介してくれようとしていた月島さんの声を遮り、木戸がポンと手を打つ。

「あれ? 木戸ちゃん、土田くんのこと知ってるの?」

「ちょっとね。昼間に色々あって」

 木戸に代わり説明すると、月島さんはあまり要領を得ない様子ではあったが納得してくれたようだった。

「それで、木戸ちゃんはどうしてここに?」

「……」

 いや無表情のまま固まるなよ。挙句、首を斜めにして目をパチクリとさせてるし。

「ここに用事ってことは、アンケートに関連したことじゃないのか?」

 そうそう一年生が二年生の教室に訪れる機会なんてないだろうし、木戸は放課後放送部のアンケート調査のためにここに来ていた。用事があるとすればそれに関したことぐらいだろう。

 俺の合いの手に対し、木戸は「ああ」と思い出したように声を上げながら二度手を打った。

「そうだった。配布用のアンケート用紙を置き忘れてたんだった」

 結構重要そうなの忘れてるな。メガネ男子が再交付は無いって言ってたぐらいのものなのに。

 木戸はテクテクと教卓と黒板の間まで向かうと、身を屈めて教卓の中を覗いた。そしてガサゴソと数秒漁った後に一言。

「……無い」

「ええ?」

 それやばいんじゃね? と思うのだが、木戸はまったく焦る様子がない。

「ま、何となるからいい」

「い、いいのかそれ。どうなの月島さん?」

 さりげなく月島さんに話を振ってみる。さっきの一件があって、僕は目は合わせられないんですがね。

「うーん、大丈夫だとは思う。一応、もう全校生徒に用紙は配布しているはずだから」

「そういうこと。それじゃあ、私は帰る。じゃあね」

「あ、ああ」

「うん、じゃあね」

 入ってくるときと同じく、テクテクなんて言葉が良く似合う歩き方で教室を出て行こうとする木戸。だが、扉を開いたところで足を止めて振り返ってきた。

「そういえば、どうして二人ともこんな時間に教室にいたの? しかも、距離も近いし座ってもいなかった」

「え、あ、いや、それは」

 口を開きながらどう言い訳したものかと思案しつつ月島さんへ何気なく目を向けると、困ったような顔をしていた彼女と目が合った。

 そして。

「「あう」」

 二人して謎の声を上げながら目を背け、顔を伏せてしまう。

「……ああ、そういうこと」

 と、その様子で何を感じ取ったのか、木戸は三度手を打ちつつ大きな動作で頷くと、スッと手を上げてきた。

「お邪魔したみたいだ。二人で後はゆっくりしていって欲しい。ばいばい」

 そのまま素早い身のこなしで教室を後にしていった。

「……」

「……」

 いや、完璧に勘違いなんですが。少しはこっちの言い分を聞いて欲しかったんですが。俺みたいな奴と噂にでもなったら、月島さんも困るだろうし。

 と、そんなことを考えて青ざめてすらしまいそうな俺だったが、不意に聞こえてきた月島さんの笑い声により思考が途切れる。

「え?」

「ふふ、木戸ちゃん、本当にマイペース」

 そう言って、月島さんは笑みを零しながら木戸の去っていった扉を見つめている。

 ……なんだかんだ、木戸は役に立ってくれたようだ。俺も体の力を抜いて、フッと微笑んでしまう。

「さっきの話だけど、俺協力するからさ。何したら良い?」

「えっ?」

 すっごい嬉しそうな顔して月島さんがこっちを向いてきた。さっきのハプニングが脳裏を過ぎり、一歩後ずさんでしまう。と、月島さんもそれを思い出したようで、ハッとした様子で今にも飛び掛らんとしていた体勢を元に戻した。

「良いの? 面倒だなって思うんだったら無理しなくても良いんだよ?」

「じゃあ無理」

「え」

 けんもほろろに断ってみると、月島さんはショックのあまり動きを静止して涙をちょちょぎらせた。いちいち表情が豊かである。思わず吹き出してしまう。

「嘘だよ。いや、面倒だなとは思うけど、それを承知の上で手伝いたいって思ったから大丈夫」

 俺の返事を聞いて、月島さんはぷーっと膨れっ面を披露した後、ニッと微笑んだ。

「それじゃあ、どんな面倒ごとも引き受けてくれるってことだね。覚悟、しててね?」

「は、はい。分かりました」

 俺が側頭部に手をやりながら会釈をすると、月島さんはおかしそうに笑った。

「とりあえず詳しい話はまた明日するね。朝八時過ぎに職員室の前で待ち合わせをお願いできるかな?」

「職員室前? えーと、まぁ、いいけど」

 話をするのに職員室前ってどういうことだろうか。そんなことを考えている内に、月島さんは軽い身のこなしで自らの机に置かれていた学生かばんを取りつつ、教室の出入り口付近へ移動していた。

「ちょっとこの後用事があるから、私はお暇するね。ごめんね、私から呼んだのに」

「いや、構わないよ。気にしないで」

 言って、手を振り見送ろうとしたが、ふと疑問が湧き出した。

「そう言えば、さ」

「うん?」

「どうして俺に今回の件、お願いしてきたの? 部員の人に頼めないのは分かったけど、それでも他にいたんじゃない?」

「ああ……そうだ、ね。私と仲の良い人にはあまりお願いはしたくなかったの。そこから疑いをかけられる可能性もあったし。けど、土田君にお願いした一番の理由はね」

 そこで、彼女は少しばかり伏せていた面を上げ、俺の目を見つめてきた。口元を僅かに綻ばせ、懐かしいものでも見るような眼差しをしながら。

「卒業アルバム、帰ったら見てみて?」

「え」

「それじゃあ、また明日」

 上げた手を横へと振り、月島さんは足早に教室を出て行った。

 ……卒業アルバム、か。

 思い当たるのは二種類。小学校、そして中学校。

 けど、多分であるが、彼女の言う卒業アルバムとは小学校の方だろう。

 なぜなら彼女、月島由愛と俺は、小学校時代に同級生だったから。

 幼馴染と言えば仲良さげに聞こえるかもしれないが、小学校時代に彼女と話したことは殆ど無くて、中学校は別々の場所だった。

 そんな、名前だけの幼馴染の彼女と俺だったが、よもやこのような形で距離を縮めることになろうとは。

 ……とりあえず、帰ったら卒業アルバムでも開いてみるか。

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