第5話 始まりのキス
「おおおっ!なんという可愛らしさだディノ!天使だ女神だ、この世の奇跡だ!」
パーティーは、王の親バカバカ発言で幕を開けた。
ピンクのドレスを着たディノ姫は恥ずかしそうに、頬を赤く染めて可愛らしく微笑む。
「やばい天使過ぎる・・・」
「さあ、側に来てわたくしにもよく見せて頂戴!」
などと、周りにいる兄王子たちも母王妃たちも似たようなテンションなので、王の親バカっぷりはたいして目立たないのだが。
このパーティーには近隣諸国からたくさんの王族を招いている。
英雄ダグラスがここグリーン王国の領土を確固たるものにし、大国として周りの国に目を光らせるようになってから100年、表向きは争いは無くなっているが、いつ何時他の国が兵力をつけて台頭してきてもおかしくない状況だった。
常に他国の状況を把握するために、グリーン王国では何かにつけてパーティーを開き他国の動向を観察していた。
「今日は我が最愛の娘、ディノのお披露目だ。皆存分に楽しんでくれ!」
王は上機嫌で王座に座る。その横には第一王妃である「月曜日のお母さま」が座っていた。
参加している他国の者たちは、口々に姫の可愛らしさを褒めたたえ、王の機嫌を一層良くしていた。
「グリーン王よ、ディノ姫はなんと愛らしいのであろうか。ぜひとも我が王子の妃に下さらぬか。」
「いや、ぜひ我が国に!」
一通り姫の取り合いの言葉を満足げに聞いた後、王は大声で言った。
「まことに申し訳ないのだが、姫は我が命、我が宝、一生嫁に出す気などありませぬ!」
「おお、それでは姫は一生誰とも結婚しないのですか・・・?」
どこかの国の王子の問いに、王は深くうなづいた。
本心とお世辞の混じった悲しみのため息が皆から漏れる。
「もう、お父様ったら・・・。」その様子をディノ姫は困って見ていた。
「いつものことだよ」
そう言った1番目の兄王子、カインが今日の姫のエスコート役。
小さな愛らしい手をそっと握っている。
「みんな食べちゃいたいくらいキミのことが好きなんだからね。」
優しいブルーの瞳と輝く金髪の美しい兄は、たまらずディノを抱き上げた。
「カインお兄様、皆が見てるよ~。恥ずかしい・・・」
ディノは宙に浮いてしまった足をバタバタさせた。
「ごめんごめん、ディノはいつまでたっても赤ちゃんみたいな気がしてね。もうパーティーにデビューした立派なお姫様だもね。7歳のチビ姫さん。」
お兄様は一言多いの、とディノがほっぺを膨らませていた時、入口の扉が大きく開かれた。
一斉に注目が集まる。
大柄で、全身立派な黒い服を着た男と、同じく黒ずくめで黒髪の少年。
目立つ二人。
「ご招待いただいたのに、遅れてすまんな」
男はひげを蓄えた口元でにやりと笑う。
「これはこれは、遠路はるばるよくいらしてくださった。ロン王。そちらはご子息かな?」
「そうだ。我が息子、我がグレー王国の最強の剣、クラウドだ。」
「最強の剣・・・・?」
「あ~・・・!」
ディノ姫はクラウドを見て、驚いて指さす。それはさっき姫の手を掴んだ黒髪の少年だった。
クラウド王子もディノをじっと見つめる。
「おお、姫は我が王子のことをお気に召されましたか。幼いながらも大変お目が高くていらっしゃる。
我が王子クラウドは神の才能が宿りし者、行く末は必ずやこの大陸の覇者となりましょう。
英雄ダグラス以上の。」
「なに・・・?!」
グリーン王国への、挑戦とも取れるこのロン王の発言に、辺りは一瞬にして静まり返り緊張が走る。
その時、
ピピピ
と小鳥の鳴き声がした。
いつの間にかディノの目の前に立っていたクラウドが、白い小鳥をディノに手渡していた。
「庭の森で拾いました。ヒナではないようですが羽を痛めているようです。よろしければディノ姫、地上の天使が治してやって欲しい。」
その小鳥は、びっくりして固まったままのディノの手をすり抜けて、頭の上に上りご機嫌にさえずり始めた。
「あ、小鳥さん、そこは巣じゃないのよ~」
その可愛らしい様子に周りの緊張がほぐれる。
黒髪のクラウドは跪いて、ディノの手を取った。
「この美しい手に、キスをしてもいいですか?」
尋ねられた兄王子カインは、手になら、とうなずく。
「えっあの・・・」
あたふたするディノの手に、クラウドの唇が触れた。
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