第3話 ディノ姫、目覚めちゃいそうです

7歳になったチビ姫ディノは、グウグウと眠り夢を見ていた。


見渡す限りの荒野に立ち尽くす自分。

立てれば顎の先に付く大剣を支えにしている。


目の前にいるのは、真黒な鎧を全身にまとい倒れている男。


男はディノを燃えるような瞳で睨みつけながら言った。

「覚えておくがいい・・・!次の世ではお前はきっと屈辱にまみれ俺にひれ伏すことになるだろう・・・!!」



ハッ と目を覚ますと、ディノはいつものふかふかのベッドの上だった。

なんだか恐ろしい夢だったが、夢でよくあるようにわずかな形を残してすぐに忘れてしまった。



「今日は月曜日のお母さまよね!」

ディノ姫は世話係の女の子アナイスに嬉しそうに尋ねた。

サラサラの茶色の髪をそのまま流し、水色のワンピースで跳ねるように歩きながら。


5歳を過ぎたころから各曜日の母に、ディノは様々な習い事をしていた。

礼儀作法、ダンス、語学、歴史・・・。


ディノは嫌がらずに一生懸命やるのだが、どれもいまいちパッとしない。

しかしそんな不器用な姫を皆は叱るでもなく、可愛い可愛いと見守っていた。


とくに王子たちは何をしてもおぼつかないディノ姫が可愛くて仕方ないらしく、それぞれの曜日の母と一緒に姫を教えていた。

ディノ姫も兄王子と勉強できるのがとても嬉しかった。


アナイスはちょっと気の毒そうに答えた。

「ディノ姫様、今日は皆様お忙しくて、お勉強はお休みなのでございますよ・・・。」


「え・・あ、そうか!今晩はお城でパーティーがあるって、お兄様がおっしゃってたもんね。」

「ええ、ですから姫様も、ご準備をなさらないと。今夜のパーティーは、姫様も初めてご出席なさいますのよ。ああ・・・王様がとても素敵な服をお求めになられておりますの。ディノ姫がお召しになれば、どんなにお可愛らしいか・・・!」


うっとりとするアナイスもまた、ディノ姫にメロメロなのであった。

「では少しお庭をお散歩して、お食事をなさったからお支度にとりかかりましょう。」



ディノはアナイスと広いお城の庭を歩き回っている。

春が過ぎ、夏が近くなったので色とりどりの花々は少なくなってしまったが、代わりにいろんな虫が草の陰から現れるようになった。


ディノ姫は虫が大好きで、7歳になってもどこまでも追っかけていく。

「あ、バッタさんだ~!」


満面の笑顔のディノ姫、しかしアナイスの顔は引きつっていた。


「姫様つ、わたくし虫だけはとても苦手なんですの・・・!ご一緒できなくなるから、あまり茂みの方には行かないでくださいまし・・・!」


「だって珍しいバッタさんがいたんだよ~」

ディノはトコトコ茂みの中に入っていく。


「ディノ姫様~!」


(あんまりアナイスに心配かけちゃだめだよね)

ディノが早くバッタを捕まえて戻ろうと草むらに駆け込んだとき、伸ばした手を何者かに掴まれた。


「ん?」


誰かが草の上に寝ている。


掴まれた腕をグイッと引っ張られ、2人の顔が近づく。


精悍な顔立ちの黒髪の少年がジッとディノを見つめた。


「ひさしぶりだな」






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