第2話 チビ姫がアレを抜いちゃいました!

さて、グリーン王国に生まれた待望の女の子ディノ姫は、2歳2か月までポヤ~として育った。

フワフワのマロン色の髪と、クルクルのちょっとタレ目のこげ茶の瞳。白くてつやつやの肌。

誰がどう見ても可愛かった。


周りからは蝶よ花よと育てられて、まさに下にも置かれない生活。


実母を含む7人の王妃たちは、姫を取り合って可愛がるあまり、それぞれ曜日でこう呼ばれた。

「月曜日のお母さま、火曜日のお母さま、水曜日のお母さま・・・。」

各曜日に、ディノを抱っこできる優先順位があるのだ。


たまに姫の姿が見えないと思えば、公務をさぼった王様か、抜け駆けした兄王子たちのうちの誰かの膝に座っていた。

姫のために職人が用意した靴は、歩けるようになったというのに全く汚れることはなかった。



そして2歳2か月のある日。


王様がディノ姫を抱っこして、お城の礼拝堂に連れてきた。

姫が生まれた時に、感激した王様が、祈りをささげていたダグラスの像に感謝のしるしとして金箔をほどこすように命じていたのだが、それがようやく完成したのだ。


17歳の第一王子のカインと、12歳の第六王子のビートがお供についてきていた。

黒髪のカインとビートは顔がよく似ていた。それもそのはず、母親が姉妹なのだ。

ポ~っとするディノ姫の、ぷくぷくのほっぺを2人で交代でつつく。

そのたびに姫はニコーッと笑う。

「か、可愛すぎる・・・!」

「兄上、ボク萌え死にします・・・!」

「まさに・・・食べてしまいたいとはこういう気持ちなのか・・・?!私はディノの(ピー)ぐらいなら食べられるぞ・・・!」

「ボクだってイケますよ!」

性格も似ているちょっとやばい兄弟だった。

ちなみに王様も常にこのテンションなので、王子たちの奇行はまったく気にしていない。




「ついでに礼拝堂の窓や柱を装飾しなおしたから時間がかかってしまったが、ディノ姫、ついに完成したんだよ。お前のための英雄ダグラス像だ。

この像の前に捧げられている剣は、100年前に本当にダグラスが使っていた神剣なんだよ・・・。」


まだ言葉もよく分からないディノ姫に、ご機嫌に話す王様。


「どうだ、立派な像だろう?」

まばゆいばかりの金の像。たくましく、荒々しく、凛々しい勇者ダグラス。

大きな剣を大地に突き立ててまっすぐに立っている。

「背丈は2メートルに近く、その体は戦いの神のごとく鍛え上げられ、その力はどんな野獣よりも強かったという。いかなる武器も使いこなし、いや、武器などなくとも1000人の戦士以上の戦いをした勇者だ。」王様は誇らしく語る。


ディノ姫はじーっとダグラス像を見た。


そのあと、前に飾ってある神剣に手を伸ばす。

「これこれ、姫、剣に触ってはいけないよ。危ないからね・・・。まあもっともこの剣は、英雄ダグラスのために神が作りたもうたという神剣、ダグラス以外は何人もその鞘から剣は抜けな・・・。



えええ~!!!」




ディノ姫はひょいっと剣をその鞘から引き抜いた。



「姫ーつつ?!」

「す…すごい!姫が・・・姫が剣を・・・!」

「さすが、我らが天使、グリーン王国に生まれた女神だ!」

驚き、喜ぶカインとビート。


しかし王様は姫をぎゅっと抱きしめ、怖い顔をしていた。

「おお・・・、まさか、まさか、姫・・私の最愛の姫が・・・」


 その時、姫は雷に打たれ様な衝撃を受けていた。


いままでピンク色だった視界が、一瞬で真っ白になったような衝撃。


(あれ・・・オレ・・・?)

そのあと、なぜかディノはもの凄く眠たくなって、コテンと王様の腕の中で眠ってしまった。


王様はすやすや眠るディノを見つめながら二人の王子にこう言った。


「よいか、ディノが剣を抜いたこと、決して他言してはならぬぞ!」


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