ヒマジン

ケラスス

第1話ようこそ、素晴らしきヒマジンの世界へ

 暇だ!


 素晴らしき暇!

 ようこそ。ヒマジンの世界へ。


 暇というだけで、どうしてこうも胸踊るのか。


 暇とは、なんでもできるように思わせてくれるが、実は大して何も出来ない。

 人間は忙しい生き物で、暇は貴重なものなのだ。


「富はすばらしいものである。というのは、それが力を意味し、閑暇を意味し、自由を意味するからである」

 ローウェルの言葉だ。


 富は素晴らしことであるが、暇をもて遊べないものに自由はない。


 一日のうち暇な時間などどれだけあるというのか。


 食事、睡眠、排便。入浴だけで一日のうち十時間ほどが消費される。

 仕事をしている日、労働でさらに十二時間が消費され、残りは二時間。

 職場から自宅まで往復一時間。

 着替え、靴の履き替え、家事や洗濯を、カゴに入れ。洗い終わったものを取り込み干すのに三十分。


 私の普段の暇な時間は、三十分。


 この三十分が人生の中で最も尊い。

 思い出に浸ってもいい、未来を夢見るのもいい。

 心の自由な時間。


 スケジュールとは、暇を作るためにある。


 人間は暇なしには幸せとは言えない。

 暇を作れ!

 もっと詰めて時間を伸ばせ!


 そして、ついに私は達成したのだ。

 暇の境地、予定零の世界へ。


 人間が生きていくために必要なことは除いても、全ての家事や仕事から解放された時間の楽園。


 それこそが暇な休日であり、この中で自由に暇を過ごせるものがヒマジンである。


 ヒマジンになれるものが一体どれだけいるというのか。

 大人になるにつれ、その割合は少なくなり、取り憑かれたように暇を予定で埋め尽くす。


 暇なきものに、心の安らぎなどない。


 想像してほしい、世界中の全ての人が暇な世界を。

 すばらしいではないか!

 君がヒマジンになることを望むなら、私は喜んで迎えよう。


 ただし、一つだけ注意してくれ。

 ヒマジンはあくまでも暇を謳歌するのであり、暇にあらかじめ予定を詰め込んではいけない。


 ヒマジンは暇の中で、暇つぶしという閃きと思いつきで行動する。


 予定は未定が鉄則であり、ヒマジンのルールだ。


 暇つぶしとは、自由で何物にも縛られず気ままに遂行しなければならないのだ。


 準備ができたら次の話に行こう。

 私の暇な休日を参考に、君のすばらしい暇な時間に役立ててもらえると嬉しい。

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