リトル・ワールド・レクイエム
精華忍
第1話 消失センチメートル
この世界に、大人はいない。
そもそも、大人という概念も、言葉も、実態も、認識も――すでに無い。ぼくが生まれたその時には、すでにそういう風に『成って』いた。
そして、これからもそれは変わらないだろう。
なぜなら、この世界がそういう風に『出来て』いるから。そういう風に『決め』られているから。
あえて言うなら、ぼくは興味がない。そんなものを持っていたところで、何の役にも立たない。少なくとも、この世界で生きていくためには。
でも、それもまた意味のないことだったりする。
別に、ぼくは進んで生きたいとは思っていない。『そのとき』が来れば、一切ためらわず受け入れるつもりだ。
ただ、それは死にたいというわけでもない。自殺志願なんていう人種とは、違う。
ぼくはどちらでもいいのだ。選択することさえ、選択しない。最初から選択肢などはなく、常に『世界』が広がっているだけなのだ。そこらに転がる小石や茶色く染まった雑草と同じで意志など持たず、ただ『在る』だけの――それだけ。
ただ、それだけなのだ。
何も変わらない。変わる必要もない。
この世界はすでに――終わっているのだから。
止まっていて、渇いていて、混沌としていて。正義はただの空想で、秩序はただの虚構で、平和はただの幻想で。信頼が裏切りと化し、希望が絶望に呑まれ、真実が嘘に染まる。
ぼくは、この世界の住人たる一人として――まだ、生きていた。
――――
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