乱高下
凡木 凡
第1話
「童貞と処女がセックスしたら、どんな感じだろう。絶対大変なことになっちゃうよね」
聡美は僕の顔を覗き込みながら突然そんなことを言った。
ボタン2つ開けた無防備なブラウスの隙間からピンク色の下着がチラリズム。
僕の下半身に大量の血が流れこみ脈打つ4つ打ちのリズム。
「勝手に決めつけるんじゃないよ君ィ」
真ん中のナイーブな部屋の扉を強引に開けられそうになった僕は
慌ててまるわかりの嘘で貧弱な鍵をかけた。
「え……」
聡美はびっくりしたような表情でまじまじと見つめる。
恥ずかしくなって僕は彼女から顔を背けた。
「大体自分が処女だなんて簡単にばらすもんじゃないよ」
「いや、別に私処女じゃないし」
「……左様ですか」
(左様……ですか)
平静を保っているつもりだったが
下の方に溜まった血がすみやかに上半身に帰るのを感じる。
「嘘だよ」
再び沸き立つ僕の熱き血潮。
「そっかぁ、田淵くんはもう経験済みかあ」
「嘘です」
「え?」
「嘘であります」
彼女は一瞬きょとんとすると、すぐにケロリとカエルのように笑った。
「何それw」
今ここでしょうもないプライドから嘘を付くのはつまらないであります。
だって、その後の会話の方向と選択肢の正答率によっては、
なし崩し的にサラバ童貞こんにちは新世界であります。
「じゃあ私達どっちも未経験だね」
「学生ならそんなにめずらしくもないです」
本心である。学生の本文は学業であるというのは
いつの世も代わりはない。そうあってもらいたい。
そうじゃないと童貞困る。
「どうかなあ。うち共学だし、そうでもないと思うけど」
「そうですか」
「きっと、そうだよ」
「きっと」
彼女の言葉は推測の意図であったが、僕にはそれが望みのように聞こえた。
どこかで、その輪から外れた自分を意識しているような、
輪の中に入りたがっているような、そんなニュアンスがあるような、
あるようなないような。
もちろんある方に僕は望みを託す。
今ここで交わされているのはそういう会話なのだ。
「聡美殿は」
そう言いかけて、しまったと思った。
僕とこの娘の関係ではこの娘は越前さんであり、
下の名前で呼ぶのはこころの中だけであった。
「聡美でいいよ」
なんと。
ポンプ大活躍めぐりゆくヘモグロビン。
酸素は主に下半身に供給される。
「越前は」
「何で呼び直すの、いま聡美って言ったのに」
ナイーブなハートにはいきなり名前呼び捨ては刺激強すぎィ。
一歩ずつしっかりと距離を詰めてゆきたい所存。
「越前は、そういうの」
「聡美」
「……」
「聡美」
ハイ! たまらず起立する僕の分身。
こいつを抑えておくのに薄手の学生服ではあまりにも貧弱だ。
ポジション変更、フォーメーションXで挑む。
「聡美は、そういうの」
「うん」
「そういうの、どうなの」
「そういうのって?」
こやつ愚弄するつもりか。
いまァ、さっきまで、そういう会話を、しているところだっただろォォ!
再び頭にのぼる血潮。今日は登ったり降りたり大変だな。
「うそうそ、そういうの、わかるよ」
「そうですか」
(そうですか!)
「そうだよ」
そうだよ,といった後急に聡美は顔を赤くして、
それから目を細めてまたケロリと笑った。
「そうだよ、女の子だってそうだよ」
「そうですか」
聡美が足を組み直すとガードのゆるいミニスカートからは
健康な太ももが見せつけるかのようにあらわとなり、
もはや本丸すら時間の問題と思える。すわ突入か狙え船底。
「でも、女の子がこういう事言ったら敬遠されちゃうよね」
「いえ」
敬遠だなんてとんでもない。
全力投球ビーンボール一発退場やむなしです。
「男子からはどう思われちゃうかな」
「普通です」
「でも、私が処女じゃないって言ったら田淵くんもそうは思わないでしょ」
「自分は今までそういう気持ちでだれかを抱いたことはありません」
「童貞でしょ」
「設定上は」
「設定?」
「はい」
「じゃあ、そういう人ならわたし、いいかも」
「俺も聡美なら」
「あ、違、でも田淵くんとそういうつもりじゃ」
いまァ、さっきまで、そういう会話を、しているところだっただろォォ!
血潮大変。登ったり降りたり。
聡美ケロケロ。
もういいです、拙者ドロンします。
「フフ、田淵くんて赤くなったりモジモジしたり面白い。童貞みたい」
「童貞です」
「やっぱり」
「はい」
「このあとうち来る?」
「はい」
滅茶苦茶セックスした。
乱高下 凡木 凡 @namiki-bon
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