「求めることが出来ない」ということ

「人を愛せない」と言うとなんだか違和感があるけど、「人を求めることが出来ない」と言えばしっくりくる気がする。


自分が結婚に対してまったく興味がないのはなぜだろうとずっと思っていたのだけど、最近なんとなくその理由がわかったような気がする。結婚とかそういうの以前に、あたしは男でも女でも「自分から他者を求めることが出来ない」のだと気づいた。


なぜ出来ないのかと言えば傷つくのが怖いからだけど、どうしてこんなに怖いのか。たぶん自分の存在を全否定されるような気持ちになるからだろう。この世界に必要ないと言われているような。


何をそんな大袈裟な、と思う人もいるかもしれない。でもそう思ってしまうのはやはりあれのせいなのかなぁ。


10代の頃、いろいろあって父にモラハラを受けていた。母はそれをいつも「しょうがない」と言って慰めた。あたしが酷い暴言で否定されるのはしょうがないことだから我慢しろ、と。


10代後半ずっとそんなことが続いて、あたしの中には次のようなことが刷り込まれてしまったみたいだった。自分はどれほどひどい言葉を吐かれて存在を否定されても仕方のない人間なのだ、自分は普通の人とは違う、皆が当たり前に求めることを求めてはいけないのだ。


30代の半ばまで、かな? 自分のことが嫌いだった。自分で自分の存在を肯定することが出来ず苦しんだ。ネットで文章を書くようになり、それを読んでくれる人がいて、その人達のお陰で自分を否定する気持ちが薄れてゆき、自分を憎悪する気持ちはなくなった。


けれど、刷り込まれてしまった感情というのはやっぱり消えないのかなぁ。自分を否定することはなくなったけど、否定されることに対する恐怖心というのがとても強い。


今はそんなことはないけど、10年くらい前は妊婦さんを見るとダメだった。「結婚してない女は存在する価値がない」と言われているような気がして気分が落ち込み生活に支障が出るほど。誰もそんなことは言ってないし思ってもいないのに。まぁ「自分は病気だったんだなぁ」と今は思うけど。


けれどそんなひどい状態から脱して、今は結婚に関することを誰に言われても気にならなくなったし、それ以外のことで否定されても平気になったものの、対人関係に於いてはどうしても「否定されることが前提」になってしまっているような気がする。


自分が相手を求めるのと同じようには、相手は自分のことを求めないだろう、と。


まぁ普通に考えてそれは当たり前のことのような気がするんだけど、ここまで当たり前の人間関係、コミュニケーションをとることが出来ず「愛された」「求められた」という実感が皆無。ゆえに相手に対して過剰に求めてしまう傾向がありそのため何度か失敗。それで「自分は求められない」「否定される」と思い込んでしまった、みたいな。


まったく求められていない訳ではない、というのはわかっている。自分からあたえれば相手も同じくらいに返してくれるってことも。


ただそれをこう、どのくらいの距離感でどのくらいの速度でどのくらいずつ、というのがわからない。たぶんそういうのって10代のうちに自然と身に付くか、あるいは大人なら自覚をもって訓練するのだろうけど、あたしはもう諦めてしまった。


だって怖い。否定されることが、受け入れられないことが。それに自分を理解してもらうために努力する気力体力がない。


自分のせいだ、と思う。若い頃に何があったとしても、自分を変えることが出来なかった自分の責任だと。と同時に、自分をこんなふうにしたのは親の責任じゃないか、とも思う。思うけど、今さらそんなことを言っても何が変わる訳でもない(怒りという感情をちゃんと表現するのは必要なことだと思うけど)。


ただ思うのは、でも自分を責めなくてもいいんじゃないか、ということ。他者との関係を築くのが苦手で、自分から求めることが出来ず、それを改善しようにもどうにも上手くいかなくて人との距離を縮めることが出来なくても、それはそれでいいんじゃないか。そういう人もいるのだと、自分を肯定してもいいんじゃないか。


寂しくないと言えば嘘になる。自分を誤摩化すことがないと言っても嘘になる。でもそんな自分を「それでいい」と思ってもいいんじゃないかと思う。


「求めることが出来ない」と言ってもまったく出来ない訳ではないのだし、距離を縮めることが出来ないと言っても、そういう自分を受け入れてくれる人達がいるから、家に、職場に、いることが出来、笑ったり怒ったりすることが出来る。


世の中にはたくさん、他者との関係を築くことが難しいと感じる人がいると思う。あたしはこんな感じで「人を求めることが出来ない」けど、それでいいんじゃないかな、と思う。いろいろ悲しかったり寂しかったりするけど、こういう自分でいいんだと自分を認め自分を愛し、心地良いこと、楽しいこと、うれしいこと、それらを探して生きることが出来るなら、それでいいんじゃないかと思う。

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