クリームハッピーソーダ

shiki

1話

「はぁ…、どうにかならないもんかな」


 煙草に火をつけ、ため息交じりにぼやいてみる。言葉に出したら神様がそれを聞いててなんとかしてくれるかもしれないしな。

 俺の名前は荒北久史、大学四回生で就活の真っ最中だ。ぼさぼさの髪をバリバリ掻き、煙草の煙を肺の中いっぱいまで吸い込む。どうして受からないんだろうなー、自分では上手く行ったと思った企業からもお祈りメールが来てしまう。


「やっぱり大学卒業したら地元に帰るのもありなのかもなー」


そう言ったと同時にバイブ音が鳴る。


「あいつ、俺のぼやきでも近くで聞いてでもいるのかよ」


そう言って携帯をみると電話がかかってきた。


「もしもし久史君、この間受けた企業どうだったの? そろそろ結果がわかるころでしょ?」

 

落ち込んで現実逃避して時にタイミングよく電話をかけてきたのが俺の彼女の田所つぐみだ。俺がまたダメだったことを伝えると彼女は、


「どんまいどんまい、まだまだ大丈夫! 久史君ならできるよー! ファイト!」


 そう言うと彼女は私はこれからバイトだからじゃあねと電話を切ってしまった。

 あいつは今日も元気だな。彼女と俺は共通の友人の紹介で知り合った。彼女は初めて会ったときも元気いっぱいで俺は少し引いてしまっていた。そんな俺にも彼女は根気強く話しかけてくれ何回かデートをかさね付き合うことになった。自分でも彼女は可愛いと思うし人とのコミュニケーションが苦手な俺とは違い誰にでもわけ隔てなく接することができる彼女を尊敬もしている。しかしその反面俺は彼女に引け目も感じている。彼女くらいのかわいさならわざわざ俺じゃなくてもいい男はたくさんいるだろう。俺はそう思っていたので彼女に訊ねたこともあった。しかし彼女は首を横に振り、


「私は、久史君がいいの。久史君じゃないとだめなの」


 そう嬉しくもあり恥ずかし回答が返ってきた。でも自分の中の引け目はすべてぬぐいきることはできなかった。彼女は優しい、俺が落ち込んでいたら励ましてくれるし、愚痴ばかり言っていたら叱ってもくれる。自分にはもったいないくらい最高の彼女だ。そんな彼女のためにも俺は就活を成功させなければならない。彼女は俺の一つ下の三回生。来年は就活ではなく大学院にいきたいそうだ。彼女は俺が就職できて落ち着いた一緒に住もうとも言ってくれている。だから俺も彼女のためにも頑張らなくてはいけない。でもどうするかな、こんなにも就活が大変な物だとは思わなかった。こりゃもう少し本腰入れないとあいつにも怒られちゃうな。そう言うとパソコンを開き大学生向け就活支援サイトで企業検索し始めた。はぁ…頑張らなくちゃ。


「久史君、電話したときテンション下がってたから、絶対愚痴でもいってたな」


 そうおもいながら彼女はバイト先まで自転車で向かっていた。私は彼が大好きだ。彼は自信がない自分のことを情けないと思ってよくへこんでいるがそんなところも私は愛おしくてたまらない。私は小さいころから明るくてみんなから頼られてばかりいた。そう思われていることが私は嫌だった。私は自分が頼られる人間だとは思っていない。でも小さな見栄と頼られなくなったらみんなが離れて行ってしまう気がしてそれは癖になってしまっていた。そうやって生きてきた。そんな私にとって彼はかけがえのない存在になった。彼と出会って私は変わることができた。初めて彼と会ったとき私はなんて頼りのない人だろうと思った。だけどどうしてだろう、彼といると落ち着く。


「今日はどこいきましょうか?」

 

 初デートなのに彼はノープランでやってきた。ぺこぺこしながら私に謝ってくる。私はやっぱり頼りないなと思いながらもデートを楽しんだ。彼は自信なさげにしているがとても気がきく。飲み物がなくなりそうになったら私に何を飲むかきいてくれるし、エスカレーターでも私を先の登らせたり、普通だったら何気ないことなのかもしれない。しかし最初のイメージが悪かったこともありそうところでもすごくよく見えてくる。デートの終盤、帰り道で彼は私にこう言った。


「今日は楽しかったですか? この間会ったときあなたが友人に頼られていたときの笑顔がなんと言えばよいのかわからないんですけど少し気になって今日遊びに誘ったんです」

 

 私は疑問に思った。


「なんでそう思ったの?」

 

 そう言うと彼が、


「僕は人から頼られたことがほとんどないんです。だけど人から頼られるのも大変で疲れるだろうなって。いつも頼られていたみたいだから気になって」


私は泣きそうになった。今まで頼られてくることばかりだったから私自身のことを考えてくれる人がいるなんて。


「僕は基本的に暇なのでまたあなたを遊びに誘ってもいいですか?」


 こんなに頼りなさそうな人が私にとって一番頼りになる人かも知れないとそう思った。


「はい、また誘ってください。楽しみにしてます」


 私はとてもうれしかった。その日はそれで解散した。それからも彼は定期的に遊びに誘ってくれた。そしてデートを重ねるうちに私たちは付き合うことになった。私はこれからも彼と遊べるのがたまらなくうれしかった。


「久史君が就職先決まってくれたらあのときよりもっと嬉しいんだけどな」


 そう思いながらバイト先についた。


「おつかれさまでーす」


 もうどうしよう…。全然いきたい企業も思い浮かばないしどうすればいいんだろう。


「あぁ…」

 

 俺はそういいながら机に突っ伏した。何にも思い浮かばない、どうしよう…。煙草の本数だけがただただ増え灰皿はいっぱいになっていた。つぐみに甘えたいけど今日はあいつバイトだしどうしよう。このままじゃ俺またダメなパターンに入っちゃうよ。


 「つぐみぃぃぃ…」


 だけどつぐみにばっかり頼ってもいられないな。あいつはあいつで大学院に行くためにああやって学費を稼いでいるんだし俺も頑張らなきゃでも。


「つぐみぃぃぃ…、バイト早く終わらないかな…」


 結局いつものダメなパターンに入ってしまった。

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