カナリア

しゅか

第1話

なぁ、知ってるか?


悪戯そうな兄の瞳に英単語を必死で書いていたわたしはうざったいなぁ、と思いつつ顔をあげる。


なあに?


カナリアっていう鳥。


構ってくれたので嬉しいらしい兄は満面の笑みで言う。


しらない。


即答したわたしに兄は呆れた素振り。


なあ、妹の翡翠ひすいよぅ、英単語よりも知識を蓄え――


蓄えたくもない。


遮ったわたしは勉強をしていた。


兄の ゆうはいわゆるニートで、当時はわからなかったけれど、いま思えば納得できる、という変なアドバイスをしてくれる。


まるで預言者だ。


兄が顎に手をやった。


カナリアってさあ、人に飼われる鳥なんだよ。


へ―。


あくまでも英単語のわたしに挫けず兄が言う。


ある意味翼がもげた鳥だよなあ。翡翠はなるなよ。


意味がわからなかったけれど。


あとあと思えば、わたしは翼を自らもいだ。


兄はカナリアの数日後、何故か自殺してしまった。


わたしの翼はどこに?


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