プレゼント
蜜缶(みかん)
プレゼント(完)
プレゼント(2015クリスマス)
「おい、サンタくれ。」
「…ほらよ」
飴を一つポケットから取り出して直矢に手渡すと、直矢は飴玉をじっと見つめた後無言でポケットにしまった。
(…礼くらい言えよ)
まぁただの飴だから大したもんじゃないけども。
そう思っていると、どこからともなく
「おいサンタ、オレもくれよ!」
「オレもオレも!」
そう言って別の友人たちが現れた。
「しかたないなー。はい。はい。」
また飴を取り出して渡すと、「ウケる」と笑いながらも「ありがとー」「センキュー」と言って去っていった。
毎年クリスマスになるとプレゼントをねだられる…これはオレにとっての恒例行事のようなものだ。
事の始まりは、保育園の頃。
オレの持ち物にうっかり母親がひらがなではなく漢字で書いた「三田 健一」という名前を、年長さんにして漢字を勉強していた直矢に、
「けんちゃんのなまえは”さんた けんいち”ってよめるよ!サンタさんとおなじだね!」
と言われたことだ。
「”さんたじ”ゃないよ、”みた”だよ…」と言ったものの「でも”さんた”とも読めるんだよ!」と言われ、丁度クリスマスの時期だったせいか皆に「けんちゃんはサンタだ!」「サンタ、サンタ!」と呼ばれるようになり、しまいには「サンタちょうだい!ぷれぜんと!」と言われてしまったのだ。
子どもだったオレはそれが冗談と受け取れず、「…ぼくはサンタさんと同じでサンタってよばれてるから、くりすますはみんなにぷれぜんとしないと…!」と思って、貯金箱に入っていた10円玉を何枚も持ってプレゼントを買いに行き、皆に配ったのだ。
もちろんそんなお金で大したものは買えるわけもなく…買えたのは10円チョコや駄菓子だったが、みんなは「ほんとにくれるの?わーい!ありがとう!」と喜んでくれたので、それから何年かはクリスマスまでに小遣いを貯めて、ささやかなお菓子を配っていた。
小学校高学年になる頃には「女同士ならまだしも男同士でプレゼントとか…さすがにもういいかな」と思って用意しなかったのだが、直矢が「プレゼントは?サンタくれよ」と言ってきたので慌ててお菓子を買って渡した。
それからも何だかんだで、毎年お菓子を渡している。
…まぁ毎年飴玉やチョコ1粒とかそんな程度で、プレゼントて呼べるほどのものじゃあないんだけども。
(さて、今年も任務終了)
親しい仲間たちには配り終えたので、飴玉を鞄にしまい下校の準備を始めると
「…おせーよ」
と直矢が不機嫌そうに小突いてきたので、急いで上着を着て鞄を持った。
「さっびーなー…今年も雪はなしかー」
下駄箱で靴を履き替え外へ出ると、雪はないが風が冷たかった。
あまり雪の降る地域ではないので今年も例年通りホワイトクリスマスではなくフツーのクリスマスだが、雪が降らなくても寒いものは寒い。
オレははぁ…っと息で手を温めるように肩を寄せながら歩いているが、直矢はズボンのポケットに手を突っ込んで颯爽と歩いていて、吐き出される息が白くなければ全然寒くなさそうに見える。
モテる男はこういうところで違うんだろうか。
「……直矢は今日なんか用事あんの?」
「用事って?」
「……デートとか。クリスマスじゃん」
「あー…」
それだけ言うと、直矢は答える気が無いようで前を向いて無言になった。
(あーってなんだよ、あーって…)
直矢とは好みのタイプの話はしたことあるが、好きな子がいるとか彼女がいるとかそう言う話はしたことが無い。
だけど直矢がクリスマス前にいつも以上に告られていたことを、オレは知っている。
「あー…オレもデートしてみてーなークリスマスくらいさー」
「………」
田舎なのに商店街も最近はイルミネーションや飾りつけは当たり前で、クリスマス一色。
平日の夕方だというのにカップルはそこかしこに溢れてて楽しそうに見えるが、恋人ができたことの無いオレにとっては夢のまた夢だ。
特に寄り道することもなく、いつも通り直矢の家に先に付いた。
オレの家は直矢の家を通り越してから徒歩5分くらい。
「じゃあなー」
「………」
いつも通り挨拶をするが、直矢からの返事はない。
特に気にせず自宅の方へと足を向けると、
「プレゼントくれよ」
直矢の声が、オレの背中に降り注いだ。
「………今朝やったじゃん。忘れたのかよ?」
朝真っ先にプレゼントを催促して、誰よりも早く飴玉をくれてやったのに、もう忘れたというのか。
ジト目で直矢を見つめると、
「…飴じゃなくて。お前からのプレゼント、今まで全部、オレが欲しいと思ったものじゃない」
「………」
(……そりゃ、そうだろうよ…)
オレがあげてきたものは、チョコに飴にマシュマロに、クッキー…あとなんだっけ。
ほんのささやかな気持ちのものであって、サンタさんのように欲しいものをあげようとはそもそも思ってないのだから。
はぁ…っとため息をつきながら頭をガシガシとかいた。
「…そんなん言うんならさぁ、欲しいもん前もって言っとけよ。なんでも買えるわけじゃねーけど…1000円くらいまでならなんとかしてやるから」
次から直矢だけ特別に買ってやるか…としぶしぶオレが思っていたのに、
「安…」とぼそりと呟かれ、オレはブチっと切れた。
「飴玉1個だったのが1000円になるんだから大奮発だろ!文句言うなよなー!大体何が欲しかったんだよ!」
直矢をキッと睨み付けながら言うと…
「オレが欲しいのは、サンタだよ」
そんな言葉が真顔で返って来たので呆気にとられる。
「……はぁ……?」
直矢はこんな冗談言うヤツだったろうか。それとも別の意味が隠されているのだろうか。
ぽかんとしながら直矢を見つめると、
「オレ、サンタくれって昔からちゃんと言ってる。」
とまたしても真顔で返って来た。
「……え、そうだっけ…?え?てか何…どういう意味?」
訳が分からなくてパニックになるオレに直矢が近づいてきて、顔に影が落ちる。
「…オレはずっとサンタが欲しかった。オレだけのものにしたかった」
「………っ」
間近でオレを見下ろす直矢の顔は、綺麗すぎて妙な迫力があり…何の言葉も出せない。
「…サンタが好きってこと。ちゃんと言ったから、来年は頂戴ね」
「………っ」
すっと動かされた直矢の手がオレの手を僅かにかすめた。
いつもなら何にも感じない程些細なことのハズなのに、全身が心臓になったみたいにバクバクする。
「…じゃあな。」
「……」
今度は直矢がそう言ったが、オレは何も返せない。
ただただ無言で直矢の遠くなっていく背中を見つめていると、直矢が急に振り返った。
「……あ、今年くれてもいいけど。今日はイブで、明日が当日だしね」
「………っ」
直矢はクリスマスに、プレゼントではなく爆弾を落として家へと消えた。
終 2015.12.24
次の日、直矢はいつも通り家の前に立っていたので、いつものように一緒に登校。
「はよー」
「………はよ」
だけど変に意識してしまって、オレはなんていうか、気が気じゃない。
「………」
「………」
「………」
「…………あ、いいこと思いついた」
不自然な沈黙が続いた後、直矢が急に呟いた。
「……なんだよ」
「今年はオレがサンタにプレゼントやるよ」
「え…?」
今日ずっと直視できなかった直矢の方に顔を向けると、直矢がにっこりと笑った。
「サンタ、昨日クリスマスにデートしてみたいっていってたじゃん?オレがクリスマスプレゼントに、サンタとデートしてあげる」
「………」
(それはオレ得なのか?……いや、お前じゃね?)
そう思わずにはいられなかったが、
「どこいこっかなー。放課後楽しみだなー」そう言いながら直矢が嬉しそうに笑うから、オレもつられて笑ってしまった。
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