第67話 特休! 少女の気まぐれ休日 (Bパート)

「次、どこ行こうか?」

 ハンバーガーを食べ終わって、再びショッピングモールに出て貴子は言う。

「そうね、それじゃ、あっちはどう?」

 理英は洋服店を指す。

 特に反対する理由も無いので、かなみ達は洋服店に入る。

「うぅ……」

 かなみはちょっといい洋服を見かけては、値札を見て尻込みをする。

(今の財布の中身じゃとてもとても……)

 ため息をつく。

 そういえば、今日も学校の制服だった。

 私服はワンセットしかないし、今日は普通に仕事する予定だったし、すっかり着慣れていて今更ながらに気になってきた。

(貴子も理英もちゃんと私服なのに……)

 かなみは心中でぼやく。

「なにしょぼくれてるのよ?」

「も、萌実!?」

「どうせ、『お金無い、買えない』ってところでしょ」

「う、なんでわかるの?」

「貧乏くさい顔してればわかるわよ。っていうかわからない方が馬鹿っていうか」

「みあちゃんみたいなことを……」

「あんな子供と一緒にしないで」

 萌実はキィっと睨み言い返す。

「そ、そうね……みあちゃんの方が可愛げがあるわよ」

「そうね、私にはそんなものいらないから」

「………………」

「何よ? 何か言いことがあるわけ?」

「言っておくけど、今日の私の勝ったんだからね」

「そんなこと言われなくてもわかってるわよ! でも、今度は私が勝つわ! なんなら今からだって」

「な、なに……?」

 萌実は銃を手にしていた。

「……萌実、あんた……!」

 かなみは身構える。

 まさか、ここで一戦交えるつもりなのでは。

「おーい、かなみ! これどうだ?」

「これかなみに似合うと思うけどどうかしら?」

 そこへ貴子と理英が洋服を持ってやってくる。

「え……?」

「はあ?」

 今一触即発の空気になっていた重苦しさとは無縁の能天気さに、かなみと萌実は呆気にとられる。

「これ、試着してみてよ」

 理英はかなみへ洋服をよこす。

「え、でも、私……」

「似合うと思うから」

「制服は見飽きてるからな。たまに別の恰好も見てみたいんだ」

「見飽きてるって……」

 かなみは呆れる。

「それだったら、貴子や理英だって学校じゃ制服なのに……」

 などと、ブツブツぼやく。

「私、お金無いのよ!」

「試着ならダダだからいいじゃない」

「タダ……」

 その言葉に惹かれずにはいられなかった。

「ちょ、ちょっとだけよ」

 そう言いつつ、貴子と理英が持ってきた洋服を手に取って試着室へ行く。

「……命拾いしたわね」

 萌実はぼやく。

「なんか言ったか?」

 それに対して、貴子が訊く。

「別に……」

 萌実はそっぽ向く。

「ど、どうかしら……?」

 かなみは試着室のカーテンを開けて、着た洋服を見せる。

「うわあ、似合ってるわ! このまま買っちゃわない?」

「そ、それは無理かな……」

 理英は満足そうに言うけど、かなみは値札を見て恐縮している。

「かなみ、次は私のを!」

「オーケー」

 かなみはカーテンを閉める。

 そして、すぐに貴子が選んだワンピースを着て見せる。

「よし、じゃあ次はこれでどうだ?」

 貴子は次の服を持ってくる。

「このまま、かなみのファッションショーといきましょうか」

「えぇ、それは困るわ!」




 そんなこんなで、かなみは貴子と理英に勧められるまま洋服を数着試着してみせて何も買わないまま洋服屋を出た。

「退屈だったわ……」

 萌実はぼやく。

「あんたも何か着てればよかったじゃない」

「興味ないわ……」

「そういえば、あんた他に服持ってないの?」

「ええ、これ以外無いわね」

 萌実は投げやり気味に答える。

「あんただってそうじゃない」

「……ええ、そうだけど」

 その返しにかなみはムッとする。

「ああ、またいがみ合ってる」

「仲良くできたらいいのに」

 理英はそんなことを言っているけど、内心かなみは「無理かもしれない」と思った。

「……かなみ、電話」

 マニィがこっそりかなみへ耳打ちする。

「ええ」

 かなみは電話をとる。

「今日は休日じゃなかったの?」

 第一声で文句を言ってやった。

『緊急でね。ショッピングモールに今いるって、言われてちょうどいいかと思ってさ』

 鯖戸の声が憎たらしく聞こえる。

「ちょうどいいって、今友達とショッピング中なのよ」

『お金がないのにかい?』

 携帯を地面に叩きつけたくなる。

『仕事が成功したらすぐに口座に振り込む』

「うぅ……!」

 憎たらしくて魅惑的な台詞だ。

「面白そうじゃない」

 萌実が口を出してくる。

「あんた、聞いてたの?」

「あんたの電話相手が気になってね」

 いい趣味してると、かなみは思った。

『今日休業の宝石店に忍び込む怪人を倒して欲しい、というのが仕事内容だ』

「宝石店に忍び込む? 宝石好きの怪人なのかしら?」

『まあ、そんなところだね』

「それで、ボーナスはいくら?」

 かなみは一番大事なことを訊く。

 これが既に仕事を受けるという意思表示であったけど、そもそも即支給と言われて断る選択肢がかなみにはなかった。




 従業員の専用口からかなみと萌実は宝石店に入る。

「なんだか、私達の方が忍び込んでいる怪人っぽいわね」

 かなみはぼやく。

「あんたの場合、食うに困って本当に盗みそうだけど」

「そんなに困ってないわよ!」

「私におごられたくせに」

「あれはあんたが勝手に買ったんじゃないの!」

「いや、二人ともこっそり言ってるんだから静かに」

 マニィが諫める。

「そう言われると、ますます泥棒っぽくなるわね」

 かなみはぶつくさ文句を言う。

 この仕事、受けるべきじゃなかったと少しだけ後悔し始める。

 理英や貴子と別れて、萌実と二人で件の宝石店に向かった。宝石店は休業日だったのでシャッターが閉まり切っていて裏口から入る。

 入り口は施錠されているが、マニィがパスワードを入力する事でちゃっかり入れた。

「宝石好きの怪人なのかしら?」

 ふと疑問を口にしてみる。

「そういうの結構多いわよ。私だって宝石好きだし」

「あんたは怪人寄りでしょ」

「あんたもね♪」

 萌実は鼻歌を歌うような調子で答える。

「私が怪人寄り?」

 かなみは首を傾げる。

 即座に否定しようとしたけど、不思議と否定する気が起きなかった。

「おお!」

 店内に入って、宝石を目にして思わず声を上げる。

「綺麗ね……!」

 ガラスケースに並べられた宝石を見つめて、感嘆する。

 燦然と並ぶ指輪、ネックレス、アクセサリーといった品々。無人で殺風景となった店内においても煌びやかに店に飾られていて、少しも色あせていない。

「こんだけあったら、一つぐらい盗んでもいいわよね」

「あんた、何言ってんのよ!?」

「あんたも一つ欲しいでしょ?」

「そ、そりゃ欲しいけど!!」

 そこは素直に認める。

 しかし、この宝石達の値段といったら、目の玉が飛び出そうなくらい高価で、

(この指輪一つで何ヵ月生きられるかしら……?)

 そんなことを考えてしまうぐらいであった。

「……このルビー、魔力が宿っているわね」

 萌実はさりげなくガラスケースに手を入れて、ルビーの指輪に手をかける。

「あ、ちょっと!」

 勝手に商品にさわるのはまずい、と、かなみは注意する。特にそんな高価なルビーとなると汚したり、壊したりなんかしたらと思うと怖くてたまらない。

「いいじゃない。これなんか私の銃の弾代わりに使ったら相当な威力になるわよ」

「銃の弾の代わり?」

「そ、普段は魔力で生成した弾を撃ってるけど、その気になったらなんでも弾の代わりにできるのよ。鉄とか鉛とかもいいけど魔力がこもっている宝石なんかはいい威力になるのよ。

――試しにやってみる?」

 萌実は魔法の銃を出して、ルビーの指輪をかざす。

「ちょっと、やめなさいってば!」

「さっきのゲームの続き、ここでやるのも面白いんじゃない?」

「なッ!?」

「このルビー弾の威力、試してみる?」

「それ撃ったら最後ルビーはどうなるのよ?」

「そんなもの、バラバラのコナゴナになるに決まってるじゃない!」

 萌実は楽し気に答える。

「絶対に撃っちゃダメ! 撃っちゃダメだから! いくらすると思ってんのよ!?」

「三十万」

 萌実は値札を指差す。

「ダメ! ダメダメ! いいこと、それを撃ったらどうなるかわかってんの!?」

「あんたの首が吹っ飛ぶ」

「物理的な意味でなのか、会社員的な意味でなのか」

「こら!」

 かなみはマニィに文句を言う。

「どっちなのか、試してみますか?」

 そう言われて、かなみはコインを取り出す。

 ここで萌実と戦っても一文の得にならない。だけど、仕掛けてくるのならやむを得ない。魔力のこもったルビーを銃弾代わりに撃つなんて危険な行為を許すわけにはいかないから。

「試させないわよ」

 しかし、かなみは警戒する。

 いくら注意しても、いくら諫めても、いつ撃ち込んでくるかわからないのが萌実だ。

 萌実はギラリと眼をギラつかせている。

 ああ、これは止めても撃つかもしれない。だけど、今変身したらすぐに撃ってくるかもしれない。

「………………」

「………………」

 睨み合いが続く。

「フン!」

 その睨みが一分近く続いた後、萌実はルビーの指輪をポイッと上へ投げた。

「あぁ!」

「……やめたわ、つまらないもの」

 萌実はルビーの指輪を即座にキャッチして、元のガラスケースに投げ入れる。

「もう、気まぐれね!」

 かなみは文句を言う。

「それよりも、お客さんがやってきたみたいよ」

「お客さん?」


パシャン!


 かなみがそう答えると、ガラスケースが割れる音がする。

「って泥棒じゃない!」

 そのテーブルの上に黒猫のようなスラリとした怪人が猫背で立っている。

「あんたからしてみたらお客様でしょ」

 萌実は言う。

「まあ、確かにこの怪人が来てくれなかったら商売あがったりだしね」

「マニィは黙ってて」

 かなみはマニィを諫める。

 マニィは即座にかなみの肩から離れて、別のガラスケースの上に立つ。

「……魔法少女ね、私の邪魔をするなんて」

 黒猫の怪人は忌々し気に言う。

「邪魔って! そっちこそ宝石を盗んで何が目的よ!?」

「宝石は私に力を与えてくれる。サファイア、ルビー、エメラルド……高価で煌びやかな宝石には魔力が宿る! 私はその魔力を糧に生きているのよ」

「なるほどね、そんなこと言われちゃあんたに宝石を盗ませるわけにはいかないわね!」

 かなみはコインを取り出し、今度こそ放り投げる。

「マジカルワークス!」

 コインの降り注ぐ光とともに、黄色の魔法少女が姿を現わす。

「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」

「暴虐と命運の銃士、魔法少女モモミ降誕!」

 モモミが便乗して名乗りを上げる。

「この店の宝石は全部この私、キャパリスのものよ!」

 猫の怪人キャパリスは飛び上がって、天井に張り付く。

 そして、天井を駆け抜けて、店の反対側のガラスケースに立つ。スゥッと足音を立てずに。

「器用ね」

 モモミは感心する。

「すばしっこくて厄介なんだけど!」


バァン! バァン! バァン! バァン!


 キャパリスはカナミとモモミの弾幕をひらりひらりと軽やかにかいくぐる。

 先程のシューティングゲームの何倍も難易度が高く感じられる。

「アハハハハハ、やるじゃない!」

 モモミは哄笑しながら突っ込む。

「あ、ちょっと!」

「早い者勝ちよ!」

「先に倒した方にボーナスだね」

 マニィが余計なことを言う。

「もう!」

 そう言われては、カナミも突撃せずにはいられない。


キィン! キィン! キィン!


 しかし、キャパリスは萌実の銃弾を器用にかいくぐりながら爪を突き立ててくる。カナミはステッキで、萌実は銃身で、それぞれを受ける。

「遅い! 宝石はいただくわ!」

 キャパリスはガラスケースを破って、指輪やネックレスを奪いとる。

「とられてたまるか!!」

 カナミは意地になって魔法弾を撃つ。


バァン!


「……あ!」

「ガッ!?」

 初めて魔法弾が当たった。

 これにはカナミも、キャパリスも、モモミも驚く。

「当たった……?」

「ええい、まぐれよ! 私がこんな弾なんかに!」


バァン! バァン! バァン!


 しかし、その後もカナミの魔法弾は次々とキャパリスへ命中する。

「ガ! バ! ゴハ!? ば、バカな、何故突然これほどの命中精度を!?」

「そんなの、私にだってわからないわよ!」

「わからないのに、どうして当たるの……?」

 モモミも驚愕し、自分でさえ当てられないのにどうしてカナミが、と困惑する。

「それは……」

 マニィはカナミとキャパリスを交互に見て、観察する。

「おそらく、あの宝石だろう」

 マニィは指差して、キャパリスが手に持った宝石を示す。

「宝石? なんで宝石で当たるのよ!?」

 モモミが訊く。

「カナミの本能だよ。どうしても宝石を目で追ってしまうから、狙いが定まるんだ」

「はあ?」

 それを聞いて、モモミは呆れる。

「そんな、そんなあほらしい理由であんな精度……」

 モモミには信じられなかった。


バァン! バァン! バァン!


 しかし、現実にカナミはキャパリスに魔法弾を当て続けている。

「こんな、こんなことって!」

 当てられて悲鳴を上げるキャパリス。ここまでくると信じる他無かった。

「なんて、なんて馬鹿げてるの!?」

 モモミは文句を口にする。

「くくぅ、そんな、この宝石があるから当てられていたなんて! だったら、この宝石さえ捨てれば……いえ!!」

 キャパリスは宝石の指輪を握りしめて、カナミへ突撃する。

「宝石を捨てないのか」

 マニィは意外そうに言う。

「それは、宝石を手にすることがあいつの存在意義だからじゃないの」

 モモミはキャパリスの様子を見て、言う。

「神殺砲!!」

 しかし、突撃してくるのなら大砲の恰好の標的であった。

「ボーナスキャノン!!」

 カナミは即座に砲弾でキャパリスを撃ち抜く。

「プラマイゼロ・イレイザー!」

 そこから、爆発の衝撃を消し去る魔法弾を撃つ。

 これで、店の被害を防いで、無事仕事完了であった。




「………………」

「何よ?」

 宝石店を出てから、ずっと萌実が睨んでくる。

「……別に」

 萌実は不愛想にそっぽ向く。

 今日一日、萌実の行動がわけがわからない。

 急についてきたり、ゲーム対決したり、一緒に怪人退治をするって言い出したり、挙句にこの不機嫌さだ。

(なんなのよ、もう……!)

 かなみは心中で文句を呟く。

「かなみ、さっきの怪人退治の報酬が入ってるよ」

「え、本当!?」

「口座にちゃんと入ってるよ」

「そこの銀行でおろしましょう!」

 かなみは上機嫌で銀行に入る。

「……四万」

 いつもより思いの他少なかった。

「まあ、今回は緊急の依頼だったからね」

「またピンハネされたわね……あとで文句言ってやる」

 そう言いながら、かなみは半分の二万を抜き取って、萌実に差し出す。

「何のつもり?」

「あんたの報酬よ」

「はあ!?」

「だから、これがあんたと私のボーナスなんだから半分はあんたのものでしょ」

「冗談でしょ!」

 かなみは当然のように言うが、萌実は憤慨する。

「怪人を倒したのはあんたなんだから、あんたが全部受け取るべきでしょ」

「いや、この仕事は二人でやったんだから二人で分けるのが筋でしょ」

「……いや、私何もしてないし、怪人倒したのはあんた一人のチカラじゃない」

「それでもよ!」

 かなみは二万円を差し出す。

「受け取りなさい!」

「嫌よ! あんたから山分けなんて冗談じゃないわ!」

 萌実は頑なに拒否する。

「あんたね!」

「何よ!!」

 かなみと萌実は激しく睨み合っている。

「ああ、まったくやってる」

「仲悪いのね」

 貴子と理英がやってくる。

 二人にはちょっと用事があるからと言って別れたきりで合流するつもりはなかったのだけど、大声を出して言い合ってたら見つかるのも無理はない。

「用事は済んだのか?」

 貴子が訊く。

「ええ、すぐに終わったわ」

「そっか。だったら、これからそこでケーキ食べないか? あそこのフルーツケーキ、食ってみたいんだ」

「貴子、また食べるの? さっきハンバーガー三個も食べたじゃない」

「私も言ったのよ。そんなに食べると太るって」

「ハハハハ、成長期だからな。いっぱい食べていっぱい成長するんだよ」

「言われてみると貴子って……」

 かなみは貴子を見てみる。

「大きい……」

 背丈にしても体格にしても男子に負けないぐらいしっかりしている。

「かなみがちっちゃいだけだろ」

 貴子は悪気ない言い分で返してくる。

「ムカ!」

 かなみがそう言うと、理英はクスクス笑う。

「何が楽しいのやら……」

 萌実は呆れる。

「それで、かなみはケーキ食うのか?」

「うーん……食べる」

 少し考えてからそう答える。

 今ボーナスを受け取ったばかりだからちゃんとケーキは買える。

 そんなわけでオープンテラスのカフェに入る。

 そこでかなみはフルーツケーキを二つ分注文した。

「はい、これあんたの分よ」

 そう言って、萌実に渡す。

「はあ、何言ってんのよ?」

「ボーナス!」

 かなみにからしてみればこのフルーツケーキが萌実のボーナスのつもりだった。

「だから、それは!」

「食べないんだったら私が食べるわよ」

 反論しようとした萌実へかなみはすかさず黙らせる一言を言い放つ。

「ん~…食べるわよ!」

 萌実は即座にフォークを突き刺す。

「食い意地が張ってるわね」

「かなみがそういうこと言うか」

「食い意地ならいい勝負よね」

「え~なんで!!」

 かなみは文句を言う。

「……まずいわね」

 そんなやり取りを眺めながら、萌実はケーキを口にして一言漏らす。




「今日はどうだったの?」

 夜、オフィスに帰ってきたあるみはソファーに横たわっている萌実に訊く。

「別に……何も無かったわよ」

 ソファーに顔をうずめて返答する。

「そう、楽しかったのね」

「はあ!? なんでそうなるのよ!?」

「退屈なことは何も無かったわよ、ってそう言ったんじゃないの?」

「言ってない、耳ぼけしてんじゃないわよ! 撃ち殺す!」

 萌実はそう言って銃口をあるみへ向ける。

「……だったら、気にせず聞き流せばいいのよ。変なところで真に受けやすいわね」

「………………」

 萌実はしかめ面で沈黙する。

「あんたもかなみもいつか撃ち殺してみせるわ」

「そのいつかは来ることはないわ」

「……あんたがそうさせないから?」

「あなたが出来るとは思えないからよ」

「つくづくむかつくわね」

 萌実は銃をしまう。

「そうやって余裕こいてるといつか寝首をかかれるわよ」

「だったらかきにくればいいわよ」

 あるみは目を閉じてみせる。

「……なんで、そうしていられるのよ……」

 萌実は悔しさを滲ませながら言って、オフィスを出ていく。

「これでよいのか?」

 じっと二人のやり取りを見守っていたリリィが問いかける。

「ええ、今のところはね」

 あるみはそれだけ答える。

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