第40話 災難! 少女の最大の敵は大凶? (Bパート)

「でも、どうやって社長は殺し屋課の拠点を探し当てたんですか?」

「そりゃ、秘密基地一つ潰して、そこの偉いさんに吐かせたに決まってるでしょ」

「こ、この人は……!」

 かなみは身震いする。

 なんて恐ろしいことを当然のように言うのだろうか。悪の秘密結社の秘密基地を潰すというのはやってること自体は正義の行いなのだが、あるみが実行すると一方的な殲滅になり、どっちが悪かわからなくなるといった絵面になったのは間違いない。

「まあさすがに機密情報だったみたいだから簡単に口を割らなかったのよね。片っ端から喋りそうな奴捕まえ吐かせるのには骨が折れたわ」

「それ、魔法少女の行いじゃないですよね?」

「あら、そんなことないわよ。ちゃんと一部始終リリィが撮影してくれたから見てみる?」

「い、いえ……遠慮したくありません」

 きっとホラー映画に勝るとも劣らない恐怖を味わうに違いない。だから見るのは遠慮した。

「それでその拠点はどこにあるんですか?」

 かなみが訊くと、あるみは一枚の地図を渡してくる。

「ここですね」

「そ、あとは自分でなんとかしなさい。みあちゃんと」

「なんであたしまでッ!?」

 みあはツッコミを入れる。

「みあちゃんがついてきてくれたら百人力よ!」

「ひゃ、百人力……? しょ、しょうがないわね、そこまで言われちゃ」

「みあさん、おだてに弱いですね」

「うるさい!」

「あはははは、頼りにしてるよ!」

「わ、私も!」

 いきなり翠華が机の下から一気に乗り出して名乗りを上げる。

「私も一緒に行く!」

「翠華さんも一緒に来てくれるんですか!」

「え、ええ! かなみさんの生命がかかってるんだから、放っておけないわ!」

「ありがとうございます。翠華さんがいてくれたら千人力です!」

「せ、千人……?」

 翠華はかなみのまっすぐな言い方に戸惑う。

「あたしより九百人多いってどういうことよ!?」

「みあちゃん、そこは対抗するところなの?」

「ええ、そうよ! だって納得いかないでしょ!」

「あははは、言葉の綾だったんだけど……でも、みあちゃんと翠華さんがいたら千人力なのよ! 百人力と百人力で千人力!」

「ど、どういう計算なのよ……?」

 みあはあまりにも都合がいいのではないかと呆れた。

「でも、かなみさんがそう言ってくれると嬉しいわね」

 翠華は涙ぐむ。思い切って協力を申し出てよかったと心底思った。

「それじゃ、改めて仕事を言い渡すわね。

今回はネガサイド殺し屋課の拠点を潰してくることよ。ちゃんと成功ボーナスも出すから頑張ってきてね」

 あるみはそう笑顔で言う。

 成功ボーナス……かなみにはまさしく福音に聞こえた。




「ターゲットLQ、仲間を引き連れて我がベースに侵攻を開始した模様」

「何だと」

「次なる指示をお願いします」

「たとえ、我らが討ち果たされようともお前は任務をまっとうするのだ」

「了解……LQだけは必ず抹殺してみせます」

「私はお前のことを誇りに思う」




「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」

「青百合の戦士、魔法少女スイカ推参!」

「勇気と遊戯の勇士、魔法少女ミア登場!」

 目的地の山奥の拠点で三人は名乗り口上を上げる。

「この三人が揃うのは久しぶりね」

 スイカは感慨深げに言う。

「そういえばそうですね」

「ふん、いつも一緒ってわけじゃないからね」

「でも、いつも一緒は魔法少女の定番よ」

「そうですね、いつも一緒がいいです」

 カナミは笑顔で応えてくれる。そのおかげでスイカも嬉しくなる。

「仕事的にはそうはいかないでしょ」

 みあはそう言ってヨーヨーを構える。

「まあ、今は三人でやりましょう。社長のお墨付きなんだし」

「ああ、言ってますが、みあちゃんも嬉しがっていると思いますよ」

「フフ、わかってるわよ」

 ミアに対するカナミのフォローが微笑ましい。

 そうこうしているうちに敵はわんさかと現れる。

 さすがに殺し屋課の拠点というべきか。

 怪人の見た目が拳銃や刃物といった凶器を連想させるシルエットばかりになっている。

「あれ、当たると痛いかもよ」

 ミアは楽しそうに言う。

「痛いですまないでしょ」

「そうね。だからその前に突き刺しちゃえばいいのよ」

「スイカさん、なんだか物騒ですよ」

「え、えぇ、そうだった?」

 スイカは少しだけカナミに物騒な女と思われて嫌われないか心配になった。

「どうせ、あんたの得物が一番物騒なんだからどうでもいいでしょ」

「わ、私は物騒なんかじゃ」

「ヨーヨー、レイピア、大砲、この中でどれが物騒なわけ?」

「う……」

 そう言われるとカナミは言い返せなかった。

「それよりカナミさん、フォロー頼めるかしら?」

「は、はい、任せてください!」

 スイカはレイピアを構えて、殺し屋課の怪人軍団に向かって突進する。

「ストリッシャーモード!!」

 二刀のレイピアによる多段突きで次々と怪人を突き刺して倒す。

 その手際は見事なのだが、レイピアで一人一人突き刺していくため、どうしても多人数相手だと隙ができてしまい、そこを狙われる。

「スイカさん、危ない!」

 カナミはその隙をついてくる怪人を魔法弾で撃ち倒す。

(ありがとう、カナミさん!)

 スイカは心の声でお礼を言って次の敵へとレイピアを突き刺す。

「そこッ!」

 ミアはそのさらに先で銃を構えていた敵に向かってヨーヨーを投げつける。

 ヨーヨーならレイピアの届かない距離まで攻撃を届かせられる。

「まったく突撃バカなんだから!」

 みあは悪態をつくが、的確なサポートをしてくれるからこそスイカは突撃できるのだと思う。

「二人ともどいて!」

 後ろからカナミは呼びかける。

「あのバカ力が来るわ」

「ええッ!」

 カナミは神殺砲を構える。巻き添えを喰らわないよう、素早くスイカとミアは射線上から離れる。

「ボーナスキャノン!!」

 魔力の洪水と言ってもいい砲弾が敵の怪人達を飲み込んでいく。

(私がレイピアでついて、カナミさんが援護、ミアちゃんが探知能力を生かして敵の攻撃を封じる。固まったところを神殺砲で一網打尽)

 理想的なチームワークね、とスイカは思った。

 これならどんな殺し屋だってひとたまりもない、事実ほとんどの怪人がカナミの一撃で倒された。残った怪人達もその威力に驚愕し、萎縮しているのがわかる。

(でも、そんなカナミさんはミアちゃんと……)

 スイカの脳裏に昨日のカナミとミアのやり取りがよぎる。

(いえいえ、いけない! 公私混同はいけないわ。カナミのために役立てるなら私はそれで十分よ)

 そう思って、スイカは怪人にレイピアを突き刺す。

「これがLQの実力か……Iが依頼してくるわけだな」

 その中で一際存在感を放つ金属の肌をした怪人が呟く。

「またLQって言った」

 もう聞き間違いようがなかった。間違いなく彼はカナミのことを指して、LQと言ったのだ。

「LQって私のことよね? なんで私のこと、LQって言うのよ!?」

「ターゲットをLQと設定しただからLQなのだ」

「わけわかんない! それにIって誰よ!? 誰が私を殺す依頼出したの!?」

「守秘義務でそれは言えない」

「いいわ! だったら無理矢理はかせてやるわ!」

「カナミさん、それじゃ社長と一緒だと思うけど」

「なんだっていいんです! こっちは命懸けなんですから!」

 カナミは魔法弾を撃つ。

「ぬう!」

 金属の怪人は魔法弾を直撃して揺らぐ。

「いや、このメキルはこの程度ではやられはしない!」

 しかし、さすがにそこは殺し屋を束ねる怪人だけあって簡単には倒れなかった。

「そうね、この程度でやられちゃはかせられないものね」

「なに、どういうことだ!?」

「こういうことよッ!! ジャンバリック・ファミリア!!」

 カナミの錫杖ステッキに取り付けられている鈴の輪が外れて、メキルの周囲を飛び交う。

 そこから魔法弾が雨あられのように降り注ぐ。

「ぐおおおッ!! だ、だが、こんなものいくら撃ったところで!!」

 それでもメキルは踏ん張る。

「いけ! Gヨーヨー!!」


グシャン!!


 そこへ魔法弾よりも固く重いつぶてと化したヨーヨーをぶち当てられる。

「キ、キィ!」

 さすがにこの衝撃にはたまらず、メキルの金属の身体にヒビが入る。

「ノーブルスティンガー!」

 そこへスイカの渾身の一突きが加えられる。

「ガハッ!」

 ヒビが亀裂となり、風穴を空ける。

「スイカさん、とどめは私がやります!」

 カナミは仕込みステッキを抜刀し、突撃する。

「仕込みステッキ、ピンゾロの半!」

 風穴から横一文字に斬り裂く。

 その切れ味にスイカも驚愕する。

「み、見事なまでの殺人技術……! 魔法少女よりも殺し屋に向いているのではないか……!」

 メキルは倒れる。

「魔法少女がそんな物騒な稼業やってられるかってのよ。儲かるってんなら話は別だけど」

「そりゃ、もう儲かるがな」

「はあ?」

 カナミは今にも事切れそうなメキルを目を向ける。

「殺し屋が儲かるって本当なの?」

「あんた、そこ食いつくわけ?」

 ミアは呆れる。しかし、それもまたカナミらしいとも思ってしまう。

「もちろんだ。報酬目当てで殺し屋課に入った者もいるくらいだ……」

「いるの!? 怪人ってお金に執着あるわけ!?」

「そいつは今もお前を狙っている」

「――ッ!」

 カナミは急に寒気を感じて震える。

「どうしたの、カナミさん?」

「今、なんとなくやばい感じが……」

 カナミがスイカに答えると、カナミの足元に忍び寄る黒い影に気づく。

「くッ!」

 そして黒い影は手になり、足を掴まれる。

「こいつッ!」

 カナミは足を掴み上げられて、逆さ吊りにされる。

「感謝いたします、メキル課長。あなたのおかげで隙が出来ました」

 影で出来た怪人は鋭角になった剣のような手がかなみの腹を突き刺す。

「く……!」

「カナミさん!?」

「仕損じなし、さあこれで報酬はいただき――」

「何が仕損じなしよ!」

「む!?」

 カナミは反撃に魔法弾を喰らわせる。

 反撃を食らった影は魔法弾による爆煙に紛れて姿を消す。

「に、逃した……」

「それより、カナミさん! お腹の方は!」

「だ、大丈夫です。ちゃんと魔力でガードしましたから」

 それでも腹を腕でかばっており、衣装に血が滲んでいるのをスイカは見逃さなかった。

「ひとまず手当てを……」

「いいえ、それよりあいつを倒さないとまた不意打ちでやられます」

「影から影に紛れて敵を仕留める。まさに殺し屋ね」

 みあは思わず感心する。

「フフフ、奴こそ私の一番の部下、影のキラー。守銭奴なのが玉に傷だがターゲットは確実に仕留める腕利きだ」

 メキルは自慢げに先程の影の怪人の話をする。

「そのターゲットが私なわけね」

「そうだ。第一撃こそ仕留め損なったが、貴様の生命もあとわずかだ」

「ふざけないで!」

 スイカは怒りを込めてレイピアをメキルに突き刺す。

「ぐぎゃぁぁぁぁぁッ!!」

「カナミさんを殺させるわけにはいかないわ! 私が必ず守ってみせる!」

「スイカさん……」

 カナミはスイカの啖呵に感動する。

「とはいっても、姿を消されたら厄介ね。影だけあって隠れるのは得意そうだし」

「ミアちゃんの探知魔法でなんとかできないの?」

「とっくにやってるわよ。見つからないの!」

 一番の探知に優れているミアが影のキラーを見つけられないのならカナミは到底不可能だ。

「じゃあ、どうしたら……?」

 カナミは戸惑う。今度、奇襲を受けて首でも斬られたりしたらひとたまりもない。

「みあちゃん、なんとかして」

「人を便利屋みたいに言わないの。でもね、どうしても探知できないのよね。

……一応、手は一つ思い浮かんだんだけど」

「それって何?」

 カナミがミアに訊くと、ミアはメキルの方を向く。

「確かあんた、あいつが守銭奴だって言ったわね?」

「あ、ああ、言ったが」

 それを聞いて、ミアはため息をついた。

「あまりにも馬鹿馬鹿しいやつだけど、一応やってみるか」

 ミアは懐からある物を取り出す。

「そ、それは――!」

 札束であった。

「てい!」

 ミアはそれを放り投げる。

「お金を放り捨てるなんて!」

 スイカは驚愕したが、カナミは意外にも落ち着いていた。

「スイカさん、あれ違うんですよ」

「え?」

「入浴剤なんです」

「えぇッ!?」

「でも、いくらなんでもそれで食いつくとは思えないけど」

 ミアだってそれは十分わかっていた。

 しかし、他にいい方法が思いつかなかったのでこれをやってみただけなのだ。

「まあ……こんなアホらしいことにくいつくアホなんて……」

 ミアはそう言った時、影が腕のように伸びて宙を舞う札束(の入浴剤)を掴む。

「「「いたッ!?」」

 しかし、驚いただけでこのチャンスを逃すわけにはいかない。

「ジャンバリック・ファミリアッ!」

 三百六十度、鈴は完全包囲して魔法弾を一斉発射する。

「な、なんと……!?」

 メキルはこれには影のキラーもたまらないと思ったのか嘆息する。

「まだよ、神殺砲! ボーナスキャノン!!」

 さらに追い打ちと言わんばかりに神殺砲を爆煙に向かって撃ち放つ。

「ご、ぎ‥…」

 爆煙の中からうめき声らしきものが聞こえたが、気にせず砲弾は天高く舞い上がって爆散した。

「き、キラー……私の誇りが……!」

 落胆したメキルはそのまま肩を落とした。どうやら事切れたみたいだ。




「なるほど、そうやって倒すわけね。相変わらず滅茶苦茶ね」

 草葉の陰から事態をずっと観察していた影は感心してそう言った。

「彼女は相変わらずね、楽しいです」

「フフ、私もよ。楽しくなってきたわ。空白になった関東一帯を奪い合う地獄絵図がこれから始まろうとしているのだから、その中で台風の目になるかもしれないのが彼女なのだから」

「魔法少女カナミ」

「そう、カナミちゃんよ。今回これで彼女がどう動くかも見ものだったのだけど、拠点一つで事を収めるつもりかしら」

「そうはならないかと思います」

「何か楽しいことが始まるのかしら?」

「始まるでしょうね」

「フフ、期待させてもらうわ」




「ねえ、どうしても見なくちゃダメ?」

 かなみは懇願するようにみあに言う。

「あったりまえでしょ? これはチャンスじゃない」

「ど、どんなチャンスよ?」

「――貧血のあんたがどれだけ血の気を引かせられるか」

 嫌がらせだ、とかなみは思った。

 昨日の戦いで見事、殺し屋を撃退することができたが、かなみは深手を負った。

 重傷には至らなかったものの、出血多量で貧血気味なので今も紙パックのトマトジュースをすすっている。

 そんなみあがかなみに勧めてきたものはまた映画であった。

「みあちゃん、ひどい! 血が足りない私にドラキュラ映画見せようだなんて!」

「つべこべ言わずに付き合いなさいよ、今夜はレバニラにしておいてあげたから」

「え……レ、レバニラ……」

 それは今のかなみにとって食べる必要のある食べ物であった。というか、普通にお腹が空いてきた。

「つ、付き……」

 かなみは言いよどみながら、イエスの返答を出そうとした。

「かなみさんとみあちゃんが付き合うって映画の話だったの……」

 その様子を傍から見ていた翠華は呆然としてしまった。

(そ、そうよね。いきなり、二人が付き合うっていくらなんでも急すぎたものね……え、ってことは私にもまだチャンスが……! ダメよ、今かなみさんは貧血なんだから、これ以上興奮させるようなことをさせたら、って興奮って何よ!?)

 翠華は一人静かに自分の想いを暴走させていた。

「んで、今夜付き合うの? 付き合う以外の選択肢があるわけ?」

「ん、んう、くぅ……」

 かなみは歯ぎしりしてトマトジュースをすする。

 正直映画は見たくない。でもご飯食べたい。

 かなみにとってタダ飯というのは生命を繋ぎ止めるためにどうしても必要なことだ。これに比べて映画はおよそ二時間怖いのを我慢し続ければいい。

 生きるか死ぬかの瀬戸際ならご飯を取る。

 でも、でも……そんな怖いことを耐えるのは辛い。

 どうしたらいいのか、途方に暮れたかなみは救世主を見つける。

「翠華さんが付き合ってくれるなら行くわ」

「ええぇッ!?」

 いきなりの発言に翠華は驚愕する。

「はあッ!?」

 みあも驚く。

「翠華さん、付き合ってください!」

「え、ちょ、ちょっと、かなみさん!?」

 翠華はドギマギする。

 付き合う。

 それはこの映画を一緒に見る。という意味なのだが、それだけではないように思える。

 付き合う。

 それは同時に一緒に楽しいことをするということも意味する。

 付き合う。

 それは同時に先輩後輩以上の関係になるということも意味する。

 付き合う

 それは女性同士でありながら、恋愛関係を結ぶということも意味する。

「つ、付き合うってそれはね、それは!? 付き合うって……ッ!?」

「翠華さんだけが頼りだったのに……」

 かなみは残念そうに言う。

「え、た、頼りって……!」

 翠華は赤面し、興奮のあまりこちらが貧血になりそうだと思った。

(でも、私、かなみさんにそんなこと言われて幸せ……)

 結局、その晩は三人でドラキュラ映画を見ることになったが、翠華は一切平常心でいられなかった。

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