第四章・涙9

 電話を切り、また制服に着替えた僕は、一度、寝室に戻った。疲れからか、深川は裸のまま、いびきをかいて寝ていた。年齢を無視した格好ばかりしていた深川のそのいびきが、いかにも年相応に思えて、初めて自分よりずいぶん大人の彼女を可愛く思えた。暖房が利いているとは言え、季節は冬だ。布団をしっかりとかけて、最後に頬に触れる。家出する時のエンに倣ったつもりだ。姉に倣ってばかりの弟。僕。そんな風に思うのも、状況も初めてだった。あの時の僕と違って、深川が起きている様子はない。だけどあの時のエンのように、気付かないだけかも知れない。もう、どちらでもいい。さよなら、先生。ありがとう。完璧な男の子になれなくて、ごめんね。

殆ど手ぶらの僕は、そのまま深川の部屋を後にした。

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