2人の狩人
雨の中で
−−−ネオ−−−
俺はマナを連れてペルーから数キロ離れたハインという隣街の宿に泊まることにした。
時刻は午後10時。
ハインではペルーで発生した事件の話題で持ちきりだった。まだ鬼の出現から半日くらいしか経過しておらず、討伐の報告はされていない。
俺がハンターの本部に報告していないだけなんだがな。
報告は端末とかで敵の死体や撃破の様子を送信することで完了する。それで初めて報酬が振り込まれる。
この雨はいつか止むのだろうか‥‥寒い。
マナは終始良い気分ではなさそうだった。理由はなんとなくわかる。
「あの‥‥仲間が無事か心配で‥‥‥」
「死んでるならとうに死んでいるさ。鬼はいないんだから生きてるならそのうち会えるだろう」
彼女には悪いが今はペルーから離れるしか俺たちが生き残る道はない。ペルーは今、危険に満ちている。
まず建物の倒壊の危険性。そして屍人しびとの出現。
奴らは数日で湧いて出てくるだろう。
何が起こるかわかったもんじゃない。
「なんか飯でも行っとくか?」
「あっ、はい!」
街が全体的にざわついている気がする。当然だ。市民からすれば自分の命が危険に晒されていることなのだから。
ちょっと人気のない店にした方が良さそうだ。
俺はマナの手を引いて路地裏にある小さなレストランに入店した。
やっと雨風を凌げるな。
扉を開くとドアーチャイムがカランカランと音を立てた。
「いらっしゃい‥‥‥ませ‥‥‥」
緑のエプロンと白シャツを着た少し若めの黒髪ショートヘアが特徴的な女性が俺の姿を見て目を丸くさせた。
言いたいことは大方わかるが‥‥‥
俺の服に染み付いたドロドロの血や巨大な棺桶を見て驚かない方がおかしい。
「な、何名様でしょうか?」
「2名だ」
「か、かしこまりました!席へご案内致します!」
店員も覚悟を決めたようで動揺しながらも2人を案内してくれた。
「ご注文がお決まりになられましたらお呼び下さい」
店員は深くお辞儀して持ち場に戻っていった。
俺は一息ついてメニューを開いた。棺桶は常に隣に常備している。緊急時にいつでも動けるようにしている。
「俺が奢るから気にせず頼めよ」
「ええ?!そんな、悪いですよ!まだ報酬も支払ってないのに!」
まぁ同じハンターのよしみだし、先輩に当たるのかな。。
「敬語とかいいから。それと報酬の件で話がある」
後ろの方の席で客が4人立ち上がった。目視せずともわかる。全員男だ。近づいてくるな。
「なぁ、兄ちゃん。あんたが入店してきてからさ〜臭いんだよね〜そのコートだよなぁ?」
血の付いたコートを指差して彼らは言った。
なんだ。コイツ等。
「なぁ、マナ。水をいれてきてくれないか?ここセルフサービスみたいだ」
「え‥‥?うん‥‥」
はい。じゃなくて、うん。と言ったところでタメ口で話してくれたのだとわかる。
「何無視してんだ!?テメェ!!ダサい棺桶使いやがって!」
「なぁ、今回れ右して帰ったら見逃してやる。今はあまり気分が良くない」
魔術を使えば穏便に済ますこともできるが−−−−
「殺してやる!表へ出ろ!」
しょーがない。棺桶を持っていく必要もない。
4人は店の裏口の方へと進んでいった。俺はコートの内側に潜めてあるナイフを1本指でなぞる。
4人目の男が裏口の扉を出た瞬間、俺は一番近いチンピラの首にナイフを1本突き刺した。
喉を貫通し、両手で喉元を抑えるが血は止まらない。
「カズ!!‥‥‥テメェ!何しやが‥‥」
頭部に投げナイフを投擲された彼は最後まで言い切ることもなかった。
目や鼻から出血し痛みで少し暴れていたがすぐに動かなくなった。
「他人の心配してる場合か。残り2人」
強い者が生き残り弱い者は死ぬ。それがこの世界の法則。俺の生き方だ。
あの日から変わることはない。
「貴様!やりやがったな!」
チンピラCは拳銃の引き金を引いて銃口をこちらに向ける。
「クエン」
クエンには生涯世話になりそうな予感がする。昔よりも硬い守りに包まれている光のベールを誰が破れるというのだろうか。
銃声とともに放たれた弾丸は間合いも近かったため3発中2発は俺の胸部に命中した。
拳銃から微かに煙が上がっていた。
俺の目に拳銃を持ったチンピラCの驚いた顔とチンピラDの焦る顔が映る。
そんな拳銃ごときで俺に風穴を開けられるとでも思ったのか。
徐々に2人に接近する。一歩、また一歩。
「来るな!来るなぁ!」
チンピラCが拳銃を乱射するもクエンの前では悲しく散っていく運命だった。
内臓破壊オーガンデストラクション
ゼロ距離の敵の体勢が崩れたときのみ発動可能なスキル。
手に黒魔術の魔力を帯びた状態で一気に体内に手を突っ込み内臓を握りつぶすというロクでもない技だ。
チンピラCの内臓が辺りに飛び散ってさらに黒服が赤に染まる。
あと1人。こいつ等のせいで余計に臭くなるだろうが。
「た、助けてぇ!!!」
チンピラDは逃げ出した。追うのも面倒だから放っておこう。
ふと空を見上げると雨が肌を流れていった。
もう、かつての俺ではない。俺は地獄から戻ってきた復讐者だ。甘えることも慈悲をかけることもない。
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