襲撃
電車にて
カンナは疲れたのか隣でぐっすり眠ってしまった。
彼女の可愛い寝顔に少し見惚れる。静かな吐息を感じる。
確かに職業をこのまま決めなかったら賢者になりかねない。それだけはなんとしても避けなければ。
大学に通う連中はだいたい進路が絞られてくる。
生まれながらにして強い異能者やバーサーカー、ヴァンパイアなどの類にはなれないし、人体改造をしてサイボーグになるつもりもない。
確かにある程度の魔術、剣術、武術、錬金術は嗜んでいる。他の人のように私利私欲のために働くのは嫌だ。汚い人間にはなりたくない。賢者などもってのほかだ!
ちょっと待て。大学4回生で童貞ってヤバいぞ!冷静に考えてみれば緊急事態じゃないか!なんで今まで気づかなかった!俺のバカ!
気がつくと思っていたより時計の針が進んでいた。もう到着する頃かな‥‥
『まもなくレヴェン、まもなくレヴェンに到着します』
「う〜ん!今日は楽しかった〜」
カンナが立ち上がって伸びをする。
「もう夜だから気をつけて帰らねーと」
「大丈夫だよ。だってネオくんがついてるんだよ?百人力だよ!」
こいつ俺のこと過信しすぎじゃねぇかな。頼りすぎだろ。
プシューと音がなり電車の扉が開く。
「ネオくん今日はありがとね」
「おう、また明日な」
家の近くまで適当に言葉を交わしながら一緒に歩いて別れを告げる。
「あっ、あのっ!」
家に向かおうとするとカンナに呼び止められた。
「ん?」
頬を赤らめさせながら言葉を紡ぐ。
「私はネオくんがーーーーーーー
その刹那、カンナの顔が急変する。視線は俺ではなくその背後。彼女の目の瞳孔はいつもにも増して見開いていた。
「え?」
俺が振り返った瞬間にはもう、それは至近距離にまで迫ってきていた。
「見つけた!!!」
護身用の剣を引き抜く間もなくファーストコンタクトで一撃目が飛んでくる。
「クエン!」
間違いなく命中したはずだった。相手の長い爪が腹に接触した感覚が残っている。しかし俺の腹部にはそれらしき傷はない。それがカンナの咄嗟の防御型白魔術であるクエンのおかげであるということはすぐに理解できた。
「大丈夫!?」
「マジで助かった‥‥」
初めて数秒間敵をはっきり認識できた。
この素早さ、2メートル程ありそうな体長、一撃でクエンを破壊できるほどの攻撃力。どれを取っても到底グールやダークウォーカーの類には及ばない。そして青白い肌、極め付けはあの鋭い爪。
間違いない。こいつはヴァンパイアだ。
弱点は日光。ただ1つ。聖水も十字架も効果はない。
主食はもちろん人間である。
「やるな、人間。俺の一撃を防ぎきった者は未だ見たことがない」
ヴァンパイアは言うまでもなく会話能力があり、知力は人間と同等のレベルだ。
「貴様がこの街で暴れてるとかいう殺人犯か?」
ヴァンパイアは笑いながら答える。
「それに答える必要はない。なぜならお前が、ここで死ぬからな!」
今度は剣を引き抜き正面に構える。護身用の剣なので威力にはあまり期待できない。もとよりこの剣はヴァンパイアなどを相手にするようにできていないのだ。
だが、今ここでそんなことを言っても仕方ない。恐らくヴァンパイアは人間よりスピードが速いから逃げることもかなわないし、近接戦闘において重要なのは武器よりも剣術なのだ。
俺の剣術で奴をここで抹殺する!
大丈夫。カンナもいる。
「ネオくん!!」
「カンナ!バックアップは任せた!」
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