なんの取り柄もない俺が異世界に転生した結果wwwwwwwww
@t_ishida
第1話プロローグ
ガスッガスッ──ゴギッ────────グチャ──────
もう……
暴力に酔った男達の下卑た笑い声が聞こえる。目はらんらんと輝き、獲物を得た猫のようである。この男達には力の限りの懇願も、媚びた笑いも、身に覚えのない罪への謝罪も届かないことだろう。目の前の獲物へ「飽きるまで」暴力を振るうことしか頭にないのだ。今の彼等には、獲物の「死」ですら終了条件に成り得ない。
ドゴッ────ドゴッ──ボキッ──ジャリジャリ──────────
「もう……いやあぁぁ────────」
力の限りに叫んだ。いや、叫びたかった。声など、とうの昔に枯れ尽くしている。そもそも、今、自分の発声器官は声を出すことができるのだろうか。そもそも、今、自分の肉体は生きているのだろうか。痛覚は壊れきって既に痛みを感じさせてくれない。生命の危機を脳へ知らしめることを諦めたのだ。知らせたところで、もう無駄だからだ。ならば、せめて『苦痛を感じることなく、安らかに死ね』ということだ。今の叫びも、自分の身体が破壊される音と衝撃に対しての反射に過ぎない。
ゴッ──ドゴッ──ビシャァ────ポタ────ポタポタ────
なんの変哲もないサラリーマンであった灰原タクヤが、なぜ今、「こんな異国の果て」で息絶えようとしているのか?それを説明するためには時計の針を5日ばかり巻き戻す必要がある。しかし、彼の腕────この、骨とミンチの塊を腕と呼ぶならば────に巻かれている血塗れの腕時計を5日分、つまり、短針を3600度巻き戻すだけで説明が足りるか分からない。この腕時計は「12時間で360度針を進める」という灰原の住んでいた世界の時を刻むために作られたものであり、この世界がその尺度で動いているとは限らないからだ。ここは異世界。現実でなんの努力もしてこなかったくせに異世界に来ただけで根拠不明の不思議な力が宿ったり、ルックスも並以下で女の子の前ではキョドりっぱなしのクソ童貞がやたら剣技に長じた美少女に一目惚れされる等という奇跡は起こらない。これは『もし、なんの取り柄もない僕たちが異世界に転生したら当然の帰結として死ぬ』そんな物語だ。
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