メロンジュースの復讐
政府からの緊急招集で俺達ハンターは青森の市役所に集められた。
実は青森はりんごだけでなくメロンの産地でもあったのだ。
「大変です100%メロンジュースが襲ってきました!」
役人の第一声はソレだった。
「100%ジュースって、もう野菜ですらないじゃん」
ハンターの一人がぼやく。大丈夫だ、皆同じ気持ちだ。
役人の話によると、とうとうSYK(世界野菜協会)はカット野菜だけではなく、野菜ジュースまでも人間を襲う様にしてしまったという。
俺達に与えられた任務は100%メロンジュースのCM撮影現場に行ってスタッフを救助する事だった。
いいかげんこんな事は言いたくないが、こういった状況になるとまず間違いなく逃げ遅れた連中は死ぬ。
経験談だから信じろ。
◆
装備を整えた俺達はCM撮影現場へとやって来た。
正直100%ジュースを相手にどう戦えばよいのかさっぱりだが泣き言を言っても始まらない。
他のチームは火炎放射器や液体窒素を用意してきている。
液体窒素は量が多いと運ぶのに高圧ガス移動監視者か高圧ガス製造保安責任者の資格がいる。
ただ今回は個人で運べる量のみの仕様なので資格は不要となる。
相手は100%ジュース、液体なので打撃は通用しない。
と、なれば後は蒸発させるか凍らせるかのどちらかという訳だ。
何と言うか非常に世紀末な光景である。
◆
戦いは熾烈を極めた。
100%メロンジュースとの戦いは人類がコレまで築き上げた戦闘マニュアルを逸脱する相手だったのだ。
やはり物理が効かないのが痛い。
昨今ではRPGで最弱だったスライムが強キャラになったり、女騎士にエロい事をする役として抜擢されるのも納得のいく話である。
古参のハンターもスキマから染み出てくる100%ジュースに不覚を撮ってリタイアしていく。
全身を100%メロンジュースに覆われて貪り食われるハンター達。
気が付けば数十人居たハンターも数える程に減っていた。
撤退できたハンターはどれだけ居るのだろうか
「液体窒素はどれだけ残ってる?」
「あまり無いな。火炎放射器の方は?」
「こっちも残り少ない、一旦装備の補充に撤退した方が良くないか?」
映画などでは燃料が残り少なくなると進んだ方が早い、ボスを倒そうなどと言い出すがコレは現実だ。ボスなんて居ないしメロンは全滅させなければこちらが殺される。特に今回のような特殊なタイプのメロンは危険度が非常に高い。完全殲滅案件だ。
「よし、一旦撤退しよう。装備の節約の為にも足を止めずに立ちふさがる100%メロンジュースだけを攻撃しよう」
「了解」
「異議なし」
こういう時フリー同士だと主導権争いが発生したりするが、戦場の真っ只中でそれは死を意味する。こういう時は誰かの意見に了承か反対かを簡潔に述べ多い方の意見を選択する。全くの半分の場合はチームを分けて別行動だ。
誰かが決めた訳ではなく、自然とそうする様になっていた。
今回は撤退及び装備の節約が認められた訳だ。
全員が無言で元来た道を戻る。
と、その時、奥の方から悲鳴が響く。
「生存者だ!」
誰かの言葉に全員が顔を見合わせる。
そんなバカな! という顔だ。
今だかつてメロンの巣窟で生き残っていた要救助者なんていない。
だが生きているのなら助けなければ、それが俺達への依頼内容なのだ。
全員が止まり無言で頷きあう。
俺達は反転しメロンの巣窟の奥深くへと向かっていった。
◆
撮影現場に到着する。
装備の消耗を恐れ最低限の戦闘のみに絞ったのが功を奏したようだ。
撮影現場にはプレハブが幾つも建っており、その中に機材を置いたり俳優が
着替えたりしているみたいだ。
慎重に撮影現場の中に入っていく。
「なんか殺虫剤が多いな」
「自然の中だからな」
「立ったら虫除けスプレーで良いだろうに」
「他の撮影もしてるんだろう。見ろ怪獣の着ぐるみがある」
「おお、これゴルジラの着ぐるみじゃん! 新作作るのかな?」
「無駄話をしてないで先に進むぞ。物影と天井に気をつけろよ」
「了解、了解」
普段見ない芸能界の現場に興奮する若手ハンター達。
とそこで俺はある物に気付く。
「コレは使えそうだな」
そう思った俺は腰の装備カバンにソレを詰め込んだ。
◆
「っ!!」
撮影現場の奥にたどり着いた俺達は絶句していた。
そこで見たもの、それは一面が100%メロンジュースの海になった撮影現場だった。
「見ろ!あそこに人が!!」
それは女性だった。撮影用の機材の上に登る事で彼女は辛うじてメロンの魔の手から逃れていた。
だがソレもじかんの問題だろう。
「今助ける!!」
先走ったハンターが100%メロンジューズに液体窒素を吹き付ける。
「無駄撃ちをするな!」
「考えてる暇なんて無いだろう!」
バカが、そんな事も理解出来ないのか。
始めの方こそ100%メロンジュースは順調に凍って言ったが、いかんせん量が多すぎる。結局1/10も凍らせられない内に液体窒素が切れてしまった。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
考えなしのハンターが100%メロンジュースに反撃されメロンの海に沈んでいく。
余計な事をして怒らせやがって。
「どうする、このままじゃ俺達も奴の餌食になっちまうぞ」
勇敢にも死地に飛び込んだハンター達だが、さすがにこの光景は想定外だったと見えて及び腰だ。
「全員の液体窒素を使っても凍らせるのは無理だ」
「だったらどうする?」
「助けて、助けて!! ねぇ貴方達私を助けに来たんでしょう! だったらぼやぼやしてないで助けてよ。私女優なのよ。メロンに食い殺されるなんて真っ平ごめんだわ!! 早く助けて!!」
「やかましい! 今作戦練ってるんだから黙ってろ!!」
ハリウッド映画に登場するヒロインのヒステリーよろしく喚き立てる女を黙らせ作戦会議を再開する。
「液体窒素を使おう」
「だが量が足りんぞ」
「全て凍らせる必要は無い。上のほうだけ凍らせて道にするんだ。あのバカ女まで持てばいい。火炎放射器は帰りの戦力として温存だ」
「分かった」
「よし液体窒素組行くぞ!」
「「「応っ!」」」
液体窒素の入ったボンベを背負った男達が進む。足元の100%メロンジュースを凍らせ前に出る。
「すまん無くなった」
先頭ハンターの液体窒素が切れる。
「戻れ!」
「任せる!」
先頭のハンターは後列と交代してそのまま安全圏に避難する。
「すまんこっちも切れた」
側面から攻撃してくる100%メロンジュースを威嚇をしていたハンターが宣言し撤退していく。
「助けて! 早く!」
「もう直ぐだから黙って待ってろ!」
ハリウッド映画の主人公が声を荒げる理由が分かった。命がけの救助活動をしている時に急かされれば声を荒げたくもなるというもんだ。
そしてとうとう女優の足元までたどり着く。
「受け止める、飛び降りろ早く」
「む、無理よ。迎えに来て」
たかが1mでアホぬかな。 こっちはもう液体窒素が無いんだ!
「そんな時間は無い。来ないならさよならだ。皆撤収するぞ」
「「応!」」
「ま待って待って!」
俺達が撤収しようとしたのを見て慌てて飛び降りる女優。
「出来るじゃないか」
俺が褒めてやると女優は不機嫌な顔で言った。
「貴方って最低だわ」
コテコテのハリウッドだ。
「さぁ撤退するぞ」
だがせっかくの獲物を逃すかと100%メロンジュースが激しく抵抗してくる。
「駄目だ切れた!!」
「俺もだ!!」
100%メロンジュースの猛攻に全員の液体窒素が底を付く。
「今助けに行くぞ!!」
火炎放射器を抱えたハンターがこちらに向かってくるがこの100%メロンジュースの量の前では焼け石に水だ。
何か武器は無いか。
装備を漁るがろくな物が出てこない。俺は今劇場版未来の国の猫型ロボットだ。
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
女優めがけて100%メロンジュースが飛び掛る。
その時俺はようやく腰のカバンに詰めた品に気付く。
「喰らえ!!」
ソレはスプレー缶だった。その管から放射された冷気が飛び掛ってきた100%メロンジュースを白い固体へと変貌させる。
「突っ切るぞ!」
新たな武器を手に液体窒素で凍った100%メロンジュースの道を走り抜ける。
途中襲ってくる100%メロンジュース達に片っ端からスプレーを吹き付け凍らせる。
そしてやっとの事で100%メロンジュースの海を抜け出した俺達は急ぎ撮影現場から逃げ出した。
◆
「さっきの武器は何だったんだ?」
横を走るハンターが興味深げに俺の手に納まるスプレーを見る。
俺はスプレーをハンターに見せびらかすように掲げた。
「凍結殺虫スプレーさ」
そう、撮影現場にあった殺虫スプレーの中には凍結タイプのスプレーも混ざっていたのだ。
しかも一番冷たいガスの出る奴が。
100%メロンジュースの海を相手にするにはとても足りない量だが、飛び掛ってくる小さな100%メロンジュースくらいなら表面を凍らせて時間稼ぎが出来る。
そう、メロンハンターの新しい必需品誕生の瞬間であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます