第687話 第1章 5-4 天限忍者

 誰かが聖地の言葉で叫び、天限儀である鎖鎌の鎖分銅を投げた。天限儀であるので分銅が炎を噴き上げ、かつ鎖も異様に伸びて空中の球電へ命中する。バアッ! 光が弾け、一瞬夜の闇が訪れたが、カンナが次々に大小の球電を浮かび上がらせ、真昼がごとく明るくなった。


 「なんたるやつ!」


 曲者たちの姿も影を伸ばして浮かび上がる。見ると、帝都ヅェイリン宮城の竜泰山殿を襲ったホレイサンの忍者たちにそっくりの全身黒、茶、濃藍色の覆面や面めんぼお姿だ。みな大脇差に近い忍者刀や大苦内おおくないで武装している。


 「バスクスをれい!」

 無駄な相談だ。


 カンナはバグルスへ立ち向かう。カルマの仕事である。その補佐をするのはカルマ級の二人だ。


 「回りこめ!」


 首領が指示を出すが、瞬間、喉元へ闇星が回転しながら食いこんで、骨へ当たってゴリゴリィ! すさまじい音をたてて首を半分も引き裂く。血を噴き出して、ばったりと倒れた。


 すかさずガリア遣いには天限儀士が相手をするが、

 「ライバは下がってて!」


 格闘には向かないライバ、瞬間移動でいったん消える。スティッキィが一人で二人を相手にする。


 「カンナちゃん、ゴミを払うときはゴミを払う力で払うのよ! 分かった!?」


 こんな場所でカンナが全力展開したら、皇太子を巻きこみかねない。そのための措置だ。


 「ううああ!」

 カンナが黒剣を振り上げ、超バグルスともいえるバケモノへ向かう。

 その間にスティッキィは忍者どもの相手だ!


 見る限り、カンナの球電の光の下でスティッキィの認識した襲撃者は三……いや四人だ。一人倒したので、総勢五人か。バグルスを入れると六人。先に屋敷内で倒したのは四人。合わせて十人ならば、襲撃部隊として妥当な数字だと思った。


 「じゃあ……やっちゃいましょおかねえ!」


 煌々と周囲を照らすカンナの球電の光の中に、足元より闇がむくむくと浮かび上がる。全て闇星あんせいの固まりだ。そんなスティッキィの前に、二人立ちはだかった。ガリア遣いか。一人は鎖鎌、一人は……。


 「……?」


 スティッキィ、嫌でも瞠目する。見たことのない道具を手にしている。魚の形に似た木の器? のようなものを抱え、中が黒い。何の道具なのかさっぱりだ。


 と、その道具を持った忍者がそれを掲げると、黒い糸が道具から蜘蛛めいて吐き出された。その糸を手で弾くと、パシッ! と空間に黒い線を描き……スティッキィを囲ってゆく。


 それは墨壺のガリアだった。出された糸が空間に線を引き、その線が敵を寸断する!


 それで敵の動きを止め、合間より毒蛇めいて自在に蠢く鎖分銅が襲う!

 「なあめてんじゃあないわよお!!」


 無数の闇星が回転して唸りをあげる。完全に無秩序に動いているようで一定のパターンを形成し、煙が立ち上るかの如く自在に膨らんで墨壺の糸を裁断し、ひときわ大きな星が鎖分銅を弾いた。 


 「こやつ!」


 二人の「天限忍者」たちが、あまりに強力なスティッキィのガリアに怯んだ。これほどの天限儀は見たことがない。


 さらにスティッキィの裏カントル流!


 闇星で視界を遮りつつ一足飛びで前に出て、細身剣を振りかざす。狙うのは当然、まず武器ではないガリアのほうだ。


 「イェヤァ!」


 眼が不気味に光る。殺意と闇だ。墨壺ではどうしようもない。糸が噴き出て空中に裁断線を引き、自らを護ったが、スティッキィの闇星が次々に切断する。


 忍者たちの着る鎖帷子は斬る攻撃には強いが刺突には弱い。スティッキィのガリアが刺突剣だったのも幸いした。胸元に剣が寸分たがわず突き刺さり、面頬の下から血を噴いて墨壺の天限儀士が絶命する。


 その隙に鎖鎌と残りの忍者が、脇差や大苦内を手に殺到する。

 「むあああ!」


 スティッキィが、すべてをかなぐり捨てたような声を発した。彼女を中心に螺旋を描き、大小の闇星の群れが乱れ飛ぶ。星の一つ一つが鋭く回転しているので、二重回転だ。さしもの鋼鉄製特殊鎖帷子も切り裂かれ、前衛の二人の忍者はズタズタに裂かれて転がった。後方の二人が助かったのは、たまたま第二陣として波状攻撃したからにすぎない。あわてて攻撃を止め、驚くべき跳躍でいったん下がる。下がりながら大苦内を投げつけたが、闇星が自動で動いて弾いた。

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