第557話 第3章 1-2 アテォレの地

 「……な、なんだ?」


 「ねえ、ウォラのやつに確認しましょおよお。あたしたちの知らない間に、カンナちゃんをどこかへ連れてっちゃうかもよお?」


 スティッキィが真剣な眼差しをライバへむける。

 「連れてくって、どこへだよ?」


 「たぶん、こんな街中でそのなんとかって試験はやらないと思うわよ。だって、観たでしょ? 川のところで、カンナちゃんとレラが一足早くやり合ったのを。村がひとつふっとんでたじゃない。こんな場所でやるわけないでしょお」


 ライバ、手を打った。

 「そうだな!」

 そのまま、二人でウォラの部屋へ戻る。しかし、ウォラはいなかった。

 カンナの部屋へ行こうとしたが、教練所の職員に止められた。


 二人は観念して部屋へ戻った……ふりをして、とうぜん、瞬間移動だ。カンナの部屋は位置をつかんである。この近距離では一発でゆける。


 二人がカンナの部屋へ移動すると、そこにはカンナとウォラがいた。

 「来ると思っていたぞ、二人とも」


 ウォラが笑う。カンナは先ほどの貫頭衣を脱いで、新しい服に着替えている最中だった。ウガマールで着ていた、ゆったりとした日常の神官着だ。


 「どうしたの? 二人とも」

 カンナの声の張りが戻っている。二人は顔を見合せ、安堵した。

 「調子はどう? カンナちゃん」

 「どうって……変わりない」

 「そお」

 「二人とも、話がある」

 「こっちこそ話があるのよお」

 スティッキィが眼をつり上げて前に出た。ウォラが、それを手で制する。


 「待て。分かっている。どだい、私とお前達ではカンナへ対する立場も考え方も異なる。私を信用しなくてけっこうだ。だが、お前達はカンナを絶対に護ってほしいし……どこであろうとも着いて行って、離れないでほしい……着いて行けるのならば」


 「どおゆう意味よお」

 「明日、出発する」

 「どこへよお」

 「アテォレ神殿だ」

 「どこよ、それ。話しごまかしてんじゃあないわよ!」

 スティッキィがウォラへ詰め寄った。


 「神技合かみわざあわせを行う場所だ。ここから、二十ルット(六十キロほど)ほど離れた密林の奥地にある……そこで、カンナとレラは神の前でその技を合わせ、どちらが神代の蓋を開けるにふさわしいか競う。はるか二千年も前の儀式だ……それが、復活するのだ」


 「それと、さっきの話と、なにが関係あるってえのよ」

 「行けば分かる。試験は、カンナだけではないぞ」

 「はあ……?」

 スティッキィの蒼い眼がつり上がった。

 「勿体ぶってんじゃあないわよ、あんた!! いまここで説明しなさいってえの!!」


 その説明如何では、ウォラをこの場で殺し、カンナを連れて脱走する。スティッキィはそう考えていた。


 「その性格は直した方がよいぞ、スティッキィ……」


 すました顔で、ウォラは不敵な笑みを浮かべた。スティッキィの顔がひきつって、口角より泡を飛ばしてまくしたてる前に、


 「では、ここでおこなってもらおう。結果如何では、アテォレ神殿へ連れて行くわけにはゆかない。むこうで行えば、せめてカンナの戦いを見届けることができたかもしれないがな。それでいいのだな? 二人とも」


 「な、なあによお、それえ……!」


 スティッキィが面食らった顔を見せ、動揺した声をだし、悔し気に奥歯をかんでウォラを睨みつけた。


 「スティッキィ、仕方ない……ウォラさんに従おうよ。どっちにしろ、主導権は向こうだ」

 ライバがまたスティッキィをなだめる。


 「さすがに、物分かりがいいな、ライバ。さ、明日は夜明けと同時に出立だ。だいたい、今時期なら二刻半すぎだ。寝過ごすなよ。寝坊したのを待つ余裕はないぞ」


 返事もせずに、二人はそろって退出した。退出は普通にドアより出たので、棍棒を持った衛視が驚いて二人を見据えた。いつの間に入ったのか。


 「かまわん」


 と、ウォラが部屋の中より声をかけなかったら二人へとびかかっていたところだが、それは衛視が命拾いしたことになる。


 特にスティッキィは、既に手の中に闇星あんせいを出していた。こんな衛視の首など、一撃で掻き切る。そして本当にやりかねない。


 メストの怒りの眼光に、衛視はたちまち戦意を喪失し、二人を無言で見送った。

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