第519話 第1章 3-5 ライバの吐露

 「隠し事は無しだよ。私は、の命令でここにいる。カンナさんを護れってね」


 「ほおおう」

 わざとらしく驚いて、目を丸くする。

 「その『とあるお方』が、カンナちゃんを殺せと命令したら、殺すんだ」

 「そのとおり」


 スティッキィが、弾かれたようにガリア「死舞闇星剣しぶあんせいけん」を出した。そのまま、容赦なく幾つもの闇の星を出し、突きかかる。


 ライバが瞬間移動で消えたので、星は鋭く回転して硬い高級木材の椅子をバギバギに切断した。


 「あの女……!!」

 殺気に満ち、スティッキィが部屋を出ようとしたが、

 「だから、落ち着きなって……たぶん、次の命令は来ないよ」


 自分の後ろで、壁へ寄りかかって腕組みするライバが、鬱として声を発する。スティッキィは艶消しに漆黒の細身剣を突きつけた。


 「その前に……その『とあるお方』ってえのを吐いてもらおうじゃない。まさか、アーリーじゃないでしょうね」


 「デリナ様さ」


 ライバが顔を上げた。マレッティやアーリーより昨夏のカンナとデリナの戦いのことを聴いていたスティッキィ、ブルブルと震えてきた。


 「……あんた……よくも……いけしゃあしゃあと……」

 怒りのあまり、顔もひきつって、笑いまで出る。

 「頭のてっぺんから削って跡形も無くしてやるわよ!!」


 云った瞬間、ライバがまた瞬間で間を詰め、スティッキィの喉元にその食肉解体用の大型ナイフのガリア「次元穴じげんけつ瞬通しゅんつう屠殺とさつ小刀しょうとう」を突き立てた。眼が暗殺者のそれに光っている。


 「……あんた……!!」


 「私もメストだってお忘れみたいだね。それとも、知らなかった? 同じ『甲冑』配下と思ったけど」


 グッと、刃が紅潮してピンクに染まった喉へ押し付けられる。冷や汗が伝った。「甲冑」とは、かつて「覆面」「仮面」と共にメストとして活動していた三つの組織の一つで、レブラッシュの組織のことだ。いまは「覆面」と「仮面」の組織は壊滅して、レブラッシュがすべてを吸収している。


 「どういう……つもり……!?」

 「スティキィは、感情を出しすぎる。それでよくメストが務まったもんだ」

 「余計なお世話だっちゅうのよ」


 「君を殺せとは命令されてない。依頼もされてない。落ち着いて私の話を聞いてくれるのなら、殺さないけど」


 「殺しなさいよ」

 「カンナさんとは、ここでお別れ?」

 スティッキィが黙る。


 「……わかったわよ。なんの話よ。ただし、話の内容によっては……カンナちゃんとウォラにすべてを報告するから」


 「かまわないよ」


 ライバが離れる。スティッキィは首を押さえ、息をついた。ライバがガリアを消したので、自分も消す。が、彼女たちほどの遣い手になると、ガリアを出そうが出すまいが、効果を発揮するのに関係ない。


 ライバがバラバラの椅子を見て、

 「あーあ、すぐカッとなって……これ、ちゃんとスティッキィが弁償しなよ」

 「わかってるわよお!」


 ライバは、もう一脚の椅子へ座りなおした。

 「これは、相談も兼ねているんだけど……」

 ライバが嘆息交じりに、両膝へ肘をつき、手を組んで、どこを見るともなく話し出した。


 「デリナ様はさ、去年の夏に、サラティスを侵攻してカンナさんと戦って……カンナさんのあまりの『力』に驚嘆して……考えを改めたようなんだ。それまでは、どうも、カンナさんを『紛い物』として排除しようとしていた……らしいんだけどね」


 そこで、チラリとスティッキィを見る。スティッキィが黙っているので、話を続けた。


 「帝都へ行って、それから聖地ピ=パへ行った……私へいろいろと指示が出てたんだけどもね。ホルポスを陥れようとしてたのも……なにか考えがあってのことだと思うけど、それは分からない。それで、帝都や聖地で調べ物をして……確信したんだと思うよ。カンナさんが『本物』だって。それで、急にカンナさんを護れなんて言う指令がきたんだと思ってるんだ。だけど……」


 そこでライバが黙ってしまい、見る間に涙目になったので、スティッキィも驚く。


 「私には、これで最後の指令だって。カンナさんをどこまでも護れって云って、そのままカンナさんに仕えろ、だって」


 「なによ、それ……」

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