第426話 仇討 4-3 黒死滑車
ギヤツッ! 空気のつぶれる音がして、すさまじい衝撃で互いの剣が弾かれる。オーレアは体勢を崩したが、サヤは弾かれた刀の勢いをそのまま利用し、身体を伸ばしながらも手首を返して切っ先が天を向いた。もう、柄に左手を添えるだけで斬撃の姿勢になっている!
右足で蹴りつつ大きく左足を引きながら、「引き斬り」で刀を無防備なオーレアの左肩めがけて切り下ろす。
その動きが、ゆっくりと全て認識できるのがまた、生々しい。
このままでは肩ごと上体を両断される剣筋だった。
しかし、オーレアは、その場で地面を蹴り、アクロバティックな動きで体をひねって空中でひっくり返った。刃の軌道上に腹を向け、まるで土壇場の上の試し切りされる罪人死体のような姿勢となって、その攻撃を二剣で受ける。
再び火花と衝撃波!
とたん、加速が切れる。
サヤは衝撃に跳ね返され、腰からぶっとんで藪につっこんだ。オーレアは地面へ背中から叩きつけられ、大きくバウンドして草むらへ転がる。それだけで死ぬかと思ったが、サヤが追撃してくる前に、
痛みとショックをこらえながら藪から出てきたサヤが、もう宵闇の中に消えてしまったオーレアに満足げに微笑んで、一瞬で刀を納めた。
大きな三日月が、現れた。
「っつ、いた……いた、たた……もう、なんなの……最悪ぅ……」
涙目で尻と腰をさすり、へっぴり腰でオーレア、なんとか逃げおおせたことに安堵した。世の中、上には上がいる。
しかし、動転して、街道方面へ逃げたと思ったら、スターラへ戻ってきてしまった。
暗い街並みに、嘆息する。
今の道へ戻る気にはなれなかった。
もう一度市内へ入り、なんとか迂回して別方向から街道へ行かなくては。
ランタンを持ってきていないので、完全に月明かりの中を行くことになる。なんたる誤算か。これも、自分の読みの甘さだ。オーレアは反省した。
「だって、まさかウチにあんな凄いのがいるなんて、思わなかったもの」
口を尖らせ、自らへ云い訳をした。今更ながら、自分の所属していた暗殺組織の底の深さを思い知った気分だった。
都市外周部を歩きながら、点在する建物から建物へ隠れるように移動する。どうにも背中と腰が痛い。どこか、ケガをした可能性もある。一刻も早くパウゲン連山を越えたいが、無理かも知れない。いや、むしろ何とかバソ村まで出て、温泉治療をしたほうが良いだろうか。
そんなことを考えていると、壁のみが残った無人のあばら屋へさしかかった時、強烈な光がオーレアを照らした。まぶしさに手で眼を押さえ、光源を見た。二人、逆光で影になって見える。こんな強烈な光を放つ器機はこの世界には存在しない。ガリアだ!
「まだいたの!?」
オーレアは条件反射でガリアを出したが、そのオーレアの両手を、影のロープが捕らえるのが先だった。
「このガリアは!」
光のガリア遣いは、影を作るのが役目だ。空中に黒い影の滑車が四つ回り、影の綱が建物の壁を這って、ぎりぎりとオーレアの腕を……正確には、壁へ映るオーレアの影の両腕を締めあげる。クラリアのガリア「
「……あんたまで!」
「悪いね、オーレア」
逆光に、クラリアの声がした。まぶしくてよく見えない。オーレアが目を細める。ガリアを出したが、全く動けない。近づいたら蹴りを出そうとも思ったが、クラリアの滑車がまた二つ出現し、それを伝って影綱が伸びて、オーレアの足も戒める。オーレアは四肢を封じられ、まるで蜘蛛の巣の蝶だった。
「あんた、こんなに滑車を出せたの。隠してたのね」
「そりゃあ、そうだよ。あんただって、あたいに隠してることがたくさんあるだろ?」
オーレアは答えなかった。
「私を倒せば、いくらもらえるの?」
その代わりに、不敵な笑みを浮かべて質問した。
「ちがうよ、オーレア。これはけじめさ」
「組織の?」
「あたいのだよ」
「あんたの!?」
「そうさ。誰にも依頼されてない。自分で来た。これは、仇討なんだ」
さすがにオーレア、一瞬、絶句する。
「あ、仇討ですって? 誰の?」
「ビーテルさんだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます