第347話 第2章 4-4 アーボの死
「こいつ……なんてばかぢからだ!!」
「人間……ふぜいがああ……!!」
逆にきめられた左手より超振動が発せられたが、指向性なので、固められた腕の先、つまり掌より明後日の方向へ虚しく向かうのみだった。両足の先からも振動の波が放出されるも、それもアーボには届かない。踏ん張る雪面を溶かすのが精一杯だった。
さらに、アーボが関節をきめている腕の内側より、ナイフのような刃物が突き出る。これで先程は灰色の兵卒バグルスの首を取った。アーボはいま、シードリィの残った左腕ももらおうという魂胆だ。
ガリアの刃が関節に食いこんで、シードリィが悲鳴を上げた。しかし、さすが、アーボのガリアといえども、容易に刃が通らない。
「……な、なんだと……!?」
アーボも驚嘆する。
さらに技をきめ、さらに全体重をかけて揺さぶって鋸引きだ。
しかしシードリィは、歯を食いしばって耐えた。
その揺さぶりのリズムに合わせ、シードリィも自ら揺れ、アーボの身体もさらに揺れる。予期せぬ揺れに、一瞬、技がゆるんだ。あっ、とアーボが思ったその一瞬を狙ってシードリィは身を捻り、肘までしか無い右腕を隙間へ強引につっこんで、逆にアーボの体をねじり上げ、強引に技を外しにかかった。かなり無理な体勢だが、バグルスの身体能力ならばできる。
「こ、こいつ……!?」
「……そらあっ!!」
隙間が大きく開いた瞬間、シードリィの屈めた膝が入って、一気に脚力でアーボは技を外され、蹴り飛ばされた。
転がるも受け身をとって、すぐさま体勢を立て直し、立ち上がって身構える。
そこへ、突進したシードリィの蹴りが二度、三度と入り、アーボはよろめいた。防御の構えをとろうとするも、シードリィがそれをさせぬ。
「遅いんだ!」
シードリィの、肘より血を流す左手の爪が切断高周波を発し、それが素人めいてとにかく防御するアーボの右腕を襲った。
「ガア……ッ!!」
アーボの右腕が、肘の下よりガリアの鎧ごと
「これでおあいこだ!」
高らかに宣言してシードリィ、攻撃の手をゆるめ無い。逆にアーボは完全に守勢に回って、
「我の……右手が……バスクスめに……やられて……いなかったら……」
シードリィの冷静な面構えが、怒りと憎しみにゆがんだ。
「おまえなど敵ではないのだ!」
強烈な回し蹴りがアーボの横面に入って、ついにアーボ、腰から横倒しに崩れて雪上へ大の字に転がった。
「死ね!!」
ありったけの高出力高周波が、アーボへ注がれる。周囲の雪もたちまち融けて沸騰し、アーボの全身と合わせて大量の蒸気が吹き上がった。アーボはまるで煮沸する鍋の中で茹でられているようにガクガクと痙攣した。
「大隊長!」
それへ気づいた一人のフルトが果敢にもシードリィへガリアである炎を吹き上げる戦斧を振りかざして向かったが、横から突っこんできた巨大な凶氷竜の太く強力な足に蹴り飛ばされ、何十キュルトもぶっとんで転がった。あまりの脚力に、胴と足が千切れている。
シードリィは見向きもせずに、さらにアーボを責めたてた。
ついに、アーボのガリアが解除され、アーボは見るも無残な姿で茹で上げられ、やがて爆裂して沸騰した血肉をぶちまけて絶命した。地面まで熱泥と化して陥没し、その中に残ったのは、ぐちゃぐちゃに煮え立って溶けた、泥と混じった人間の残骸だけだった。
シードリィの高笑いが、戦いの喧騒の中に響いた。
5
アーボの死によって第二大隊は総崩れとなり、正面を突破され、トロンバーへ転げるように逃げ戻った。シードリィの指揮により竜たちが追い討って、統率を失ったフルトたちは為す術無く主戦竜に食い殺された。
そのころには、第一大隊も撤退戦を繰り広げている。あのバーララに操られる三頭の巨大な白銀竜が、容赦なくトロンバーへ迫った。動きが遅いのが唯一の僥倖だった。結果として、やがて暗くなり、攻撃はいったん止んだ。
そして、第三大隊にも、ホルポスの周到な攻撃が迫った。
第三大隊の大隊長は、クラリアだ。
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