第318話 第1章 2-3 雪花竜
ギャウン! と驚いて犬が鳴いた。ライバとエサペカは、一瞬の出来事に固まりついて身じろぎもできない。
……ガガラアー!! ーン ーン ーン ……!!
雷鳴が静寂の雪原に響きわたった。遠くの林から、音に驚いたカラスがいっせいに胡麻のように飛び立つ。
カンナのガリア「
エサペカは、へなへなと雪上へ腰を下ろしてしまった。
どさりと竜が倒れ、カンナは無意識の動きにようやく意識が追い付いて、息を吐いてそりへ寄りかかった。
「す……すご……カンナさ……よく……どうして……」
ライバも、言葉が続かない。
二人とも慣れない寒さで本調子ではないと判断したカンナのため、そして自分たちが生き残るため、何を打ち合わせずとも自然にいつもより気を張って、竜に対して警戒を強めていたつもりだった。
それが、暗殺竜とも云われ、確かに要注意竜であったとはいえ、短時間でこうも易々と接近をゆるし、あまつさえ襲撃までされるとは思いもよらなかった。しかも、カンナだけがその存在を見抜き、一瞬にして倒した。
「カンナさん、しっかり……!」
ライバが駆け寄り、一瞬の緊張と弛緩で喘いでいるカンナの背中を叩いた。
「……うぃやあ……びっくりした……」
カンナは目眩で倒れそうになった。
「びっくりしたのはこっちですよ……!」
立ち上がったかと思ったエサペカが、やおら興奮してまくしたてる。
「さすが……カルマ……これがカルマだ! ライバ、これがサラティスのカルマだよ!」
「分かってるよ! そんなこと……」
ライバは改めて、カンナのガリアの力を痛感した。横たわる雪花竜を見下ろし、小さく震えている自分に気づく。ふかふかの毛皮に覆われているが、その下には並の刃物では刃が欠けるほどの鱗がある。でかいネコみたいに見えるが、れっきとした竜だ。しかも、ソリで走っているころから、ぴったりと後をつけてきたに違いない。犬たちにも悟られずに……。
そもそも、スターラのガリア遣いである「フルト」は、竜を倒すといっても簡易な毛長竜が専門で、このような特殊竜、まして主戦竜など、戦ったことなどほとんどない。年がら年中、さまざまな竜との戦いに明け暮れているサラティスの「バスク」とは全く異なる。竜の狩人であるフルトとは名ばかりで、竜と戦うより、じっさいはガリア遣い同士で戦うほうが多いものだから、ガリアそのものがバスクと少し異なる。フルトのガリアは、竜殺しというより、人殺しのガリアといってもいい。
(それなのに、バグルスだ、ダールだなどと、本当にやりあえるんだろうか……?)
ライバの疑念はそこへ収着した。
(しかし、もう、やるしかない。……ま、あたいはデリナ様の指示に従うだけだけど……)
そう。ライバもまた、マレッティと同じく、黒竜のダール・デリナ配下のガリア遣いであった。
(半竜化したデリナ様を撃退したカンナ……そのちから、見極めてみせる)
ライバは改めて想いを新たにしたが、あまりにぐったりしているカンナの前でエサペカがはしゃいでいるので、
「うるさいな! カンナさんが疲れてるだろ、いいかげんにしろよ!」
怒鳴ってしまった。
エサペカは思わず口に手を当てた。
「ごめん……でもさ、こいつ、雪花竜ってやつでしょ? ……初めて見たし、倒したっていう話も、聞いたことないしさ。やっぱりカルマってのは……すごいんだよ。ライバも、サラティスでバスクをすりゃ分かるんだって。カルマは、特別の中の特別さ。バグルスなんざ、怖くないよ」
と、ライバがガリア「
「どこ行くの?」
ライバが瞬間移動でどこかへ行くと思ったのだ。
「解体して肉にしよう。七日分の食料になるよ。余ったら珍しいから売れる。首も持って帰ろう。倒した証拠だし、剥製にしたらこれも珍しいから高く売れるよ、きっと」
エサペカは、ライバの商魂の逞しさに呆れて絶句した。
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