第266話 裏カントル流
リットラ、遮二無二斬りかかって強引にマレッティの突進を止めた。細身剣と細身剣が唸りを上げてかじりあい、火花が散った。マレッティも久しぶりの大技に、それ以上の攻めをしない。息をつき、下がって間合いを取る。
「それ……まさか……」
リットラ、驚愕と動揺で言葉が出ない。手が震える。
「まだ身体が覚えていてよかったわあ」
マレッティは会心の笑みだ。
「裏カントル流!! どこでそれを!!」
「あら、知ってるのお?」
「知ってるも何も……見るのは初めてだけど……遣い手がいたなんて……」
リットラは深呼吸をした。
「ちょっとうれしい」
「あ、そう?」
「あんたがどこでそれを身につけたかは知らないけど……」
リットラが構え直す。先程とは異なり、身体の角度が緩い「やや半身」だ。
「……邪道の極み、裏カントル流を殺せるなんて!」
「邪道でけっこうなんだってえの!!」
マレッティ、勝負をかける。力任せに正面から突きかかった。リットラも、先程よりしっかりとした足つきで身体を支えつつ、それを受ける。ギャウッ! 刃と刃が擦れあって、火花が出た。すかさずマレッティの足技。密接してリットラの股の間に足を入れ、膝裏に足かけ払いをかます。通常ならそれでいっぺんに敵はひっくり返るのだが、リットラも裏技は知識では知っている。なんとかこらえた。
さらに、裏カントル流では、試合で禁止されている「卑怯」とされる技を容赦なく繰り出す。こちらは戦場の剣術だ。通常は使わない左手で目潰し!
「チィ!」
それを避けて、のけ反るリットラ。だが、のけ反りながらも「引き突き」で剣を出すのが師範だ。マレッティはあわててそれを避けた。リットラの剣先が、脇腹をかする。体勢を崩したので追撃できず、仕方なく下がって間合いをとった。
(攻めきれなかった……!)
後悔に顔をゆがめる。もう同じ手は通用しまい。正規の師範相手では、やはり純粋な剣技だけでは苦しい。
互いに構え直し、じわじわとリットラが機を伺う。マレッティも、反撃する手を巡らせる。久しぶりに味わう、凍りつくほどの緊張感に、マレッティは痺れた。
「……イェヤ!」
突きかかる瞬間のリットラの足元めがけ、マレッティ、絶妙のタイミングで身を屈め、後ろ回し足払い! だがリットラはそれを予期して、小ジャンプで避ける。
「なめんな!」
マレッティはそのリットラめがけ、低い姿勢からねじり上がって強力な後ろ回し蹴りをお見舞いした。下段から中段への連続回し蹴りだった。それが空中のリットラの横腹へ見事にきまった!
マレッティが無言で横たわるリットラめがけて突きかかる。
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