第256話 アーリー襲撃

 「む……」

 アーリーが立ち止まる。


 うっすらと積雪のある街路灯の炎の光も薄い辻の三方から、待機していたものか、ここまでうまく着けおおせてきたものか、バラバラと不審者がアーリーめがけて現れた。三方がそれぞれ三人、二人、二人であったから、その数、七人。ざっと観て全員女のようであるし、手に手に剣、手槍、ナイフ……あとは確認するまでもない有象無象のガリアを手にしているので、みなガリア遣いだった。盗賊ではあるまい。


 覆面か、仮面か……いや、バーケンか、ファーガスか、はてはレブラッシュか、何にせよいずれかの組織の手の者だろう。


 「メスト」だ!


 三方がふさがり、一方が空いている場合はそこにまず逃げ様子を伺うのが定石だが、攻める方としては空いている所へ誘いこんで、そこへ最も強力な伏兵を忍ばせるのが定石だった。アーリーとしてはあえてその定石に乗るという手もある。


 しかし、眼前の、こんなあからさまな捨て駒相手に背中を見せるのも面白くない。

 アーリー、微動だにせず、暗がりに薄ら笑うのみであった。


 暗殺者たちはさすが暗殺業に慣れているためか、「何を笑っている!?」などと余計な口はきかない。ただ、ガリアも出さずアーリーが佇んでいるのがむしろ不気味なのだった。

 しばし時間が流れ、アーリーと暗殺者たちのの肩や頭上に雪が積もり始めたころ、どこからか鳥の声のような鋭い音がした。それを合図に、三方から暗殺者たちがいっせいに走り寄る!


 突如、オレンジの閃光が辻を照らしつけ、降りしきる雪を蒸発させた。アーリーの手にはガリア……は無かった。なんと、アーリーは巨大な炎の塊だけを、その天に向けた両掌へ出現させたのだ。


 この北方でもアーリーの炎はなんら衰えない。


 アーリーの精神の、魂魄の、赤竜の血の炎だった。また、スターラは工房都市でもあり、街じゅうに金属を精錬加工する灼熱の火が無数にある。その尋常ならざる火気をも吸収して、アーリーは自らの炎とすることができる。炎熱の類の力を持つガリア遣いは数多あまたいれども、アーリーのその力は段違いでぶっちぎりに別次元だ。


 赤々と燃え盛る火の塊を観て、恐怖や違和感を覚えたものは、まだ見込みがある。ガリアも出さずになめられたものだと感じたものは、しょせん三流ということだった。迫る七人のうち、二人が思わず歩をゆるめた。


 「ぬぅああ!!」 


 アーリーの暗がりに開かれた赤い瞳孔が、再び光で細くなる。幾筋かの炎の柱が渦巻いて冷気を吸い、うねり狂って周囲を舐めた。


 「ギァア!」


 まるで油を染みこませた藁人形めいて一瞬で火達磨となり、暗殺者たちのうち、アーリーへ不用意に接近した五人がガリアも何もなくひっくり返ってのたうった。


 「うああああああ!」

 「熱イイィィ!!」

 「ああああつぅいぃいいいィィ!!」


 断末魔も凄まじい。ガリアも無しにこの人数を一撃で焼き尽くすとは、凄まじい『力』だ。怯んでその場にいた二人は、惨劇を顧みることなく、もう、逃げていた。むしろ賢明であると褒められてしかるべきだろう。

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