第209話 リンバ島

 5


 翌朝、晩秋の最後の陽気とも云える暖気に、四人は驚いた。日差しが強く、暑いほどだ。リネットも、不思議そうな顔つきで天を仰ぐ。


 「南風が突然吹きこんでる……何年かに一回は、こういう日があるよ。二、三日は続くと思う。こういう年は、冬は雪が多いのさ」


 とにかく、町へおりる。町の人々も暖かい空気に心も安らぎ、落ち着いたのか、瓦礫より使えるものを探し出し、たき火で湯を沸かして貝などを煮てスープを作っていた。アーリー達を発見すると、無言でそれを差し出す。アーリー達も、無言でそれを受け取って食べた。


 それから、みな無言で瓦礫を片づけ、大量の遺体を集めてはアーリーの起こした火で荼毘に付し、あるいはそのまま丘の上に粛々と埋めて行った。が、なにせ数百人分の遺体をたったの数十人で始末できるはずも無く、あっというまに午後になって、夕刻近くなった。そして、バーレスより大きな漁船が何隻もやってきた。まだ大量の浮遊物で埋まる港内へ、ゆっくりとそれらを避けながら船が次々に入ってきた。コンガルの人達は、不安げな顔でその様子を見守っていた。誰も、何も云わなかった。


 「アーリーさん!」


 大柄、かつ全身が真っ赤のアーリーは目立った。暁のパーキャスの代表であるウベールが真っ先に船からおりてきた。コンガルの惨状には、目もくれない。また、コンガルの人々の顔が一斉に緊張と不安でひきしまった。


 「やりましたね! ついに……」


 他の暁のパーキャスの面々、そしてバーレスの漁師たちがぞろぞろと下りてくる。コンガルの人々の表情は暗く重いが、バーレスの人々の表情は明るかった。アーリーが前に出て、ウベールと握手をし、話をする。


 「遅かったな。彼らに、食料や衣料、医薬品は無いか?」


 「ああ……食い物くらいはありますよ。しかし、連中は、リンバ島へ送ることに決定しました。そのため、多めに船を用意してきました」


 「なに……」

 リンバ島は、たしか罪人が送られる島ではないか?

 「彼らは、罪人なのか?」

 「罪人ですよ」

 ウベールが薄笑いを浮かべ、吐き捨てた。

 「そうか」

 アーリーはそれ以上、何も云わなかった。これはパーキャスの人々の問題だ。


 小突かれ、黙々とコンガルの生き残りの人々が分けられ、船に乗せられるために並ばされる。これからまっすぐ、リンバ島へ送られる。


 「コンガルは、この冬はこのままにして、来年の春から元コンガル出身者を募って、移住させ、やり直しますよ。新しいコンガルが、始まります」


 まだまだ残っている遺体はどうするのだろう。カンナは、眉をひそめてウベールを見た。

 「ウベールさん、やりましたね、奥さんと子供さんの仇を!」

 若い漁師見習いが、ウベールへそう云い、ウベールも涙ぐんで後輩と抱き合った。

 近くを通ったコンガルの漁師が、あからさまに失笑する。

 「何がおかしいんだ、こいつ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る