第194話 ニエッタ渾身

 「なあめんなあ!」


 マレッティ、空中で身を捻じりながら、回転の鈍る光輪を剣から出現させ、そのまま尾へ叩きつけた。尾の先端が、毒針ごと切断される!


 「ギァア!!」


 ギロアがのけ反って悲鳴を上げた。後ろへ着地したマレッティへ怒りの眼をむける。


 ここぞとパジャーラ、ガリアを細長い刺し網の形にして、ギロアの長い脚へ飛ばした。おもりからまきついて、長く細い両の脛へからみついた。パジャーラが一気に絞ったものだから、ギロアが足元をすくわれ、横倒しになった。


 「でかしたわあ!!」


 思わず叫んだマレッティ、いまが機会と、背中の巨大な光輪を飛ばしつける。やはりギロアの間合いに入ると速度が落ち、まるで空中へ止まって見える。


 ギロア、その巨大光輪を横倒しのまま半身を起こし、両手で掴んで防いだ。大きいからなのか、一撃で砕けず、力を入れビシビシと砕いてゆく。


 チィ! 舌を打って、両手を上へ掲げ、投げつけたものと同じ大きさの巨大後輪をずらりと出現させると、それらを重ね合わせ、ひときわ厚くて、一斉に回転する恐るべき物体をマレッティは投げつけた。


 重なり合った光輪がそれぞれ回転し、不気味な摩擦音をたててギロアへ迫る! 

 「ぬぅあああ!!」


 ギロアが血走った赤い眼をむき、一気に手にしていた光輪を砕いてしまうと、無理に起き上がろうとしてパジャーラの網を引きちぎって、片膝を付き、その重連環光輪じゅうれんかんこうりんを両手で叩きつけるように掴んだ。ギロアがガリア封じの力を振り絞り、動きを少しでも弱めつつ、再び両手へ満身の力をこめて止める。バシッ、と光輪にヒビが入るも、さすがに一筋縄ではゆかない。牙を食いしばり、渾身懸命の力を入れる。


 「今だ! いまだっつうの!!」

 マレッティが眼をむいて、ニエッタにそう叫んだ。


 ニエッタ、もう涙と鼻水を垂れ流したまま、本当に大きな石英の塊を拾うと両手で抱え上げ、遮二無二ギロアの頭に叩きつける。


 ガッ、とギロアの首が揺れた。


 角は折れない。ギロアの怒り狂った眼がニエッタをとらえた。手を離すと光輪にやられるため、ギロアはただ睨むだけだった。


 「……う、うあ、うっ、うわあああああ!」


 ニエッタは、眼をつむってひたすらギロアの頭へ石英を打ちつけた。何度も。何度も! 血が飛び散り、ギロアの顔面が真っ赤に染まる。最後にニエッタ、雄叫びと共に渾身の力で打ちつけ、ついにその側頭部から伸びる角の片方が中程よりぼっきりと折れ、同時に石英の塊が割れた。


 その、瞬間。


 半分砕けていた連環大光輪が、元の回転を取り戻す。掴んでいたギロアの両手が、いや、指が、全て切断されて散らばり、さらに肩口もばっさりと切られて血を吹き出した。


 のけ反ってギロアが倒れたので、光輪は再びばらけながらそのまま飛んでニエッタをかすめ、結晶の壁へぶつかって反射し、ばらばらにあらぬ方向へ行って消えた。ニエッタは腰が抜け、へたりこんだ。

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