第71話 軍議の結果
「かゆいところは、あ、り、ま、すか……? 冗談です。軍議はもうすぐ終わるでしょう。しかし、結果は惨憺たるものです。くわしくはアーリーどのが話すでしょうが……サラティスのバスクは真っ二つに割れますぞ。カルマは孤軍奮闘、遊撃部隊として独立して戦うことになります。デリナの竜軍団は、もう明後日には都市に到達するでしょう。カンナどの、どうか死なないでください」
そう、云いつつ、髪を湯で濯いだ後、同じく石鹸を海綿につけて泡立て、素手のままやさしく背中から胸、さらには腹から下腹部までマッサージするように手早くその手を動かした。
「いや、だから……ちょっと、ま、前はいいですから、話の続きを……」
「そ、う、で、し、た……カンナどの。戦いの最中でたいへんでしょうが、フレイラどのと、事務長をよく観ていて下さい。よく見張っているだけでけっこうです。カンナどのに何かすれとは申しません」
「フレイラさんと……事務長さんを?」
まさか、その二人のどちらかが竜とつながっているというのか!?
カンナは思わず振り返った。目の前に、マラカの日に灼けた顔があった。また口を舐められるかと思い、あわてて前を向く。
マラカは名残惜しそうにカンナのうなじへ小鼻をつけ、すんと一呼吸、匂いをかいだ。
「カンナどのの匂いは好きです……では、また。死なないでください」
気配が消えたと思ったら、もうマラカはどこにもいなかった。いつもいる下女たちも、一人もいない。カンナは自分で湯を身体へかけて石鹸を流すと、不思議な気持ちでそのまま風呂に入った。竜が攻めてきたら、次はいつ入れるのか想像もつかない。いや、マラカの口ぶりから察するに、そうとう厳しい戦いになるようだ。まったく実感がわかないが、本当に死ぬかもしれない。
束の間の、湯の快楽だった。
翌日、やや疲れたようにも見えるアーリーが戻ってきて、三人へ報告をした。マラカの云った通り、その内容は衝撃的だった。
「我々はまず、このサラティスに何人のバスクとセチュがいるのか調査、確認するところから始まった」
つまり、決戦を数日後に控え、味方戦力の把握もできていなかったのである。
「結果、カルマ四、コーヴ二十八、モクスル百五十四、セチュが三百八十九、合計は五百七十五」
マレッティの「それだけえ!?」と、フレイラの「けっこういるっすね!」が、同時に響いた。マレッティが呆れてフレイラを丸い眼で見る。フレイラは両手を頭の後ろで組み、安心したようにホッと息をついた。
「思ったより残ってたっすね。それだけいりゃあ、全員が死に物狂いで戦えば、竜どもの四、五十は倒せるっすよ。そうしたら、向こうも指揮官がいるようだし、戦力半減で撤退するっす。戦力半減なんて、大昔の人間の戦争じゃ、全滅に等しいですからね」
「全員が死に物狂いで戦ったら、世話あないでしょお!」
「え?」
フレイラが、さも何を云ってるんだという顔つきでマレッティを見た。マレッティが眉を寄せ、頭痛のように額に手を当てた。じっさい、頭痛がしていた。
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