第58話 猿竜

 「こういうとき、竜を探すガリアを遣うセチュがいれば楽なんだ。セチュってのは、武器だけじゃないガリア遣いも多いからな」


 カンナは、昨夜のバグルスの、細面で不適な面構えを思い出した。

 「ねえ、アート……罠じゃない……? バグルスに誘われてるのかも」

 アートは立ち止まった。

 「俺は……さっきまでバグルスと戦ったことなんか無かったから、分からないね」

 カンナは余計なことを云ったかも、と思って顔をしかめた。

 「あんたはあるのか?」

 正直に云うしかない。


 「ええ……ある。あるの。話もできるし、何かを考えて戦ってる。あいつら」

 「ふうん」

 アートは心なしか、にやついているように見えた。無精髭をさすりながら、

 「罠な……。そうかもな……」

 うすうす、アートも感づいていたようだ。

 だが、少し遅かった。


 不思議な鳥の声だと思っていた鳴き声が、頭上を旋回しながら幾重にも重なって近づいてくる。見上げると、初めて見る生き物が枝を伝って三人を包囲しつつあった。


 「なに、あれ!?」


 カンナが無意識に雷紋黒曜共鳴剣らいもんこくようきょうめいけんを出す。剣をだそうとも思わず、自然に出た。竜へ集中する。アートも完防彩白銀手甲かんぼうさいはくぎんてっこうを両手に出した。


 「竜……なのか!? 見たことないぞ、あんなのはよ!」


 人を小さくしたような、子供ほどの大きさの、顔だけが竜の生き物だった。長い手と尾を器用に使って、枝から枝へ渡っている。甲高い、不思議な声を張り上げていた。


 「あれが噂に聞く『サル』ってやつじゃないか!?」

 「サル!?」


 「今はもう竜どもの支配下にある土地に棲む獣だ! ああいう、人の形をしたな。そいつに似た竜がいるというのは、聴いている! あの爪を見ろよ……来るぞ!!」


 アートがガツンと手甲を合わせた。猿竜どもの動きがまた速い。何匹いるか分からないが、五匹はいそうだ。包囲を狭め、木の上から一気に飛びかかってきた。


 「なんの!」


 障壁が顕れる。猿竜たちは虹色の楯に弾かれて地面を転がり、素早く移動して再び木へ戻った。そして何度も重力を利用した突撃を繰り返してくる。


 「クィーカ、下がってて!」

 カンナが黒剣を構えた。しかし猿竜どもの動きについてゆけない。狙いが定まらない。


 そのうち、上ばかりに気を取られている三人めがけ、草をかき分けて地面から一匹が跳びかかった。的確にクィーカを狙っている。


 バッシ、と音がして、クィーカをアートの障壁が護る。そのまま、虹色の光の楯は折り畳まれ、箱のようになってクィーカを完全に囲った。


 さらに、カンナの前にも障壁が出現する。アートのところにも二枚、顕れている。

 アートは、最大で四枚の障壁を操ることができる。

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