コマーシャルの記憶(三)美しい人の面影
私は化粧品に凝る方ではないし、そもそも容姿に対するコンプレックスが強くて鏡を一定以上の時間眺めたり自分の映った写真を見たりするのも苦痛な質である。
しかし、というより、だからこそ、綺麗な女優さんやモデルさんが出てくる化粧品の広告は子供の頃から好きだ。
美しい人がその美を洗練された形で際立たせた映像を目にすると、
「私はこの人みたいに綺麗じゃない」
と劣等感を覚える一方で、気持ちの別な所が華やぐのだ。
子供の頃、「きりりの夏肌」というキャッチコピーで黒髪セミロングに円らな大きな瞳、白いレース襟の際立つ長い頸をした、素晴らしく美しい女性が青葉のさざめく背景で微笑むポスターをデパートの化粧品売り場で目にした。
「何て綺麗な人だろう」
美女麗人揃いの化粧品広告の中でもそのポスターは一際清冽な輝きを放っているように見えた。
それからは母について買い物に行く度に化粧品売り場の「きりりの夏肌」ポスターを観に行くようになった。
涼しい風の吹く季節に変わり、オレンジやベージュが基調の化粧品広告ポスターばかりになると、
「あの綺麗な人のポスターはもうない」
とおとぎ話の「絵姿女房」に出てくる夫のような寂しい気持ちになった。
そのモデルは江黒真理(後に『江黒真理衣』と改名)というアメリカ育ちの女優さんで、日本語が不得手だったせいであまり演技で目立った活躍は出来なかった。
しかし、今でもお名前でGoogle検索すると、彼女の気品ある美しさを記憶している人は少なくない。
私は大人になった今でも化粧品売り場を通り掛かると、綺麗な女性の映る広告のポスターに見入ってしまう。
「このモデルさんは一般には江黒真理さんと同じくらい美人だな」
「人によっては江黒真理さんより美人だと評価するかもしれない」
と感じる人もいなくはない。
だが、少女時代、「きりりの夏肌」ポスターから感じたほどの鮮やかな衝撃を受けたことは未だない。
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