第7話
「ミカロ、少し下がっていてください。ここは戦いで場を治めましょう」
「ちょっと待ってよシオ......」
彼女の言葉を聞くまでもなく桃赤髪の女性は僕の元へと斬りかかる。体を前かがみにしてガードした。
けれどなんだこの右手がしびれ始めたような感触は。普通の女性と思って戦えばただでは済まなそうだ。
僕はミカロをベッドに押し掃い窓を突き破り外に飛び出す。桃赤髪の彼女も迷うことなく僕を追い剣を突き立てる。
痛い。いや、じんと来ると言った方が正しいだろう。今まで感じたことのない感覚。これは力負けなのか?
僕はミカロが礼儀正しく扉から出てきたのを確認し、桃赤髪の彼女が反撃できないほど高速に乱雑に攻撃を行う。けれど彼女は焦りを見せることもなく、ただ僕の目を見て力を剣から逃がしていく。
「シオン! 私も」
「ミカロはそのままでいてください!」
「う、うん......」
別にこれはクエストでも敵対勢力との争いでもない。ただ試したいんだ。自分の実力がどこまでの位に至っているのか。そして彼女がセレサリアさんにとってどういう存在であるのかを。
「女性を守ろうとカッコつけるのは大いに構いませんが、私が蔑まされているような気がします。不愉快です」
彼女は変現しているはずだ。けれどまさかパジャマに剣の組み合わせの星があるとは思えない。いや、思いたくない。なぜか彼女は星を使っていない。そんな予感が僕の頭をめぐる。
「
光が僕の視界を包み彼女が姿を消す。僕は耳を傾けることに全てを注ぎ彼女の攻撃を真正面に受けきった。
けれどその瞬間彼女の眉間に力が入った。……まずい、さすがに怒らせてしまったか。
と思った矢先、彼女は僕から距離を取り剣を消した。なんだまさか銃とかが出てくるのか?
けれどそんなことはなく、彼女は僕に見えるように片手を挙げた。停戦のポーズだ。
「もう少し戦っておきたいというところですが、先に要件を済ませましょう」
「よ、要件?」
「ええ。我が殿下、セレサリアさまよりあなたの指示を一つだけ受けるよう承っております。とはいえカッコいいところを見せようとする者の下に付くのはあまりに不本意ですが、殿下の仰せとあらば致仕方ありません」
僕の頭は真っ白だ。彼女の言いたいことはわかる。要するに僕が気に入らないけれど、手伝ってあげようということだ。
けれど、僕はどちらかというよりも今は素直に彼女と戦いたかった。初対面ではあるけれど僕は自分の実力を把握しておきたいんだ。きっとクエスターの中では実力と想像がかけ離れている人物ナンバーワンに違いない。
だからこそ今は記憶のことを忘れ、戦いたかったハズなんだけどなぁ......
ミカロは僕が鉾星を解除したことに気が付くと、髪をとかすの止め手摺から飛び降り僕たちの元に駆け寄る。
まぁ待っていてとは言ったけれど、くつろいでいてとは言わなかった。まぁやることがなかったのだから仕方ないか。
まぁ彼女が髪を降ろしている姿を見ることができたから、とりあえずよしとしよう。
僕はまるで茶番のような戦いをしつつも彼女の実力を考察した。今までにない受けたダメージの感覚。さっきのはいったい......
「リラ、久しぶりー!
元気だった?」
「ええ。健康面では問題ありません。ミカロも変わらず何よりです」
また僕の頭は真っ白だ。2人は知り合い、なのか?
彼女たちの昔あった話を聞く限りどうやらそうみたいだ。……今日はつくづく僕の願望は消されてしまうみたいだ。はぁ。もう帰りたい。なぜかそんな自虐的な言葉が僕の頭に浮かんでしまう。
ミカロのおかげで赤髪の彼女は期限を直してくれたようで、彼女は服装を変えて話をすることにした。
全て鋼色の鎧。なんだかギャップがあるなぁ。まだパジャマの方が良かったかもしれない。
うっすら緑色の不思議なお茶を飲み、テーブルで腰掛けているとミカロは彼女との話を止め彼女に手を向けた。
「彼女はリラーシア・ペントナー......なー、ナンダッケ?」
「ペントナーゼです。ミカロはそこを直さないと、勝手に敵を作ってしまうかもしれませんね」
「そうそうそうだった! ペントナーゼねペントナーゼ! もちろんわかってたわよ! 同期だし!」
彼女の名前はリラーシア・ペントナーゼというのか。僕が冗談混じりにペントナンダッケ、と言えばきっと剣が飛んでくるだろう。まぁ初対面の人にそんな冗談は言わないけど。
「私は素直な言動を言う人物を好む派なのですが、まぁいいでしょう」
「忘れてた、ゴメン......」
――衝撃。彼女が成り行きとはいえ謝った。やっぱり彼女と同期なだけある。彼女のことはなんでもお見通しと言ったところだろうか。彼女にいろいろ相談しよう。何が好きなのか、どんなものが欲しいのかなどなど。……冷たい一言を言われるかもしれないけれど、まぁ気にしないでおこう。
「ミカロとリラーシアさんは幼馴染、だったりするんですか?」
「ううん、違うよ! 正星議院のメンバーに加入したのがたまたま一緒だったってだけ。
講習を受けるときも身体能力測定のときも2人っきりだったから、話をするのにはちょうどいい環境だったかな」
なるほど、そういうことか。それなら仲が良いのもわかる。ミカロは冷たい一言を結構促せそうだし、リラーシアさんはそんな彼女に嫌でも親近感を持ってしまう。ある意味ではとってもいい仲、というところだろうか。
いや、彼女たちのどちらも友達であることを否定しようとはしない。2人は職種が違えど、友人であることに変わりない。
それにしてもクエスターになると身体能力測定とかいろいろと面倒......いや、大切な通過儀礼みたいなものがあるのか。まぁ僕は当然のごとく、覚えてはいないのだけれど......
ん! ごほごほっ! 思わずお茶を変なところに飲み込んでしまった。落ち着こう。
「さてと、それで要件は何でしょうか?」
「セレサリアさんが、僕のために記憶の手がかりになる書類を作ってくれたと思うんですけど、彼の部屋にそれがあるみたいなんです。そこで、お忙しい彼の代わりにリラーシアさんに頼るよう言われまして......」
「……気に入りませんね」
僕は彼女のまっすぐで身の凍るような視線に思わず木のテーブルを下から蹴ってしまった。ティーカップの揺れる音がする。2人が僕たちを睨む。僕は3度頭を下げる。
「その......何がですか?」
「……」
「お、教えてくれない、リラ? シオンはその、記憶を失ってるからときどき失礼なことするかもしれないけど、本人に悪気はないわけだし......」
……彼女と僕には差がある。彼女の考えに僕が沿えていないわけだ。それを彼女は異変として捉えている。
何が違う? ……もしかすると、アレかな?
「すみませんリラーシアさん。頼み方に謝りがありましたね。お願いします、僕の記憶を探すために必要な資料を取ってきていただけないでしょうか」
僕は膝に手をつき、テーブルに顔を合わせ彼女に詫びた。おそらく彼女は僕の言葉を聞いて、誰でもよいけれどとりあえずミカロと仲のいいリラーシアさんにお願いしよう。そう考えたと思われても仕方ない。僕にとってはそれが一般的だからだ。大切なのは資料であって人じゃない。僕にはクエスターとして人思いやる考えが足りない。それを嫌でも考えさせられた。
リラーシアさんのカップを置いた音が空間を包む。
「……いいでしょう。あなたが考えを改めたことに免じ、このたびは許しを与えることにします。それでは参りましょうか」
リラーシアさんが中指と親指を弾くと、目の前が白く光り輝き僕たちは慣れ親しみ始めている正星議院のロビーへとやってきていた。
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