虚-ないがしろ-

璃央奈 瑠璃

第1章 暗い日曜日

虚(ないがしろ)


 無。

 圧倒的なまでになにもない世界がそこにはあった。

 そこにたたずむ一人の少年。

 少年は理解している。自分がなにものであるかを……

 そして理解していない。なぜこんな状況になっているのかも。

 そんなことより重要なことがその少年にはあった。ここには何もない、ということは誰もいない。当然だ。そんなところに一人でいる。もう言わなくても分かるだろう。

 暇なのだ!暇すぎる!

 少年の力は、あらゆる無から万物を創造する神の力。

少年はどんな世界を作ろうかと想像する。

「そうだなぁ。まず命の溢れた世界を作ろう。けどそれだけじゃ足りない」

 少年は頭をわしゃわしゃと抱えて考える。

「感情だ!感情を持った生き物を作ろう。ついでに圧倒的な力、思考力というものもセットで作ってみよう。」

 これはよい閃きだと溢れんばかりの笑顔でくるくる回っている。

「あぁ。思考力を持ち感情を有しその間で揺れる心!それを上から眺め見る。最高だ!」

ここから始まる神々の遊び。

「思考と感情に揺さぶられ滑稽なことをしてくれるであろうものを人類と名付けてゲームの始まりだ」

 さて作ろうか。新しい世界を……。


ground view


 こんなことなんてことない。

 大丈夫。

 俺は大丈夫。

 そう言い聞かせてきた。

 そしてこれからも言い聞かせるんだ……。


 何度となく覚醒を繰り返した。そろそろ起きる時間だ。

 今日も学校に向かわねばならない。

 変化のない日常。

 ベッドから体を起こす。体が重いような気がする。いつものことだからよくわからなくなってきた。体が軽かった頃の感覚などまったく思い出せないぐらいにはこの重さになれてしまった。

 朝刊をとる。いつも通り流し読み。本当に流し読みだ。頭になどまったく入ってこない。ただ習慣となっているから続けているだけだ。

ノロノロと着替えて学校へ行く用意をする。制服に身を通すのにはもう慣れた。前は何回も着替えるのをやめてはまた着始めての繰り返しで時間がかかったが慣れというのは恐ろしいものだ。結局学校へ行くのをやめて1日寝そべっていても後悔で死にたくなるだけなのだから最初から学校へ行った方が気が楽だとは最近気がついた。まあ本当に行くだけなのだが……。

 季節は冬らしい。朝刊の天気予報には真冬の冷え込みに注意と書いてあったからそうなのだろう。寒いとは感じるのだがまあどうでもいいと感じてしまう辺り、人より感覚が鈍っているらしい。一応マフラーを巻いてコートを着て家を出る。

 特に代わり映えのしない通学路。なるほど木の葉も枯れていて改めて今が冬なのだと感じる。道の端では枯れた葉が風に吹かれかさかさと音をならしている。

 そんな風景を眺めつつ少し大きな通りに出ると、おそらく同じ学校の生徒だろう何人かが大きな声で笑いあいながら歩いている。その後ろを目立たないように歩く。道の角で前の団体は左へ曲がっていく。その反対の右へ進む。なんとなくほっとするような気がして、でもなぜほっとしたのかわからない。

 学校に着いた。昇降口に同じような人間が吸い込まれていく。自分もその一部であることにひどく安心して同じように吸い込まれていった。

 教室に入る前にトイレに行く。この時間のトイレは人がいなくてとても静かで、でも遠くから笑い声が聞こえてきてまるで世界から隔絶されたような気になる。

 そこでいつもの習慣。鏡の前に立つ。じっと自分の顔を眺める。笑顔の練習。口角をあげて軽く微笑む。ばかにしてるように映らないよう、それでいてわざとらしくないように細心の注意を払う。笑顔がうまく作れるようになったら教室に向かう。

 がらっとドアを開ける。まだ時間に余裕があるので特別に反応してくる様子はない。

誰かが挨拶をしてくる。それに「おはよー」と返す。笑顔を忘れずに。

 席に着いてコートを脱いでマフラーをとる。コートは椅子にかけてマフラーは鞄の中へ。 朝のホームルームが始まるまであと10分。教室には続々と人が入ってくる。

「おはよう。今朝は冷え込むわね」

 前の席の女が話しかけてきた。席が近くなってからはいつものことだ。

 自分で言うのもなんだが友達は少ない方だ。 学校で話すのは二人。今話しかけてきた女と隣の席の男の二人だけだ。

 ちなみに隣の席の男は朝に時間通りに来る方が珍しい。今日もおそらく遅刻だろう。

いつも話しかけてきてくれる女は、こういう言い方は好きではないが、このクラスの人気者だ。まずおそらく見た目がいいんだろう。整った顔立ち、特にぱっちりと開いた瞳は見る者の心を奪い、つやつやとした腰までのびた黒髪はため息がでるほど美しい。背はすらりと高く制服越しでもわかるほどスタイルはいい。本当に同じ人間なのか分からないほどだ。とは全て隣の席の男が言っていたことだが……。

「今日は寒いね。特に木が枯れてるのを見ると余計寒く感じるよ」

 当たり障りのないことを返す。

 最初は話しかけてくることに緊張したが今はそれほど緊張しなくなった。

「あなたって私に話しかけてこないわよね。みんな話しかけてくるのに。しかも会話を続けようともしないし。私ってそんなに魅力ないかしら?」

 そういいながら小首をかしげる姿は確かに同じ人間とは思えぬほど美しい。

「魅力うんぬんじゃなくて、単に話すのが苦手なだけだよ。コミュ障ってやつかな」

ここはとぼけ顔をしておく。

「わざとらしい感じね」

「普通だよ。いたって普通さ」

 わざとらしく手を広げてそう続ける。わざとらしいと言われればよりわざとらしくする。 そうやって切り抜けるのだ。

 チャイムが鳴った。周りで騒いでいた奴らもせかせかと席に戻っていく。目の前に座るお姫様も前を向いた。

 周りの視線は自然と教室の入り口に向けられる。この瞬間が好きだ。誰にも見られていない、と安心できる。

 やや遅れて先生が教室に入ってきた。教壇に立つと、ぐるっと教室を見渡す。いつも通り空いている席を見つけてため息をはいた。

「えー。おはよう。そろそろテストが近いので真面目に授業を受けるように」

 そう言って、手元を見る。おそらく朝の会議のメモを確認してるんだろう。連絡ミスがないことを確認したのか、一度うなずく。

「では、今日も1日元気に過ごすように」

 そのまま教室を出ていく。時間にしてわずか3分ほどの出来事だ。相変わらずざっくりした先生だ。

「ねえ。あの人間ってざっくりすぎない?」

くるっと振り返るとそう言ってきた。

「いやいや。あの人間って……。その分け方がざっくりすぎるよ」

 ここは特に表情を作る必要はない。普通に話しかけられた内容に反応する。

「私にとっては人間かそうじゃないかだけでしか分からないわ」

 真面目な顔でそうのたまった。

「なんだこの女。頭おかしいのか」

「ちょっと。口に出てるわよ」

 わざと口に出したら反応してくれる。これぐらいの軽口は言い合えるレベルだと思ったが正解だった。

「つい本音が出ちゃったよ。ごめんごめん」

「全然謝ってないんだけど?」

 睨み付けてくる。これ以上はだめだ。

「ごめんごめん。冗談が過ぎたね。話を戻すけど人間かそうじゃないかしか判断できないなら人間の区別はつくの?」

 ここは話を変えて落ち着ける。さも興味のある顔をしておく。

「まあ微妙なところね」

 とぼけた顔をしてそんなことを言った。

「じゃあこうやって話してても区別がついていないわけだ」

「そんなことないわよ。全部、区別がつかない訳じゃないわ。少なくともあなたは区別できてるわよ」

 さながら天使の慈愛を体現してるような顔をしている。言ってる内容はなかなかエグいが……。

「そりゃどうも」

はあ、疲れるわ……。


独白


 あなたは神を信じるだろうか。

 確信を持って言えるが神は存在すると思う。

 単細胞生物が進化を繰り返しここまで複雑な生き物になったということを信じる方が難しいだろ、と思う。

 ただ勘違いしないでほしい。神は存在すると思っているが、じゃあ神は人間になにかしてくれると思っているかというとそんなことはない。

 神はただの傍観者だ。救いがあるわけでも奇跡を起こすわけでも天罰を下すわけでもない。ただ眺める。それだけだ。

 もし神が人間を作ったのだとしたらよほど悪趣味で、さぞ暇を持て余したのだろう。

 何十億にも膨らんだ人間を見て、未だに無益な争いを続ける人間を見て神は退屈していないだろうか。

 もっと小さいところに焦点を当てて、ひとりではなにもできない人間を見て、ひとりでぐずぐずと腐っている人間を見て神は退屈してないだろうか。

 神様がこの世界に飽きたときどうなるのだろうか。意外とそのまま続いていくのだろうか。次の瞬間には全てが無くなっているのだろうか。

 まさに答えは神のみぞ知るというところだ。


another view


 どうやらこの世界は神が作ったらしい。なぜ分かるのかと聞かれても知ってるからだとしか答えられない。そう知っているのだ。神が退屈しのぎに作った適当な世界だと。

 神が作ったこの世界。終わらせる役目は私にあるらしい。なぜ私なのだろう、わからない。

 この力に気がついたのはつい最近だった。特にきっかけがあったわけじゃない。いつも通り生活していたらふと目が覚めたように頭のなかにあった。

 それからいまいち認識できなかった人間の区別がさらに難しくなり、他人が有象無象に成り下がった。

 悲しいとは思わない。だが孤独は感じる。神様というのはこんなにも孤独なのかと思うとこの世界を作った意味がなんとなく分かる気がした。

 今のところこの世界を終わらせるつもりはない。有象無象がごちゃごちゃした世界だが、その有象無象もなにか思うところがあって行動しているらしいことは見ていれば分かる。

普通、神様の力と言えばなんでもできるとかなんでも知ってるとかそういうのだと思うのだが私にある力は終わらせることのみだ。しかも一度使えばそのあとはどうなるのかも分からない。

 分からないついでに気になることがある。後ろの席の男。いつも背中を丸めて歩き、他人の視線にびくびくしている。リアクションをいちいち考えて他人の思考を誘導しようとしている。本人は気づかれてないと思っているようだが、私には分かる。

 しかし私には分からない。なにをそんなに気にしているのか。有象無象の視線など、意見など、行動など気にするだけ無駄だと思う。

彼にはこの世界はどう映っているのだろう。 私とはまったく違う世界を見ている気がして、それに無性に興味が湧く。もしかしたらこの孤独を埋めてくれるのではないかと期待して……。


over view


 なかなか楽しいかった。最初に作った人間は二人。雌雄一対だ。それが今では何十億にも数が膨らんだ。

 そして争っている。食べ物を求めて争い、自分達の平和を求めて争い、文明を維持するために争っている。

 だがそれだけだ。長い間、人間は争うことしかしない。

 だが、もっと面白いものを見つけた。最初の目的。感情を与えた意味。論理的な思考ができるようにした意味。その全てを体現している男がいる。


ground view2


 昼休みになった。退屈な授業を左から右に聞き流して窓の外を眺めているだけだった。まったく頭に入ってこないのだから仕方ない。

隣の席の男が登校してきたのが見えた。食欲もないのでただボーッと外を眺めているとがやがやと教室の入り口が騒がしくなってきた。明るく挨拶を交わしながらこちらへやってくる。

「おう。いい朝だな」

 遅刻した分際で堂々としてるものだ。

「朝はもう終わってる。今は昼だぞ」

 へらへら笑ってる顔に言ってやった。

 こいつには多少言葉がきつくなっても問題ない。

「んじゃ昼飯食いますかね。お前はもう食べたん?」

 そう言ってどかっと自分の椅子に座る。かばんから弁当箱を出しておもむろに食べ始めた。

「腹へってないから食べない」

 目の前で実にうまそうに食べる奴だ。

「まあ腹減ったらちゃんと食えよ」

「お前は俺の母親か」

 ここで愛想笑いを浮かべておく。

「ていうか来て早々に飯かよ。いつもなにしてんだ?」

 少し話を広げてみよう。

「特になんもしてねえ。寝て起きたら学校来る感じだ」

 またなんとも反応に困る返しだな。まあ顔には出さない。

すっと席を立つ。

「おっ?どこ行くんだ?」

「話すか食うかどっちかにしろ。ちょっとトイレだよ」

 もちろん嘘だ。この時間のトイレは人が多くて好きじゃない。

 そのまま教室を出る。向かう先は決めてない。

 どうしてここまで人と話すことが苦手なのだろう。周りの奴らは特に考えることなく反射的に話しているように見える。それができない。反射的に出た一言を、ふと外した視線を、さりげない仕草をどんな風に受け取られるのかを考えると怖くて仕方がない。理由は考えても出てこない。きっとこの先もずっと今のように振る舞っていくのだろう。それが悲しいようなことの気がしてポケットに手を突っ込んだ。

 適当にブラブラ歩いているといろんな景色が見られる。校庭で遊んでいる人、中庭のベンチでベタベタくっついているカップル、廊下に座り込んで大きな声で話している固まり。そのどれもが身の丈に合わない気がして目を逸らしてしまう。

 孤独を感じるのは誰かが悪いわけではない。自らそうしているのだ。だからと言って決してひとりでいるのが好きなわけではない。話しかけてくれると嬉しい。ただ、話しかけてくれたという好意を害さないよう気をつけてしまうだけだ。きっと疲れる生き方なのだろう。万人に理解されるとは思っていない。されたいとも思っていない。なんともめんどくさい人間だ。自覚はあるのだ。反省も後悔もないが……。


 チャイムの音が聞こえてきた。たぶん予鈴だろう。やくたいもないことを考えながら歩いていたら、校舎に併設されてる体育館の裏まで来てしまった。通りでチャイムが遠くに感じるわけだ。体育館の中でバスケをしていた連中も教室に戻り始めている。その流れにそって校舎に戻っていく。

 そっと自分の席に腰をおろす。隣では弁当を食べ終わって眠くなったのか、机に突っ伏して寝息をたてているバカがいる。どうせ昼まで寝てたくせによく寝るやつだ。

「いつもお昼はどこへ行っているのかしら?」

 前の席の女が振り向き様に話しかけてきた。

「普通に散歩がてらぷらぷらしてるだけさ。特に何もしてないよ」

ここは特に考えることなく反応できた。

「こんな学校に見るところなんてあるの?」

「何かを見てるわけでもないんだよなぁ。ただぼーっと歩いているだけさ」

 頭の中ではなんでこの女は話しかけてくるのだろう、とかを考えていたらスムーズに言葉が出た。

「今日はお昼から雪が降るそうよ」

会話に困ると天気の話題を出すとは誰の言葉だっただろう。

「雪か……。帰るのが面倒になるね」

「あなたはいつもめんどうそうにしてるわよ」

「まじか……。よく見てるな」

そんなに態度に出てただろうか、考えながら返答する。

「雪っていいわよね。なんか空気が澄んだような気がするわ」

「人間の区別はつかないけど、そんなところ気にするんだな」

「あら失礼ね。雪はキレイじゃない?」

少しムッとしたような様子で返してくる。

「悪かったよ」

一応謝っておく。

それで満足したのか前を向き、授業の準備を始めた。

 それにならい鞄から教科書を出す。

退屈な授業が始まった。教師も特段やる気があるわけでもないのか、生徒に質問を当てることなく淡々と進めていく。

窓から外を眺めていると小鳥が校庭をぴょんぴょんと飛び回っているのが目に入ってきた。

せっかく立派な翼があるのだからもっと自由に空を飛び回ればいいのに……。


 信じる者は救われる、というがいったい何を信じたら救われるのだろう。神なのか?人なのか?信じたら救ってくれるような人間味溢れた神というのは少し笑える気がする。

昔、とある哲学者が「神は死んだ」と言ったそうだ。神の名を唱い金儲けに走った教会を揶揄しての発言らしい。うろ覚えだ。だが「神は死んだ」という言葉は少し気持ちがいい。この世界に救いなどなく、信じる者も救われない、そんな世の中を一言で表している。

 繰り返しになるが、神は存在すると思っている。人間に興味などなく、世界を支えているわけでもなく、ただ眺めている、そんな存在はあると思う。それをただ神と表現しているだけなのだ。


帰宅のためにコートを着る。特に誰かに話しかけられることもなく昇降口へ来た。靴を盗まれていることもない。いじめられているわけではないのだ。

殺風景な、来た道と同じ道を歩く。同じく帰宅の途にいる生徒が喋りながら歩いている。その影に隠れるように、目立たないようにする。木枯らしはまだ吹いているようだ……


そして僕は自殺した。


another view2


世界が揺れた。誰かがすごく大きな力を行使したのが分かる。

実際どんな力を行使したのかは分からないが同じく大きな力を持つものとしてその揺れは観測できた。しかしここまでの揺れはかなり大きな力を行使しないと生まれないレベルだ。

胸騒ぎがする。この直感を信じて力の発生地点まで行ってみようと思った。もしかしたら自分の中の訳のわからない力のヒントになるかもしれない。


発生地点は意外と近かった。なんでもない普通のアパート。外からではよく分からない。感覚を研ぎ澄ませる。

どうやら二階の一室らしい。慎重に階段を上る。一番手前の部屋から力を感じた。ノックをしてみる。

返事はない。

ドアノブに手をかける。すっと回すとどうやら鍵は開いているらしくなんの抵抗もなくドアが空いた。訳のわからない力がよりいっそう流れてくる。

「すいませーん。だれかいませんかー?」

返事はない。

不法侵入だと分かっていても止められなかった。

一歩ずつ進んでいく。


そこには首を吊った死体があった。触らずとも分かった。もう死んでいる。

よく顔を見ると学校で後ろの席に座っている男だった。

「こんな状況でも取り乱したり大声あげたりもしないんだな」

にやけ面の男がまったく気配もなく背後から現れた。

「あなた……何者?」

「さあね。神様とでも名乗っておこうか

へらへらした顔のままそんなことを言う。

確かに神と言われれば納得してしまう。存在感が圧倒的に違いすぎる。

「まあそんなことを言ったら君も神なんだけどね」

自称神様は私に興味がないのか、死体のある方へ近づいていく。

「あーあ死んじゃったよ。せっかく楽しんでたのに……」

縄を外し体を抱えるとベッドに横たわらせる。

右手を死体の頭にかざした。

瞬間、目を焼くほどの目映い光が手から放たれる。さきほどの力とは桁が違うほどの力を感じる。


imaginary view


真っ暗な闇だった。

温度もなく風もなく色もない。

たたずんでいると1人の男が現れた。

いつも隣でにやけ面をしているやつだ。

「なんで死んだんだい?」

やっぱりにやけ面で聞いてくる。

「さあな。なにか考えがあったわけじゃないさ」

うそだ。理由ならある。ただそれを人に言いたくないだけだ。

「簡単に死んでくれるなよ。せっかくの暇潰しなんだから」

どうやら俺は死ねたらしい。

自殺したはずだ。方法は覚えていない。

「それより、暇潰しってどういうことだ?」

「そのままの意味さ。お前は俺の暇潰しのために生まれた存在なのさ。」

さっぱり意味が分からない。

意味が分からないが分かったことがある。この目の前のにやけ面の男は神らしい。

「俺なんて観察して楽しいか?」

「ああ。面白かったさ。雛がよちよち歩きをしているのを眺めているときの気分だったよ」

さらに神は続ける。

「君は死ぬことを許されない。神が許さないのだから君が死ぬことはない」

段々と回りが明るくなってきた。

すこし暖かさも感じる。

「さあ。目を開いてごらん。いつもの景色が君を待っている」

そこで世界は弾けた。粉々になった真っ暗なガラスのようなものが降ってくる。その間から光が漏れてきた。

「願わくばもっと楽しませておくれ」

そこで僕の意識は途切れた……


ground view3


目を覚ました。時刻は午後7時。

どうやら帰って来て寝てしまったらしい。なにか夢を見ていたような気がするがよく思い出せない。

簡単に夕食を済ませるとテレビをつける。テレビの中では芸人がコントをやり笑い声が起こっている。とても空々しく、空虚に感じる。やることもないので寝る支度をする。シャワーを浴びた。ドライヤーで乾かす気力が出なかったのでそのまま布団に入った。


どうか明日が来ませんように……


第一部完



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