ファイナルラップ!(1周目/2周目)

悠川 白水

第1話スタートシグナル

 しのぎを削る。つば迫り合い。名勝負。

 ありふれたこの陳腐な表現ほど、今この瞬間にふさわしいものはない。

「ファイナルラップに突入! 先頭は4……いや5コース、いや、また4コースが抜き返した!」

 真夏の暑さに負けず劣らず、熱気のこもった声を上げる司会者の声など、きっと耳には届いていないだろう。

 男女合わせて5人の少年少女は、その目の前に広げられた純白のコースレーンと、己のマシンを食い入るように見つめていた。

 スロープを上り、フェンスとローラーがこすれる音を立てながら、180度のコーナーを2台のマシンがいち早く抜けていく。他の3台は何秒も引き離されていた。

 呆れるほど長い直線を、時に横一線に並び、時にわずかに前へ出て、そしてまた追い付きながら駆け抜ける。

 しかし、加速に乗ったマシンには酷とも言える……下りのスロープ。

 ガチン、と鳴り響いた硬い跳躍音が、2台のせめぎ合いに終止符が打たれた合図だった。

 ――負けた。

 少年はがっくりと肩を落とし、右隣みぎどなりの少女は満面の笑みでガッツポーズ。

 コースアウトした自分のマシンを係員から受け取ると、自然と目頭が熱くなってきた。そう思ったときには泣いていた。

「男子だったら泣かないのっ」

 後ろから威勢のいい声が聞こえて振り向くと、さっきまで対戦相手だった少女がいた。

「あなたのそのマシン、すごかったじゃない」

 少年と同じ年代であろうが、背はやや低い。首の後ろで、縛った髪の短い房がちょこん、と揺れている。服装をはじめ背格好は、よく学校のクラスにもいる女子と大差ないが、涙でくすんだ視界越しでも、顔立ちがとても可愛い子だなと少年は思った。

 しかし、何よりも悔しさが先に来る少年にとっては、そんな相手の容姿など気休めにもならない。むしろ余計に腹が立ってきた。

「うるさいな。次も頑張れよ」

 少年は怒気どきを含んだ声で言うと、そのまま立ち去ろうとする。

「待ちなさいよ」

 少女は小走りに少年へ歩み寄ると、その両肩を掴みながら正面へと回り込む。

「泣かないの」

 優しく言いながら、少女は少年の額に己の額を合わせる。

「なんとかなるから」

 言葉は、少女の額と両手のぬくもりと一緒に、体の中へと染み込むように少年へと入っていく。その言葉とぬくもりは、今まで体の中にあった何かとぐろを巻いたものを、砕くように、溶かすように体から奪っていく。未だ経験したことがない、とても不思議な感覚だった。

 一瞬の後、額と両肩からぬくもりが消えたのを感じ、両目を開ける。少女はスカートのポケットからハンカチを出して、少年に押しつけようとするところだった。

「また、いつか対戦しましょ」

 涙で視界がよく見えない中、その少女はそのまま後ろを向いて走っていった――

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