23 祭

 そうで思い出すのは躁でとすれば次は鬱で躁鬱病か

 リーマス/炭酸リチウム(100mg錠、200mg錠)は双極性障害や躁病に用いられる薬剤だが統合失調症の治療にも処方される。

 わたしのイメージとしては先ず第一に鬱病のお薬といった感じなのだが。

 どうしてこんな単純な金属塩が中枢神経系用薬として役に立つのかわたしにはさっぱりわからないが中枢神経系に広く運ばれて神経伝達物質や受容体の多くに作用してノルアドレナリンの放出を抑制しセロトニン合成を促進するのがその機序らしい。

 人間の身体とは不思議なものだ。

 一九四九年にオーストラリアの精神科医ジョン・ケイドによって偶然動物に対する効用が発見されて一九五四年にデンマークの精神科医がその発表を正しいと認めて以後ヒトに対する使用が開始されたようだ。

 最初は偶然という科学的発見や発明は数多いがその見本のような薬なのだ。

 躁鬱病の薬剤は他にテグレトール/カルバマゼピン(細粒50%1g、100mg錠、200mg錠)があるがこれは癲癇と三叉神経痛の治療薬でもある。

 こちらの方はいわゆる三環系の化学構造をしているのでリチウム塩に比べれば形がとても薬々して見える。

 母は普段は人形なのだがはしゃぎ出すと止まらないことがあったので躁病の気があったのかもしれない。

 そのときの母は誰にも手がつけられなくて放っておくと白痴美の女のように近所やたまたま姉の留守に家に遊びに来ている姉の男友だちの何人かと目交う。

 母が男の子たちのズボンを下ろして未熟な性器を引っ張り出しそれを天井に向けさせて自分は上から腰を落として挿入しそれをしごく光景には原始の神の祭を見るときのような荘厳で華やいだ雰囲気がある。

 そのときの熱に浮かされた母の身体の動きは激しかったはずだ。

 けれどもそうは見えなかった。

 どこから見ても優雅なのだ。

 忙しない感じは微塵もない。

 母のその動きは地上に舞い降りた豊穣の女神を思わせる。

 その優雅な動きに男の子たちは皆すぐ果てる。

 だから祭には十数人の男の子たちが必要なのだ。

 取っ代わり引っ代わりに男の子たちは精を放ちやがて回復すれば再度再々度と生贄に挑む。

 それが何度も繰り返される。

 秘密の祭は母と選ばれて限られた綺麗な男の子たちとそれを盗み見るわたしとの誰にも言えない異空間だったがその秘密が狭い田舎の村の中で本当に保たれていたのかどうかわたしは知らない。

 けれどもうっかり口を滑らす愚かな男の子はいない。

 祭の際の言動やわずかに不審な行動からそれが予想された男の子は祭の秘密を口にする前に皆変死する。

 あるときは崖から落ちてあるときは耕耘機に肋を砕かれあるときは食肉加工機の中でミンチになって死んでいる。

 わたしの村ではどれも良くある(一年か二年に一度くらいの頻度で起きる)さして珍しくもない自殺法だ。

 その噂が家に齎されるときには母は人形に戻っていて話を振ればあらそんなことがあったのねふうんと応えはするがまったく関心を示さない。

 わたしが長じてから愛した何人もの男たちとの行為に騎乗位を好んだのはそんな母の影響だったのかもしれないと今になってわたしは思う。

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