13 子供

 わたしが自分の子供を何度も殺したのはその子供が綺麗ではなかったからだ。

 父の幽霊がお前は一度だってそんなことはしていないとわたしに言うがわたしには記憶がある。

 声はまだ聞こえていない。

 わたしが薬に負けていたとき声は統合されない人格から聞こえてくるモノで主たるお前の知らないお前たちの要素由来なんだと年寄りの医者に説得されそうになったことがある。

 あのときは声も聞こえない。

 今でも時々聞こえない。

 その代わり声が見えることがある。

 誰にも説明し難いが声はわたしの右上にいてスコット/オバノン/ギーガーのエイリアンの口のような形を見せることもあるが透明で時々わたしの左上にいる。

 セディール/タンドスピロン(5mg錠、10mg錠)はセロトニン作動性の抗不安薬だ。

 セロトニンは心の安寧を司る。

 グランダキシン/トフィソパム(細粒10%1g有り、5mg錠)は自律神経調整薬なのでわたしにはあまり関係ない。

 エイリアンといえばモデルがワラスボ(藁苞)だという説がある。

 ワラスボは学名Odontamblyopus lacepediiでスズキ目ハゼ科に分類される魚の一種で日本では有明海のみに分布し食用に漁獲されるらしい。

 成魚は全長四〇cmに達してオスの方が大きく体形はウナギのように細長く背鰭/尾鰭/尻鰭も繋がり体色は青みがかって青灰色や赤紫色にも見えるらしい。

 目が退化していて頭部にごく小さな点として確認できるのみで上向きに開いた大きな口には牙が並んで独特の風貌をしているが噛まれてもあまり痛くないらしい。

 鱗も退化していて体の前半部に円形の/後半部に楕円形の鱗が散在するがこれらの外見が映画エイリアン・シリーズに登場する宇宙生物の頭部に似ていることからメディアで採り上げられる際はしばしばエイリアンのような魚と比喩されるらしい。

 仔魚は一般的な魚のように大きな丸い目と水平に開いた口を持つが成長するにつれて目が退化して口が上向きになって牙が発達するらしい。

 新鮮なものは刺身/にぎり寿司/煮付け/味噌焼きなどにされることもあるようだが幾分泥臭さがあるためほとんどは内臓を取り除いて干物にされるらしい。

 そういえば田舎の公園のやたらと広いトイレで最初に産み落とした子供はエイリアンのような口で幼いわたしを睨む。

 小学校四年生の頃だ。

 誰の子供なのかはわからない。

 初潮もまだだったからきっと悪魔か普通の悪神か高貴な邪神の子供だったのだろう。

 つるんとしていて引き伸ばしたゴムボールのような形をしていて口以外は無害なゆるキャラみたいだ。

 でも綺麗ではなかったから許せない。

 腹を圧し潰すとギャアアアァと叫んで鋭い歯で噛み付かれる。

 でもそこで手を緩めると生き延びてしまうから頑張って力を込めてぎゅうぎゅうと腹を圧し潰す。

 やがてピュッと白い液体が破れた腹の皮の中から飛び出てきて叫びも動きも痙攣も止まってぐったりとなる。

 それでトイレに捨てて勢い良く流してしまおうとする。

 けれどもトイレの無駄に電化された赤外線センサーが上手く作動しなくてなかなか水が流れない。

 何度手をかざしても掌を圧し付けてもウンともスンとも言わないのだ。

『うん』は東京大学SF研究会の正会誌で本郷生がその昔年一回発行していた時期がある。

『すん』は駒場生が駒場祭に発行する副会誌で割合なんでもありの事実上正会誌らしい。

 他にも『てん』『かん』『へん』『ほん』などの雑誌があるようだ。

 わたしが関わった東大生には変わり者が多かったがSF研の人間はまだまともな方だ。

 ベゲタミン(A錠、B錠)の成分の違いはA錠では塩酸クロルプロマジン25mg/塩酸プロメタジン12・5mg/フェノバルビタール40mgであるのに対してB錠ではそれぞれ順に12・5mg/塩酸プロメタジン12・5mg/30mgが配合されているところ。

 フェノバルビタールの仲間でベンゼン環の代わりにメチル基がくっ付いているバルビタールの別名はベロナールといって血清蛋白の電気泳動で用いられるベロナール緩衝液(イオン強度0・05か0・06でpH8・6が主)を調製するのに用いられる。

 舐めると苦いが今でも向精神薬として用いられているので販売するには麻薬及び向精神薬取締法に従う必要がある。

 それでも何とか水が流れて好奇心で腹から飛び出た白い液体を舐めてみると苦い。

 けれどもその苦かったという記憶は後に東大の生物学教室の研究室でモノは試しにとベロナール緩衝液を舐めてみるまでわたしの記憶の奥に封印される。

 何故封印されていたのかわたしは知らない。

 ねちゃねちゃしていて体液なのに塩辛くなかったのが理由かもしれない。

 今ではそう思うこともある。

 ウインタミン/クロルプロマジン(細粒10%1g有り、12・5mg錠、25mg錠、50mg錠、100mg錠)はフェノチアジン系の精神安定剤だ。

 フェノチアジンはチアジンの両端にベンゼン環がそれぞれ2つ縮環してできた複素環式化合物で黄色の結晶粉末で光に暴露すると徐々に濃緑色になる化学物質だ。

 抗精神病薬以外には殺虫剤/尿路感染症用薬剤/重合抑制剤/酸化防止剤/染料などの原料として用いられる。

 青色の染料でもあるメチレンブルーは日光により劣化するので染料としての実用性は乏しいが酸化還元指示薬としてはとても有名で還元体色は無職/変色電位[V]は0・53/酸化体色は青/使用条件は1M酸性だ。

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