第27話 災禍の中心へ

 呼び出されたクウヤは呼びに来た導師と表に歩いて行く。表にはすでに何人か集まっており、彼は一番最後であった。導師はクウヤたちに話しかけてきた。


「みな、彼らについて行きなさい。道中気をつけてな」


 そう言われてふと見ると、傭兵風の人相の悪い男が4人立っており、クウヤたちを待っていた。クウヤを連れきた導師はその男たちに合図し、出発を促す。出発を促された男たちはクウヤたちを連れて集会所を出発した。少し歩いたところに質素だが大型で頑丈そうな馬車が待っていた。男たちのリーダーと思しき一人が馬車を指し示し、クウヤたちに乗るよう促す。


(なんか怪しい馬車だな…)


 クウヤは馬車を一目見て、大きな違和感と不安に駆られる。馬車には飾りっけがないだけでなく、明かり取り用の小さな窓はあったが、風景を見ることのできるような大きな窓がなく、まるで囚人の護送車のような外見の馬車だったからである。とはいえ他に乗り物はなく、男たちが乗るよう急かすのでクウヤたちは恐々その馬車に乗り込んだ。クウヤたち全員が乗り込むのを確認すると男たちの一人が扉を閉め、男たちも馬車に乗り込んだ。クウヤは動き出した馬車の中で周りを見渡す。彼と似たような年頃の子供が彼を含め、6人いた。どの子供も様々な亜人たちの特徴もっていた。どの子も特に何も喋らず、ただひたすら揺られていた。


 馬車内でじっとしていたクウヤだったが、他の子達が何も話さず、特に周りに感心を示そうとしないので、なんだか我慢できなくなっていた。車内の様子に飽きたクウヤは車内の様子をくまなく観察しだす。薄暗い車内に差し込む光は明るく、馬車が揺れるたび車内を行き来していたが、子供たちは押し黙り、俯き加減で座り馬車の揺れにされるがままであった。時折、光が子供たちの顔を照らすが光の明るさとは対照的に、暗く沈んでいるように見えた。そんな雰囲気に嫌気が差していた彼は口を開く。


「俺、ナガレ。よろしく。君たちの名前は?」


 クウヤが話し始めたが、彼の顔をぼんやりと見た子供が二人いただけで、他の子供は依然周囲に無関心で、彼にも関心を示さなかった。そんな反応に肩透かしを食らった彼はなんとかその場をごまかすため、更に言葉を続ける。


「君たちも魔法を教えてもらいに行くんでしょ?一緒にがんばろうね」


 クウヤは微笑みながら子供たちに語りかけるが、大した反応はなく彼一人だけが浮いてしまう。彼は苦笑するしかなく、しばらく彼も押し黙り、他の子供たちと同じようにただ座っているだけだった。なんとか彼としてはどんな断片的な情報でも車内にいる子供たちから集めたかったが、彼と話をしようとする子供はおらず、彼は四苦八苦する。彼が話しかけても子供たちは反応せず、また彼が話しかけるというやり取りを繰り返した。


 そんなやり取りにクウヤが疲れ果て眠りについてしばらくすると、車内へ差し込む日の光が朱に染まり始めた。ちょうどその頃、馬車が目的地に到着する。傭兵くずれたちが馬車の扉を開け、クウヤたちに馬車から降りるよう促す。馬車を降りると見知らぬ山奥であった。近くには山々がみえ、あたりには木々が鬱蒼と茂っていたが馬車が止まったところは広場のようなっいた。クウヤたちが降りると同時にそこで男たちが馬車から積んでいた荷物を下ろし始める。男たちの一人がクウヤたちを集め、付いてくるように指示する。クウヤたちも特に何も言わず言われるがまま、男について森の奥に続く小道を奥へ歩き出す。森の奥へ続く小道は暗く、陰鬱な雰囲気さえ醸し出していた。


(また、怪しげな雰囲気の場所だな…。こんなトコロで人間爆弾を?)


 しばらく小道を歩くと奥に崖が見えた。その崖には洞窟があり、入り口には何人か門番のような男たちが立っていた。傭兵くずれは門番たちに何か見せたあと、クウヤたちを呼び込んだ。大した感慨もなく、クウヤたちは洞窟内へ入る。


 洞窟内は入り口こそ暗く、得体のしれない雰囲気があったが、奥へ行くと明らかに人工的な通路が奥に続いており、壁面に光る玉が列び入口付近に比べると比較的明るかった。ただ、何やら怪しい雰囲気は消えなかった。奥からは何の薬草かわからないがそれらしい匂いが流れてきたし、人がいる雰囲気はあるのにもかかわらず、賑やかさがないことがクウヤに不信を抱かせた。傭兵くずれの男は何も言わず奥へ奥へとクウヤたちを誘導するだけで、彼のそんな疑念には一切答える様子はない。その男はある部屋に入り、クウヤたちを招き入れた。クウヤたちもそれに続いて、入室する。室内には粗末な机の向こうに怪しい雰囲気の老人が座っていた。


「ようこそ、魔法訓練所へ。君たちはここで優秀な魔法使いとなるための鍛錬を行うこととなる。優秀な魔法使いとなるためには様々な困難を乗り越えなければならない。諦めず最後までしっかり訓練してほしい」


 そう形式的な挨拶をし終えると机の上の書類に没頭し始める。その姿を見て男はクウヤたちをまた別の部屋へ移動させる。部屋を出て、クウヤたちは男を先頭に光列の続く通路を歩く。少し歩いたところの扉の前で男は立ち止まり扉を開ける。


「今日から、ここがお前たちの家だと思え。さぁ、中へはいれ!」


 男にそう言われ、クウヤたちは中へ入る。部屋の中には二段ベッドが3台あり、その奥の方には机が並べられた小部屋のようなものが見えた。


「ベッドは好きに使え。奥にロッカーもある。適当に割り振って使え。それから飯は食堂で食うことになっている。ただし勝手に行くな。人が呼びに来るまでここにいろ。基本的にこの部屋以外を自由に出歩くことは禁止だ。何かあるときは、あとで紹介するが、世話役に話をしろ。いいな!」


 男は有無を言わさない物腰で一気にクウヤたちへ説明した。クウヤたちもその説明に頷く以外なかった。言うだけ言うと男は部屋を出て行った。


(さて、これからどうするかな?こんな部屋に閉じ込められたら、身動きが取れそうにないんだが…)


 クウヤは男の説明に当惑しながら、次の行動について思いを巡らした。ただ、現状では策はなく、状況を見守る以外方法は思いつかなかった。

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