ACT.9 無言の優しさと策なき希望

━━クリストファーくんの説明は続きます━━



「理由は多分………。」


咲哉をじっと見つめています。


「貴方にはを認識できません。いや、おありなんでしょうけど………あの、ちょっと見えちゃったんですよ、すみません。…………すごくお綺麗な人だなとは思ったんです。でも、男性か女性かまではわからなくて……。」


顔を真っ赤にして話すクリストファーくん。え!?咲哉、美人なの?!超見たい!(チラッチラッ)……見えない。


「"VRMMORPG"って本人の"性別"は変えられないんです。そこだけは基本に則っているわけなんですけど………。出会った方もちょっと分かりにくかったんですが、でした。サクヤさん、貴方は喋らないのもあるし、お顔でもどちらにも取れます。他の方はわからないんですけどね。」


少し苦笑するクリストファーくん。ホント、一言もしゃべりませんよねー。


「あと、もう1つ確認させてください。……貴方にはボクの名前は見えていますか?」


首を振る咲哉。私にも見えません。


「……そうですか。昨日の自己紹介のときも、本当は名前なんていう必要はありませんでした。でも、現実世界では名札があっても自己紹介しますから、それみたいな感じで。貴方は初心者だから何も言わない、無口な方だと認識していたんです。」



\デフォルト機能万歳/



ではなく、皆さん気をかけて頂いていたと……ありがとうございます!


「僕の出会った方も見えていなかったことを思い出して、まさかとは思いましたよ。でもその方は、サクヤさんとは違っていたんです。『非常識区分セレクター』を知っている風でした。確認はしていないんですが、頻りに『。』と繰り返されていて……。確かに、僕の聞いたの方は現在のだと言われています。」


ナンダッテー!……ホントに非常識極まりないですな。


「本当かどうかなんてわかりません。噂にすぎないんですけどね。"NPC"であった"魔王"は倒されたのは事実です。けれど、誰に倒されたかまではわかりませんし。本当ならば、その『非常識区分セレクター』が成り代わったというのも頷けます。あくまでこれは、仮定のお話です。」


そうですね。作り話にしては出来すぎているけど。


「それと、最初の『非常識区分セレクター』さんなんですが………。になっていて、"player"に倒され、亡くなったというお話です。真実かはわかりません。でも、亡くなったことだけは真実なようです。」


御愁傷様です……。要するに『非常識区分セレクター』というのは、力を有する。しかし、そのである可能性が高いと。この十年倒されていないは生き残るために必死に、挑戦者の心を折っている。そういうことですかね?あ、最初の人はわかりません。

の人はソイツを倒して、最強のを目指してるキチガイ野郎ってことでしょうか。



「……貴方を『非常識区分セレクター』ではないかと疑ったのには、最大の理由があります。そう、さっきも言いましたが、貴方がです。分かりやすくしましょう。この世界ゲーム、逸脱したシステムは、能力にあります。僕のような魔法職は然程左右されないんですが、他の職は現実で鍛練を積んだ人には有利なんですよ。多少は初期でステータスをいじれますが、微々たるものです。……サクヤさん、貴方は弓道されてますよね?それもかなりの熟練者だ。」


……咲哉は静かに頷いた。えー?!そうなの?!リアルチートってそっち?!


「……やっぱり。不思議ではあったんですよ。左右される職を初心者が選ぶ時点で、好奇心だけでは無理がありますから。"player"なら幾ばくかの補正がありますが、貴方にはないんですから。有っても、"ドラゴン"を倒すなんて尋常じゃありません。………そうなんです。僕の出会った"男性"も小柄なのに剣道の師範代らしくて、恐ろしく強かったんです。きっと、共通点はなんじゃないかと思います。」



……ちっちゃい男の子が恐ろしい勢いでモンスター倒してるの想像しちゃいました。やだなー。怖いわー。あー、咲哉は尊敬レベルで強いなとは思いました。



「……他にもがあります。この世界ゲーム創始者マスターが誰だかわからないことです。元々、このゲームは無料ダウンロードなんですよ。まぁ、専用の機械は必要なんですけど。3000δ(ウィ)くらいなので子どものお小遣いでも買えます。」


マテマテマテー!『δ』ってなんぞ?お金の単位みたいだが……、これはまさかの…………異世界のゲームに呼ばれちゃった感じですかー?だったら、"VRMMORPG"が実装している平行世界パラレルワールドがあるのも頷けます。


「それに容量もかなり軽いので、携帯端末も対応しているんです。」


うわぁい、ここまで来たら驚かないぞー………。めっちゃ怪しいゲームやん……。どの世界も"無料"がお好きなのね。"タダほど怖いものはない"って誰か教えてあげてー!……咲哉も100円で買いました。安いもの、危険です。今更ですが、咲哉は現在も動じているのかいないのかさえわかりません。受け入れないでー!未知の単位出てきたよー?


「ゲームってかなり高価だから、無料なんて滅多にないんです。僕、高校生なんでお小遣いも少ないし。」


……高校生?!何か、虐めに有ってるからゲームにのめり込んでます的な話なら遠慮したいです。


「……ところで、今更ですがサクヤさん、どちらなんですか?」


直球!?対する咲哉は……………黙秘権なようです。


「……すみません。女性だったらいいなって思ってただけなんで、気にしないでください。」


引いてくれました。でも多分、この人は社会人ですよ?


「……大事なことをいい忘れました。このゲーム、僕は二年前に始めたんですが……。」


君は二年間、何をしていた………ああ、デスペナ祭りで……御愁傷様です、よく続けてますね。……"無料"って怖い。


「20年前からあるようで、軽いメンテは定期的にあるんです。それで、数年に一回、ランダムで大規模アップデートが行われるんです。そのアップデートごとに異変が起き始めたそうです。今のように設定に徐々に変わっていきました。僕が始めたときは丁度一個前のアップデートの後だったんです。……アップデートが行われるときに『非常識区分セレクター』が償還されているようなんです。サクヤさんで納得せざる得なくなりました。……最新のアップデートはつい、だったんですから。」


あら、咲哉が来たときと丁度被りますね………。


「サクヤさん、貴方は………になりたいって思いますか?」


少し間が空く。咲哉は静かに首を振りました。


「……安心しました。何となくそうかなって思ってはいたんですけどね。貴方からは何も感じなくて、寧ろ優しい感じがしましたから。………だって、見捨てないで宿屋に泊めてくれましたし。」


確かに、咲哉だけが君を置き去りにしませんでしたね。


「このゲーム、ログアウトしてもキャラクターはそのままなので、エラー落ちや寝落ちなんかした日には………。」


………デスペナ祭りの大半がそれなんですね。


「クエストしてなくても、宿屋か街中でログアウトしないと悲惨です……。」


君の惨状は鬼畜化したシステムによるものが多いと…御愁傷様です。咲哉がゲームの基本、押さえてて良かったですね。


「……『非常識区分セレクター』さんの方が大変ですけどね。見た目のお話しましたが、ベースは実物ですけど細かいパーツは変更出来るんです。でも、以前お会いした方もサクヤさんもリアル過ぎて違和感があったんです。最初はそう見えるように工夫したのかなって思いましたけど……で償還されているのだとしたら、納得出来ます。……現状では納得したくないですけど。」


あー、方がいるんですよね。咲哉はまんまだから、可能性は高いですね。何せ名前以外、レトロ過ぎて選択肢なかったんですから!さて、『非常識区分セレクター』及び『非常識区分スケープゴート』・『創始者不明アンノウンマスター』・『無料ダウンロードゲーム』・『鬼畜仕様』・『アップデート償還』。


色々出てきましたよ。なんていないのが頷けます。でも、考えて見てくださいよ。優しさを垣間見せる咲哉。弓道の熟練者の咲哉。もしかしたら、本物のになれるかもしれない。


は元々人間かもしれない。倒さずとも何か手があるかもしれない。諸刃の刃、犬と鋏は使いよう。今はまだ策はないけれど、咲哉が変えてくれるかもしれない。……信じるしかないんですけどね。



******ACT.10へ******

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