パーティーを組む事にしました。
「ど、どうも」
俺は笑顔を浮かべながら甲冑の人の前に立つ。甲冑の人は微動だにせず無言で俺をじっと見てくるだけ。
「俺の名前は宇都宮卓海っていいます。あなたが湿地帯へと向かう仲間の募集に応募してくれた……えっと」
あ、そう言えば。俺まだ応募してくれた人の名前知らないや。どんな人かは訊いたけど、名前までは訊いてなかったな。
「……アズサ」
と、甲冑の人が声を発した。少しくぐもってて性別が判断つかないけど、今は気にしなくていいか。
「クロウリ・アズサ。それが僕の名前」
「あ、はい。クロウリ・アズサさんですね」
成程、クロウリさんか。何か日本人っぽい響きだな。もしかしたら同郷かもしれない。
けど、俺以外にも日本からここに来た人がいた筈。それを踏まえると、結構昔に異世界に転移した人の子孫なのかもしれない。
取り敢えず、日本人確認は後回しにして俺は改めてクロウリさんに確認を取る。
「それで、クロウリさんは仲間募集に応募してくれたんですよね?」
「うん」
クロウリさんはそう言うが、頷かない。ヘルムの構造上、首肯し難いのかな? まぁ、その質問は後だ。今は他にも訊く理由がある。
「所で、どうしてクロウリさんは応募したんですか?」
「アンデッドを倒したいから」
クロウリさんは淡々と言葉を紡ぐ。
「アンデッドの落とす素材が魔法のいい触媒になるから」
「あ、そうなんですか」
「うん。普通の魔法の触媒には向かないけど、黒魔法の触媒には最適だから。僕はまだ成り立ての黒魔法使いで、強力な魔法を使う為に必要なんだ。でも、一人で行くのは無謀だからあなたの仲間になろうと応募した」
と、クロウリさんが語る。成程、クロウリさんは黒魔法使いか。
普通の人でも魔力さえあれば教えて貰う事で魔法を扱えるようになる。けど、それだけでは魔法使いとは呼ばれない。この世界では一つの属性に突出した才能を持ち、師事された魔法使いから認定されれば魔法使いと名乗る事が出来る。
魔法の属性は赤、青、黄、緑、白、黒の六つ。赤は炎や熱を司り、青は水や冷気を、黄は風や雷を、緑は木や土を、白は光や癒しを、黒は闇や呪いを司っている。
……と、簡易ガイドブックに書いてあった。因みに、魔法使いは他の属性の魔法も使える事は使えるが、一つに突出し過ぎている為に普通の人よりも効力は弱くなるらしい。その分、突出した属性の魔法の効力は桁違いだとか。
で、黒魔法使いのクロウリさんは強力な魔法を使う際には触媒が必要。その触媒はアンデッドの素材で、ここらでは湿地帯くらいにしか出没しない。そして、一人では無謀と判断して丁度仲間募集の貼り紙があったから応募したと言う訳か。
成程成程、でもさ。ちょっと疑問がある。
「えっと、今更なんですけど俺なんかと一緒にパーティーを組む事になってもいいんですか?」
「他の人に声を掛けてみたけど、皆声を掛けたら何故か挨拶をして後退りして遠ざかって行った。だから、仲間の募集が見付かったのは渡りに船で、こうしてきちんと面と向かって話してくれるのは嬉しい」
「そう、ですか」
遠ざかって行ったのは、その甲冑に魔法使い装備をしているからだろうな。傍から見れば奇抜すぎるし。ちょっとお近づきにはなりたくないよ。
「でも、言っては何ですけど、俺はまだレベルが11しかありませんよ?」
「大丈夫。僕もレベル11しかないから」
「え?」
俺は思わず驚いて声を漏らしてしまったが、直ぐにあぁ、と納得する。
そうだよな。この駆け出し冒険者に優しいトラストの町で冒険者登録するくらいだから、そこまでレベルが高い訳じゃないよね。
「今までずっと魔法の修行ばっかりやってたから、あまり魔物を倒してなかった。だから、レベルは低い」
そう言うと、クロウリさんはゆっくりと膝の上でグーを作っていた手を背後に回し、そこから冒険者カードを出して俺に見せてくる。
『名前:クロウリ・アズサ
性別:女
年齢:十六
レベル:11
体力:E
筋力:E-
敏捷:F
耐久:E-
魔力:B+
幸運:B-
ポイント:0
スキル:【詠唱省略Lv2】【魔力制御Lv2】
魔法:【黒魔法Lv5】【赤魔法Lv0(MAX)】【青魔法Lv0(MAX)】【黄魔法Lv0(MAX)】【緑魔法Lv0(MAX)】【白魔法Lv0(MAX)】
称号:【異世界人の血を引く者】【黒魔法使い】』
ヤバい、ステータスが極端過ぎる。魔力と幸運は高いけど、他は全てランクがE以下だ。しかも、敏捷のランクはFとなってる。
そして、魔法は全属性習得済みか。でも、黒以外の属性はまさかのLv0で、しかもこれ以上成長する事はないという(MAX)表記付きだ。一つの属性に突出すると他の属性の魔法の効力が弱いってのはこういう事か。
あと、称号に【異世界人の血を引く者】とある。つまり、クロウリさんには日本人の血が流れているみたいだ。生粋の日本人じゃないけど、同郷の人の血が流れてる人が普通にいる事に俺はちょっと安堵する。
で、クロウリさんは僕っ娘だそうです。俺よりも一歳年上のお姉さんかぁ。甲冑で全身隠れてるけど、身長は俺と同じくらいかな? もしくはちょっと高いか?
冒険者カードをクロウリさんに戻しながら、ふと思った事があったので口にしてみる。
「あの、甲冑着てるのって、もしかして低い耐久を補う為ですか?」
「うん。敏捷も低いから避けるのも苦労する。だから、いっその事甲冑に身を包めば耐久は上がるし、避ける必要もあまりない」
どうやら、俺の予想は的中したようだ。そっかぁ、そう言う理由で魔法使いなのに甲冑を着ていたのか。と言うか、それで動けるのだろうか? 筋力E-ですよね? 動かすのに結構力入るだろうし、体力だって相当使いそうな気がするんですけど。
「けど、これ着て動くとかなり疲れる。移動する時はちょっと動いて休んでの繰り返し」
やっぱりそうですか。でも、一人の時は誰も手助けなんてしてくれないから、こうして身の安全は自分で確保しないといけないんだよな。けど、魔物に取り囲まれたら一巻の終わりな気がする。そこがソロの辛い所か。
「あっと、俺のも見せた方がいいですよね」
俺も自分の冒険者カードを取り出してクロウリさんに渡す。
『名前:宇都宮卓海
性別:男
年齢:十五
レベル:11
体力:D+
筋力:D+
敏捷:C
耐久:E
魔力:F
幸運:C
ポイント:45
習得可能スキル:【逃走Lv1】(消費ポイント10)
スキル:【卓球Lv1】【殴打Lv1】【斬撃Lv1】【精密向上Lv1】
魔法:なし
称号:【異世界からの流れ人】(隠蔽中)』
俺のステータスは昨日の逃走劇の末に敏捷が上昇し、新たなスキル【逃走Lv1】が習得可能になっている。このスキルは文字通り習得すると逃げやすくなるそうだ。
「……【卓球】?」
と、クロウリさんはどうやら卓球を知らないみたいだ。日本人の血が流れてても、流石に分からないか。
「簡単に言えば、球を打つスキルです」
「球を打つ?」
「はい」
「……そう」
クロウリさんはそう呟いて冒険者カードを俺に返してくる。
「それで、どう?」
「どう、とは?」
「僕と組んでもらえる?」
クロウリさんの問いは少し不安げな気持ちが隠れている。少なくとも、俺はクロウリさんと少し話してこの人なら大丈夫だろうと思った。だから、クロウリさんとパーティーを組んだ方がいい、と直感が告げている。
なので、俺は強く頷く。
「勿論です。これからよろしくお願いします」
「よろしく」
俺とクロウリさんは固い握手を交わす。これにて、パーティー結成だ。
「ただ、直ぐに湿地帯に行くのは止めましょう。互いに何が出来るのか把握し、実戦も経験しないと」
「うん。勿論」
こうして、俺とクロウリさんはパーティーを組み、明日の昼過ぎに外に出てスライム相手に実戦をしてみる事となった。
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