第5話大槌町の花嫁
あの子はほんとにいい子だったんです。あの津波と震災さえなければ、今頃幸せでいっぱいだっぢろうに。。。
そう語るのは岩手県大槌町の町長さん。宮下さんだ。
「あの日は晴れいて、3月にしては寒い日でした。あの大きな地震が来て津波が私達の役場を襲いました。」
ガタンガタンガタンガタンガタンガタン。大きく揺れて、天井から、電気や、机の上の資料やら、棚やら落っこちてきました。私達は、自分達の身の安全をまず、確保し、2階にある放送室で、街の人達に、避難を促したんです。
「こちらは大槌町役場です。皆さん!!只今、大きな地震が発生しました。津波が、予想されます。直ちに高台に避難してください。」
この放送を流したのは私の部下で相川美香さん。当時20歳。次の日3月12日に、結婚式を挙げる予定だった、新婚さんです。
「あと、1回放送流したらあなたも、早くこっちに来なさい。」
「分かりました。町長たちは先に!!」
「おう。一刻も早く来るんだぞ?!」
それから、しばらくすると津波が、もい、目の前まで来ました。彼女は、一向に上がってきません。
「なにしてる!早くこっちに来なさい。」
「私。。行けません。まだ逃げてない人がいるかもしれないから」
「何言ってるんだ!このままじゃ、君まで津波にのまれるぞ!」
彼女は、私の注意を無視し放送を繰り返した。
私は、怖くなり急いで屋上を目指した。もうすぐそこまで波は来ている。とてつもなくゴゴゴーという唸り音を上げて。。。
「皆さん!!早く。。。高台に避難してください。繰り返します。津波が、もう、そこまで来ています。大至急避難をしてください。」
彼女の声は街中に響き渡った。とその時、私達の役場にまで津波が来た。彼女は、、?
「皆さん!早く。逃げ。。。。」
放送は、途中で途絶えた。
彼女は、最後の最後まで、街の人達に、避難を促し、自らが津波の犠牲になった。
心配になり、降りようとしたのも、ときすでに遅し。すぐそこまで水は来ていた。彼女は津波の犠牲になった。その場で私は、泣き崩れてしまった。
波が引き、彼女は流され数百メートル先で1週間後に遺体となって見つかった。彼女は最後に自分の母親に携帯で、メールを送っていた。
「お母さん、ごめんね。あたし、助からないかもしれない。今までありがとう。あなたの娘でよかった。」
彼女の命がけの放送で街の人達が、どれだけ救われただろうか。まだ生きていたら、きっと今頃は、幸せな花嫁さんだったのに。
そう言いながら悔やんでも悔やみきれず、町長は、その場で涙を流した。
わずか20歳の花嫁。短すぎる生涯。責任感が強く、自分の命を犠牲にしてまで、街の人達を救った気持ち。私には真似できない。同じ女として、尊敬と敬う気持ちで、いっぱいになった。その話を聞いた時、言葉を失った。悲しみが、私の心を支配した。
今ではその役場が、あった場所に、彼女の行為に敬意を讃え、遺影碑ができていた。何もない野原にポツンと。周りには花束やジュース、彼女が生前好きだったものが、沢山並んでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます